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【NEXUS28】須藤拓真と仕切り直しの防衛戦、河村泰博「人とは違うことをしたいんです」

【写真】ある意味、下と下の争いという現代MMAにあって――まさに人とは違う試合展開となるのか(C)SHOJIRO KAMEIKE

7日(日)、東京都新宿区のGENスポーツパレスで開催されるNexus28で、バンタム級王者の河村泰博が須藤拓真を挑戦者に迎えて防衛戦を行う。
Text by Shojiro Kameike

当初この試合は、2月13日に開催されるはずだった。しかし河村が試合前にコロナウイルスに感染したため中止に。今大会で仕切り直しの対戦となった。その間、須藤はRIZINに出場して渡部修斗に勝利。一方の河村はパンクラスに出場予定であったものの、今度は対戦相手の負傷により試合が消滅している。その時間が、今回の試合に与える影響はあるのだろうか。試合直前、王者の河村に訊いた。


――河村選手は今年に入り、2試合が連続で中止となりました。まず2月に行われる予定であった須藤拓真選手とのタイトルマッチは、河村選手がコロナウイルスに感染したために中止となっています。その時の状況から教えていただけますか。

「まず家族が感染して、自分は濃厚接触者になりました。その段階でプロモーターサイドには連絡していたのですが、数日後に僕も体調が悪くなり……。調べてみたら自分も感染していて。それが判明したのは、試合まで2週間を切ったぐらいのタイミングでした。

かなりコロナが流行っていた時期で、そこから2週間の外出禁止になりました。職場も2週間の出勤停止になり、試合もプロモーターと協議して中止としていただきました」

――現在は第7波と言われ、コロナウイルスの感染者も急増しています。格闘技関係者でも感染している方が多いのですが、その時はご自身が感染して、どのように思いましたか。

「まさか自分が……という感じでした。しかも、このタイミングで。大会のメインを務めることになっていて、対戦相手はもちろんプロモーター、お客さんにも申し訳ない気持ちでいっぱいでした」

――次に、4月29日にパンクラスで予定されていた高城光弘戦は、高城選手の負傷によって中止となりました。この試合のオファーは、コロナ療養中に来ていたのでしょうか。

「いえ。2月にタイトルマッチが行われていても、その勝敗に関わらずパンクラスが僕を出したいというオファーが、山田代表(山田峻平ネクサス代表)のところへ届いていたようで。山田代表はタイトルマッチが終わったあとに、その話を僕に伝えようと考えていたそうなんです。

でもタイトルマッチがなくなってしまいました。本来は5月にタイトルマッチを仕切り直す予定だったらしいのですが、対戦相手とスケジュールが合わなくなって。『それならパンクラスで1試合挟んでもいいよ』という話になったんです。それでパンクラス出場を決めて準備していたという流れです」

――その試合も中止になった時の心境というのは……。

「意外と前向きな気持ちでしたね。パンクラスの試合が決まる前から、いずれどこかのタイミングで須藤選手とのタイトルマッチはやることになっていて。だから、次の試合が無いということはない。4月の試合までは、しっかり追い込んで練習もできていましたし、仕切り直しの須藤戦に向けて気持ちを切り替えることができました」

――なるほど。ここから少し河村選手のキャリアについてお聞きしたいのですが、MMAを始めたのはいつ頃でしょうか。

「大学生の時です。高校生の時にブラジリアン柔術を始めていたのですが、もともとMMAをやりたくて柔術道場に通っていました。でも親から『MMAはダメだ』と言われて……。サークルみたいなところで柔術を始めてから3年ぐらい経って、MMAをやるために今の和術慧舟會AKZAに入会しています」

――高校生の時に柔術を始めたキッカケは何だったですか。

「ずっと野球をやっていたんですが、当時は格闘技ブームで。自分も格闘技が好きだったので、思い切って始めてみようと思いました。2005年、2006年ぐらいの話ですね。PRIDEやK-1 MAXがあった時で、僕はPRIDEを見てMMAをやりたい、と。あの頃は桜庭選手や五味選手の試合を、それこそビデオテープが擦り切れるぐらい見ていましたね」

――桜庭選手や五味選手の試合を見ながら、レスリングやグラップリングではなく柔術を学び始めたのですか。

「実は……桜庭選手とヒカルド・アローナの試合が、すごく印象深くて」

――2005年6月、アローナが4点ヒザで桜庭選手を負傷TKOに追い込んだ試合ですね。

「そうです。あのヒザ蹴りで桜庭選手の顔がボコボコになっていたのに驚いて。アローナやブラジリアン・トップチームのメンバーってカッコいいな、と思ったんです。この人たちは何だろうと思って調べたら、ブラジリアン柔術にたどり着きました。

同じBTTでは、ノゲイラ(アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ)も凄かったじゃないですか。親がMMAはダメだと言っていたのは、打撃が理由だったんです。だったら柔術をやってみたいと思って」

――河村選手がMMAの試合では三角絞めによるフィニッシュが多いのは、もしかしてミノタウロの影響なのでしょうか。

「いえ、そんなには意識していないですね……。三角絞めが得意になったのは、たまたまです(笑)。もともと手足が長いので。初めて出た柔術の試合で、三角絞めで勝ってから得意技になっています。アマチュアMMAも三角絞めで勝ったことが多いんですよ。

自分が三角絞めを好きになったのは、青木真也さんの影響が大きいと思います。PRIDEからMMAを見始めて、他のプロモーションも見ていたら修斗にメチャクチャ寝技の強い人がいるぞと。それが青木さんでした。当時は下からガンガン攻めていたので、僕もそれを真似していました。僕も柔術でラバーガードばっかりやっていましたね(笑)」

――ただ、青木選手もそうであったように河村選手もトップゲーム主体へ移行することはなかったのでしょうか。

「それは考えた時もありました。でもトップゲームで相手を固めて時間を過ごすのは、練習でも試合でも楽しいとは思えなくて。やっぱり僕はタップを奪いたいんですよ。トップを奪って5分間制圧しても……それよりは一本を目指したい。じゃあ自分が何で一本を取れるのかといえば、下からの三角絞めとか、下から攻めるほうが得意なので」

――そうだったのですね。昨年7月の福島啓太戦はケージレスリングの末に最後は下から三角絞めを極めたのは、なぜなのだろうかと思っていました。

「福島戦も最後に僕がバックを奪ってから、周りが『削ったほうがいい』と言っていたんです。でも僕は、削るより一本を取るほうが楽なので(笑)。バックを奪ってから、相手はこう動くから、そこで一本取れるなっていう考え方のほうが先にありました」

――そのほうが確実に勝利できるのであれば、当然の選択ですよね。

「試合をしていても、どんどんその方向性になっています。正直、抑え込むのって疲れるじゃないですか。だから一本取って早く試合を終わらせたいですね」

――一方で、これまで相手がトップゲームを選択して、河村選手が敗れることもあったと思います。

「はい、ありました。でもそこで自分を変えようとは思いませんでした。判定で勝っても面白くないですし、あとは僕に求められているものは打撃で勝つことや、抑え込んで勝つことではないと思うので。だから、それに特化したほうがよいと考えています。

もちろん、僕自身もそうやって勝つ練習もしています。でも試合が始まると、やっぱり寝技をやろう、寝技で勝ちたいという気持ちになってしまうんですよね(苦笑)」

――今の河村選手にとっての目標は、一本で勝つことなのか。それとも勝ち星を増やして、より大きな舞台で進むことなのか……。

「目標ですか。うーん……やっぱりPRIDEを見て育ってきたので、大きな舞台で戦いたいという気持ちはあります。でも、それと同時に、人とは違うことをしたいんですよね。MMAでも打撃で勝つことや、トップゲームで勝つことが主流になってきたじゃないですか。そんななかで、他とは違う寝技で勝ったほうがカッコいいなと思っています」

――では、そうやって過ごしてきたキャリアの中で、昨年11月の佐藤将光戦の結果と内容については、どのように受け止めていますか。

「試合をする前は、結構いけるんじゃないかという気持ちがあったんです。でも実際に対峙してみたら、明らかに佐藤選手は強いなっていうことが分かりました。試合が終わって、単純に実力差があったなと。それは僕自身が一番分かっています。

試合内容でいえば、最初に僕のジャブが当たって、打撃の距離が良いと感じたんですよ。ただ、そこに迷いみたいなものが生まれて……。本当だったら寝技で勝負するのに、そこで佐藤選手を相手に『他のこともできるんじゃないか?』と思ってしまいました。

何より――佐藤選手が強かったから、その迷いが生まれたのかどうか。それが分からないままでした。あの試合は、自分の力を出せなかったことが一番悔しかったです」

<この項、続く

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