この星の格闘技を追いかける

お蔵入り厳禁【Special】月刊、柏木信吾のこの一番:5月:渡辺華奈✖デニス・キルホルツ「過去2年」

【写真】コロナ禍の11カ月間に米国&欧州で3試合。この間に、これだけの経験した日本人選手は渡辺だけだ (C)BELLATOR

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。3人の論客から、柏木信吾氏が選んだ2022年5月の一番。13日に行われたBELLATOR281より──お蔵入り厳禁──渡辺華奈✖デニス・キルホルツ戦について語らおう。


──柏木さんが選んだ5月の一番は?

「渡辺華奈選手とデニス・キルホルツの試合ですね。海外でアウェイで戦ううえで、ミニマム・サポートで通訳をつけているわけでも、英語を話せる人と英国まで行ったわけでもなかったです。そういう環境のなかで、勝ち切る。愚直に勝ったことは凄いことで、渡辺選手の気持ちの強さを感じました」

──英語が分からず状況を把握できないから、アウェイということなのでしょうか。そうでなくBellator規模のプロモーションでも、日本の選手にアウェイの洗礼とかあるものなのですか。

「いえ、それはベラトールのホスピタリティはしっかりとしています。今回、現地についてから渡辺選手から、困ったことがあって連絡が入るということは一切なかったです」

──そこは言葉の壁だけで、信頼関係があれば問題ないということですね。

「そうですね。スコット・コーカーも『ワタタベは家族のようなものだ。心配するな』と言ってくれていましたしね」

──ならば英語が理解できなくて、モノゴトが動いているなかで大きく構えられる人って強いですね。

「英語が通じないから、分からないことを気にすると、精神的にも大変になってしまいます。渡辺選手たちも2度、3度と海外での経験を積んで、不便になる要素を消していくことをやっていました。海外でファイトウィークを過ごす……これは過去2年間、ほとんどの日本人選手ができていないことなので、彼女は凄いことをやってきたんだと改めて思います。

試合からも技術的というよりも、精神的な強さを感じました。グラウンドで顔面に蹴りを貰って中断したシーンがあったじゃないですか」

──スタンドで再開になった場面ですね。

「レフェリーは五分の展開だったのでスタンドで再開したということだったんです」

──あり得ないです。アクシデントだろうが、反則を犯した方が得をするリスタートなんて。

「ハイ。渡辺選手が、グラウンドで試合をしたくてあそこまで持っていったという展開でした。彼女はそこにいたかった。スタンドにいたくないからグラウンドに持っていったのに、相手の反則でフィフティ・フィフティだからスタンドに戻すというのは違います。

ビッグジョン・マッカーシーも解説で『反則をされた人間が選択権を与えられても良かったんじゃないか』と言っています。それを一方的にスタンドに戻された渡辺選手も『えっ、スタンド?』って声に出していました。

相手の反則なのに、自分の望まないスタンドに戻された。動揺したはずです。あの判断を引きずるかどうかで、リスタート後の試合展開は全く変わったと思います」

──気落ちする……あるいは緊張の糸が切れることもあったかと。

「でも彼女は再開してから、すぐにシングルにいきました。ボディロックが多い彼女がシングルレッグを取りにいった。MMA選手として、自分の得意分野を生かすための武器を増やしていた。練習してきたことを着実にやり切った。あの展開で挫けずに、それを出せた。本当に精神的に強いと感じました。

あの試合がホームだったら、また気持ちは違っていたと思います。逆にもっと引きずっていたかもしれない。でも、もうアウェイだから抗議してもしょうがない……しかも英語が話せないから、抗議もできない。ホンの1秒とか2秒で気持ちを切り替えることができた」

──素晴らしいです。と同時に、日本人選手はセコンドも含め、海外で審判に抗議するというのはMMAではほぼ見た記憶がないです。

「それは言ってもしょうがないっていう風になるのでしょうね」

──自分の想い通りでないのに頑張れる気持ちの強さと、抗議できる強さ。別種類ですね。

「抗議して通じないと、気持ちが折れるということもままありますしね。不貞腐れて、投げてしまうとか。そうでなく飲み込んで、自分のやるべきことをやった。素晴らしかったです。

と同時にキルホルツが、打撃の選手でMMAに対応してきた。そういう選手を攻略するのに相性が良かったです」

──つまりは前回も話されたMMAになりきっていない、得意分野で勝てて穴のある段階の両者の対戦だったわけですね。それにしもて、キルホルツの打撃は強力でした。

「危ないシーンもありました。カモーシェ戦を思い出させるような。左フックを食らった直後に、首を取ることができた。あれがライフラインでしたね。あそこで離れられると、大内刈りは決まっていなかったです」

──渡辺選手に続く、日本人選手が出てきてほしいです。

「ベラトールで戦いたいという声は聞きます。同時に日本人選手だからこそ、日本で価値を上げるということを理解している選手もたくさんいます」

──日本で戦う機会を待ち。勝って、価値を上げて乗り込む。タイミング的には渡辺選手は2019年12月に日本大会で勝った。そして、コロナ禍では海外で戦ってきた。個人的にも渡辺選手のやってきたことは、やはり格好良いです。

「立派です。本当に、あの環境で結果も残している。と同時に外国人選手の入国も再開されたので、強い選手と戦いたいと思っている日本人選手がRIZINでやりつくしたと思える。そんな相手を用意することが、僕の役割だと思っています」

<この項、続く

PR
PR

関連記事

Movie