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【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ロドリゲス✖マシャード「法則性と再現」

【写真】UFCとの契約に向けて意識の高さと、重心のコントロールに良さが見えたロドリゲスだが、前回の試合のようにエネルギーで前進するという動きはできていなかった (C)Zuffa/UFC

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たピエラ・ロドリゲス✖ヴァレスカ・マシャードとは?!


──ピエラ・ロドリゲスが4月にLFA女子ストロー級王者になった試合で、岩﨑さんは『ロドリゲスは前進した時に質量が上がる。エネルギーが出ている移動。それがなくて前に出ると相手のパンチを被弾するだけ。しかもロドリゲスは前進してエネルギーを伝えるのではなくて、エネルギーで前進していて参考になる選手』と言われていました。今回の試合では、そのエネルギーで前進するということができていたのか。

「結論として、なかったです。今回は重さのロドリゲスと前進のマシャードという試合でした。ただロドリゲスはパンチを打つ際のヒジの角度が良かったです。MMAグローブで戦う上で理想に近い打ち方でした。

クロスレンジという打ち合いのなかで、有効なパンチでした。ただし、そこを狙い過ぎていた感がありました。その狙い過ぎが影響しているのか、エネルギーで前進するということは今回の試合ではなかったです。

そして試合は前進している方が有利になります。マシャードという選手はまるで知らなかったのですが、コンテンダーシリーズという一発勝負のオーディション番組で、もう殺るか殺られるかという意識でまず戦っています。

そのなかでロドリゲスは最初、頭の位置が後ろで。顔面攻撃のある試合で、相手が前に出てくる。それなのに頭の位置が後ろにあると、もう下がるしかできなくなります。いきなり受けに回っており、最悪の姿勢といえます」

──ハイ。

「ところがロドリゲスが1Rの中盤にワンツーから3発目の右クロス──返しの右を当てて、ダウンを奪います。この選手は重心のバランスがある。自分でコントロールしていましたね。ただし今回の試合もLFAのタイトルマッチもロドリゲスは激闘になっています。そこをどう見るのか。工夫して、一方的な試合にしろというのが本来の格闘技の捉え方だと思いますが、このオーディション番組では激闘が喜ばれ、慎重に戦うと評価されないという背景がありますよね。

だから今のトレンドでもある蹴りの距離にならないのか。蹴りがとにかくなかったです。上と下の連動が2人ともなかった。あの距離だからテイクダウンにも入りやすかったですし、ちょっと以前のようなMMAに感じましたね。

ただ、それでも蹴りは使えますが、そのような練習環境にないのかもしれないです。まぁアグレッシブネスが最重視されているということなんでしょうね。距離を取って脹脛の蹴り合いだと、契約してもらえないと」

──その通りですね。

「良い試合だった。良かったねぇということが一般的になってきて、そこから反省をするというのが難しくなっていると思います。私の場合は空手を教えてくれる先生が、自己否定から入る方でした。それはもっと良くなると信じているからこその裏返しなんです。

ロドリゲスがそういう環境にあるのか。ただし、ロドリゲスには『この人に殴られたくない』っていうパンチがあります。簡単にいえば魅力的です。打撃の質量に関しては、1Rの中盤から3Rまで通して、ロドリゲスにありました。

結局のところは、その使い方なのでしょうね。良いのに、なぜか攻められるという……」

──途中で足を負傷したというようなことを試合後のコメントで口にしていました。

「あぁ、そういうことですか。それでもUFCに行くために、アレだけ戦ってしまう。凄いですね。凄い話です……」

──そこに前回の試合のように、エネルギーで前進することが常にできれば、と。

「前回の試合でエネルギーで前進できていたことが、再現できない。それが格闘技の特徴です。再現性がない、確認が試合でしかできていないからです。前回はデキた、今回はデキなかった。技術的なことではなく、そこがエネルギー的なモノであると結果論で判断するしかない」

──対して武術には……。

「ハイ、型があります。型があればなぜ、それができなかったのか。なぜ、できたのかという要因が分かります。型には法則性があるので。ただしロドリゲスの前回の試合と今回の試合をみると、法則性がないので再現できない──という風に結論づけることはできます」

──この日はデキた。次の日はデキなかったと。

「ハイ。自転車が乗れる日と乗れない日があっては、自転車レースには出られないです。法則性があれば自転車に乗れない日はなくなります。そこが何度も言ってきましたが、武術と格闘技の違いになります」

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