【Special】月刊、青木真也のこの一番:4月─その壱─ミキーニョ✖DJ「ルールの違いで言うと……」
【写真】ミキーニョとDJの一戦から、脱線した話が非常に面白いです (C)ONE
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。
青木が選んだ2021年4月の一番、第一弾は4月8日に行われたONE TNT01 からONE世界フライ級選手権試合=アドリアーノ・ミキーニョ・モライシュ✖デメトリウス・ジョンソン戦について語らおう。
──青木真也が選ぶ2021年4月の一番、最初の試合をお願いします。
「アドリアーノ・モライシュ✖デメトリウス・ジョンソンですね。DJは僕の見立てだと年齢が35歳になるし、消耗が激しいんじゃないかとは思っていました」
──それはやはり軽い階級だからというのはありますか。彼は実際、この試合までKO負けもなかったわけですが。
「そうですね。ONEにやってきたのが32歳とかのタイミングで、いつ負けるのかっていうのはあったかと思います。金属疲労みたいな話で、ダメージはなくても運動量や反応という部分で長い間戦い続けてきて、疲れているという印象は受けました。特にあのスタイルですしね」
──UFCではヘンリー・セフードに王座を明け渡してからのONEとの契約ですが、実際にはその前には話がもうできていた。そしてセフードにはリベンジを許しました。
「フライという階級でのスプリットというのは、もうジャッジ次第という部分はあるかと思いますけど。競り合いは多い選手だったとしても、僕的には和田(竜光)選手にバックを取られたのを見ても、もういつ負けるのかという風に捉えるようになっていましたね」
──一昨年の8月に堀口恭司選手にインタビューを行った時に、『弱くなっている』と断言していました。
「そうなると思います。こういうと失礼な言い方になってしまいますけど、若松佑弥、和田竜光、ダニー・キンガドというのは、彼のキャリアにおいて評価の対象になる相手ではなかったはずです」
──つまりはあのままUFCに残っていると、DJはどうなっていたのかと。
「ハイ、もたなかったと思います。だからこそ、ONEに来て良いキャリアを過ごせたように感じます」
──試合前の予想というのは、どうしても過去の実績重視という部分もありますし、DJ有利という声が圧倒的でした。
「ハイ、勿論です。僕も何だかんだと言ってもDJが有利だと思っていました。それはアドリアーノが、そこまでだという風に評価していなかった部分があるので。やはりDJと比較するとジェヘ・ユースタキオやカイラット・アクメトフとイーブンで戦ってきたわけじゃないですか。
だから、2年の間に強くはなっていたかとは思います。あんな風に大きな何かが試合で起こるという風にも見ていなかったですけど、だからといってDJの負けはビックリすることでもなかったです」
──なんとなく分かります。勝利者予想を一つだけしろと言われるとDJの判定勝ちになるのですが、その裏では負けることも、ままあるという予想になるような。
「そうです。DJが勝つだろう──でも、アドリアーノが持っていくことも十分にありうる勝負で。ONEに来てからは、誰に負けるのかという部分であったので。
アドリアーノにしても試合の間隔がこれだけ開いていて強くなっているとすれば、取り組み方が凄かったことになりますね。そことATTの充実振り、勢いというのは関係しているような気がします。そうですね、彼の成長はATTという部分が大きいような気がします」
──ONEとしてグラウンドのヒザという北米のプロモーションでは反則になる技でミキーニョが勝ったことは、他とプロモーションとの差別化を図ることができたのではないでしょうか。
「う~ん、まず試合はヒザではなくても、その前のアッパーで決まっていたと思います。致命傷は最後のヒザではなく、アッパー。サッカーボールキックと同じで、あのヒザもその前にダメージがあるから、当たったようなモノで。
それとグラウンドのヒザ蹴りで、他とONEは違うって言う風に米国のファンが見て『凄い』と思うようなら、格闘技はRIZINルールとか、ミャンマー・ラウェイの方が激しいし、そういうモノの人気が高くなるかと思います。
米国のファンがONEとUFCを見て、別物と思えるほど目が肥えているとは思えないんですよね。そもそも、そこをターゲットにしていないだろうし」
──う~む、ONEの番組の創りもそこを強調してはいなかったですね。グラウンドのヒザ蹴り、直角エルボーが許されているんだという説明VやGGがあったわけでもないですし。
「ルールの違いで言うと、話がズレてしまうのですが……」
──大歓迎です(笑)。
「今日も練習していて松嶋(こよみ)選手と、僕の試合でのエルボーの話になったんです。で、RIZINはリング使用でヒジは互いがOKなら使えるというルールですよね。それはもう別物だよなって」
──合意制なのですね。クロン・グレイシーの試合はヒジがなかったですよね。
「ホベルト・サトシがヒジに認めないとかも。昔、PRIDEで体重差があるとグラウンドのヒザは選択できたのと同じです。で、ヒジでいえばグラウンドでエルボーがないって、もう僕らは考えられないなっていう話になったんです。
レスリングやグラップリング軸になると、拳で殴るのはバックコントロールからだけで、マウントとかハーフでトップだとその距離を創ることはできないから」
──ハイ、そのスペースがあると立たれてしまいます。
「だからエルボーを打ち、下もヒジに反応することなる。そうなればRIZINのルールって、別物だよなっていう話をしていたんです」
──PFLもヒジなしで、ハーフで潜るとなかなか有利なんですよね。
「もうヒジがないと別競技です。でも、お客はそうは見ない。MMAだ、同じだっていう見方かと思います。だってUFCとRIZIN、ONEを別物としては見ていないですよね」
──あぁ、なるほど……そうですよね。立ち技なら、もうムエタイとK-1で統一ランキングなどできないわけで。でも、MMAはヒジの有無、グラウンドでのヒザの有無、サッカーボールキックの有無で別物という風にはならないと。
「だと思いませんか? そこまでお客さんの目が肥えていると凄いですよね」
──米国だとリングなら別物という風に捉えられるかもしれないですね。
「それでもグラウンドでパウンドがあれば、MMAっぽくは捉えられるかもしれないし。ただ、まぁリングでMMAはやりたいくねぇって思っちゃいます(笑)。今はONEもずっとケージでできているんで──ヒジ無しになったり、ケージでないというのは考えたくなくなりますね」
──ONEのムエタイをMMAグローブのケージでやることが定着したのだから、それを逆に立ち技系での特色としてMMAファイターのためにもケージを続けてほしいですね。そして、最後にモライシュについて尋ねたいのですが、これから若松佑弥選手がその座を目指すことになるのと思うのですが、そこに関してどのように青木選手は見ていますか。
「ハッキリ言ってしまえば、あまり興味はないです」
──……。
「なぜ、それを言っちゃえるかというと明確な理由があります」
──ハイ。
「若松佑弥がアドリアーノ・モライシュに挑戦することで世界に繋がっているのか……という風に疑ってしまっているからです」
──若松選手は繋がっていると思っているはずです。
「彼がそう思っているのであれば、本当にしっかりと現状を見て自分のキャリアを考えるべきだし、周囲もそう言ってあげるべきだと思います。この戦いが世界に繋がっているのか──DJが負けたことで、難しくなっちゃいましたね」