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【Special】月刊、青木真也のこの一番:7月─その弐─ヘルマンソン✖ガステラム「シン外ヒール」

【写真】ヘルマンソンがガステラムを破ったアウトサイド・ヒールフックが、グラップリングの進化に伴うMMAの進化を表している (C) Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年7月の一番、第2 弾は19日に開催されたUFN172からジャック・ヘルマンソン✖ケルヴィン・ガステラムの一戦を語らおう。


──7月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目は?

「ジャック・ヘルマンソン✖ケルヴィン・ガステラムですね」

──ヒール決着となった。

「ハイ、そのヒールがアウトサイドのヒールで。それはちょっと笑っちゃったのですが、アウトサイドのヒールフックって、それこそカカトを抱えても取られた足とは逆の方向にグルグルグルって回れば抜けていたじゃないですか。

それがヘルマンソンの外ヒールは、回って抜けることができないラクラン・ジャイルスがADCCとかで使っていたヒールフックなんです」

──クレイグ・ジョーンズの師匠格の?

「ハイ、あのジャイルスのヒールです。僕も岩本(健汰)さんに教えてもらうまでしっかりとは分かっていなかったのですが、これまでの外ヒールはヒザを固定して、カカトを捻っていました。これだと、どうしてもロールされてしまうんです。

でもジャイルスの外ヒールっていうのは、カカトをひっかけてもそこを捻るのではなくて、固定するんです。例えば、これまでの外ヒールの場合は相手の右足を取ると外掛けで、左手でカカトを抱えて、自分の右側に捻っていくから、相手からすると左側に回って逃げることができます」

──ハイ。

「それがジェイルスの外ヒールは右足を取った場合、足は内掛けで、カカトは固定しているだけで、胸で体重をかけてから腰を突き出します。これでヒザに対して横向きにプレッシャーを与えて極めるんです。力の作用としては、腕十字のような感じですね。

この極め方はサドルからインサイド・ヒールを掛けられた時に、体を捻りつつカカトを取らせないようにして、相手のヒザを押すことでもう皆が逃げられるようになった。だから、その内ヒールを外にヒールに持ち替えて、同じ要領で腕十字のように腰を受けに持ち上げることでヒザが極まる。そういうアウトサイドのヒールなんです」

──なるほどぉ!! そんなグラップリングの最先端の技でヘルマンソンは勝っていたのですね。

「もうカカトのクラッチは万力で止めているようなもので、その先のヒザを極めているという形になっています。これをノルウェー人選手のヘルマンソンが、UFCで使って勝ってしまう……」

──恐ろしいですね。

「ハイ。彼はただフロントラインというユノラフ・エイネモやヨアキム・ハンセンがいたところのジムで練習しているようなので、寝技の文化はあるところにもいるんだと思います。あれだけだとMMAでは極めることは難しいかもしれないですけど、潜っておいてからならありますよね」

──でも、UFCですからね。

「逆にMMAのファイターだから、UFCといえども極まったのかもしれないですよ。今のグラップリングシーンの最先端の技を持ってきたので、またバレていないというような」

──そういう見方もできるのですね!! ところでラクラン・ジェイルスの外ヒールを日本のMMA界で見ることはありますか。

「ほぼほぼないです。中にはグラップリングに長けている高橋サブミッション雄己選手とかは知っていると思います。でも、それをMMAで使うというのはないんじゃないですかね。どうしてもMMAでは上が有利で、コントロールすることが大切だから。僕もそういう風に言っていますし、足関節はどうしても後回しにしてしまいがちです、練習でも」

──だからこそ極まるということに、再び行き着きますね。現時点では。

「ハイ。でも万人に勧めることはできない。わざわざ、下になれ──なんて。上を取ってスクランブルからバック、そしてチョークの方が危なくないです。

と同時にケージレスリングでバックを取られた時に前転して、足を取りに行くとMMAの選手は怖がることが多い。だからトランジッションになって一発で極める技というだけでなく、上を取り返す技術、リバーサルとしても使えます。でも……なかなかですよね」

──そして上が強い選手は、パスをしてその技を防ぐことができるというのは、また上だって大切なんだぞという文脈になって非常に面白いですね。

「MMAってのは下があるから、立ち上がることができる。立ちあがることができるから、スイープでひっくり返すことが可能になります。立てば良いとか、一本極めれば良いという切り取った攻防なんて存在しないんです。

全ては繋がっていて、MMAで練習しなくても良いなんて技術はないはずです。そこには足関節も含まれていると思います。ただし、世界のグラップリングの技術が進んでいるから、MMAに影響に与えるわけで。アウトサイドのヒールが、ヒザを攻める技になったと分かる……それだけでも凄く勉強になりました」

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