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【Pancrase300】ライト級で冨樫健一郎と対戦、再起を図る上迫博仁─01─「格闘技が苦でしかなかった」

Hiroto Uesako【写真】今だから気付くことだが、フェザー級の頃よりも顔色が良いように見受けられる試合前の上迫だった (C)MMAPLAET

21日(日)に東京都江東区のスタジオイーストで開催されるPancrase300で、冨樫健一郎と対戦する上迫博仁。昨年12月にDEEPフェザー級王座から陥落、4月に心機一転パンクラスに転じるも初戦を計量失敗で欠場した。

一時は引退も考えたが、ライト級に階級を上げて再びケージに戻って来る上迫に1日をAmeba TVが制作するドキュメンタリー番組= ONE DAY が追った。

減量が過酷過ぎたフェザー級時代と比較して、今の上迫は試合に向けて技術や戦略が練られることで充実の表情を浮かべている。


──去年の今頃、DEEPフェザー級王者としてイケイケだった上迫選手はその後の1年がこのようになるとは想像できていなかったと思います。

「まず、こうやって試合ができるということが正直なところ嬉しいです。もう身を引くべきかと考えたのですが、色々な人が応援してくれて、自分よりもその人たちのためにも頑張らないといけないと思っています」

──12月にDEEPフェザー級王座を失い、心機一転パンクラスで戦うこととなった4月の田中半蔵戦を減量失敗でキャンセルした。改めて、どのような状況だったのかを教えてもらっても良いですか。

「どの選手もそうだと思うのですが、減量は毎回がギリギリだったんです。あの時は最後の400グラムから500グラムという状況で、計量の前の日の夜中ぐらいから落とさないとまずいなということがあって家で落としていると、手がどんどん痺れて来て、続いて呼吸ができなくなってしまいました。

家内も心配にしていて起きていてくれたのですが、朝方に痙攣して過呼吸のようになって。彼女が大沢さんに連絡して、指示や判断を2人でしてもらうような形になって。もう、僕は半分夢を見ているような感じで状況判断はできていなかったです」

──脱水で急性腎不全という診断結果が出ました。業界全体で深刻に受け止めないといけないのですが、命に関わって来る事態かと。試合ができないと分かった時は、どのような気持ちになっていましたか。

「自分の体調云々より、その事実に対する罪悪感が凄かったです。どうしたら良いのだろうと。でも、そこで大沢さんが迅速に動いてくれて……本当に感謝しています」

──責任を感じるのが、日本の選手の良さだと思うのですが、MMAの進化によって技術や試合に向けてだけでなく、その周辺の環境も変わらないといけない。自宅で水抜きなど、もう国際的な舞台ではないわけですから。経済的な状況で無理なら、日本の現状に合わせた階級で戦わないといけないと感じました。これは決して選手だけの責任ではないと。

「それでも試合を飛ばしたことは事実ですし、絶望的な気持ちになっていました。もう戻らない方が良いのじゃないかとも考えました。その時は格闘技というもの、総合格闘技というものを考えられなかったです」

──つまり引退も考えていたのですね。

「ハイ。このままフェードアウトした方が良いという気持ちもありました。その間は暫く練習もしていなくて、人と会う機会が増えたんです。その時に応援しているという言葉をもらって、やっぱり戦わないといけないという想いが強くなりました」

──その時にフェザー級で戦うという考えは残っていましたか。

「なかったです。2度と60キロ台には落としたくないという気持ちでした。時期はともかく、戦うとすればライト級で戦うと決めていました。試合を飛ばして1カ月半ぐらい経っていたかと思います」

──MMAを続けることに関して、奥様の反応はいかがでしたか。

「彼女は『こんなことでやめるな』、『ここで終わるなんてダサすぎる』という考えでした。ただ彼女には減量が厳し過ぎて、フェザー級では戦いたくないということは話したりしていたんです。家内も『階級上げなよ』とは言ってくれていたのですが、僕がソレを周囲に伝えることができなかった。だから、階級を上げて格闘技を続けることに関しては賛成してくれています」

──減量がライト級のリミットまでで良い現状、フェザー級の減量と比較してメンタル的にはどのような違いがありますか。

「とりあえず、元気があります(笑)。以前はカスカスの状況でエネルギーがない感じだったので、今は精神的にも前向きになれています。技術だとか戦略を作って、試合に合わせて行っているという感覚が凄くあります。フェザー級の時は試合が決まったら今が×キロだから、まずは×キロにして。そして×キロまで持っていくだとか、体重のことしか考えていなかったです。

戦略とかあまり考えずに、試合になったらいけるでしょうっていう感じで(苦笑)。ほぼ試合のことは考えられなかったです」

──あの自信の言葉というのは、実は試合のことまで頭が回らない反動だったのですね。

「正直に言うと全然、試合のことに頭がいっていなかったです。体重が落ちれば大丈夫という感覚……変な自信があって、今のように試合について考えていなかった。今も減量は少なからずあるのですが、体重以外のことが考えられるので、戦略だったり技術に対してしっかりと準備ができています。

だから……正直、以前は格闘技が苦でした。自分がどんどん試合をさせてくれと言っておきながら、3カ月に1度減量が本当に苦でしかなかったです」

──68キロ契約体重戦だった岩瀬選手との試合の方が楽しめた?

「あの時もぶっちゃけ、きつかったです。計量の前日も夜中の3時ぐらいまでジムで汗だしをしていた感じで(苦笑)。正直、楽しめてはいなかったです。格闘技がきついモノでしかなかったのが、今はどんどん好きになってきました」

<この項、続く

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