【AJJC2017】負傷明けでルースター級優勝、芝本幸司─02─「自分に素直に柔術をやっていきたい」
【写真】負傷からの半年を──このように振り返ることができる人間が果たしてどれだけいるだろうか(C)MMAPLANET
アジア柔術選手権2017で、アダルト黒帯ルースター級の王座に返り咲いた芝本幸司インタビュー後編。
試合直後に行われたこのインタビューの終盤、芝本は不意に涙を流した。この時、彼に胸に去来した想いは何だったのか。全柔術家に読んでほしい。いや全格闘家、アスリート、日々を生き抜くために懸命な人に──読んでほしい、芝本の言葉だ。
Text by Tsubasa Ito
<芝本幸司インタビューPart.01はコチラから>
――1試合でしたが、3月に負傷したヒザの状態はいかがでしたか。
「今回は良かったですね。実は8月の全日本選手権前の時点では、あまり状態が良くなかったんです。おそらく練習がオーバーワークになっていたからだと思うんですけど、少し腫れてしまって、一度練習を止めざるを得なかったんです。練習を再開してからはやりすぎないように気をつけて、アジアに合わせられるようにコンディションを作ってきました」
――全日本選手権は試合をせずに優勝となったため、ヨーロピアン以来の実戦復帰でした。
「そうですよね。復帰初戦が橋本選手という、なかなか高いハードルを課されたなと思います。でも橋本選手となら全力でやれるので、ヒザの状態を確認する意味でも凄く良かったです」
――ブランクを感じることもなかったと。
「なかったですね。むしろ、また強くなっている実感があります。去年負けている相手に勝っていますから」
――欠場中に技術体系を整理したと話していましたが、今大会で成果は出せましたか。
「あまりポイントも取れていないし、パスガードもできなかったので、まだ形として試合で出せているとは言えないと思います。ただ、日頃の練習からしっかりと目的意識を持ってやってきました。自分の弱い部分、橋本選手に通じない部分を強化しようと思って。
ケガが治ってからの2ヵ月は本当に良い練習ができたので、それを積み重ねてきた自信が、この試合で自分の自信になって戦えたのではないかと思います。漠然と練習していたら、また去年と同じ結果になっていたかもしれないですね」
――強化したのは具体的にどの部分ですか。
「パスガードですね。橋本選手は細かいガードのセットアップをしてくるので、パスのプレッシャー、相手のガードの解除、スイープのディフェンス、サブミッションのエスケープ。トップポジションで、それを全部やらないといけないんです。そういった一つひとつの精度を上げることをやってきました。
でも、本来は橋本選手がいなくてもやらなければいけないことなんですよ。負けた時は、何で負けたんだろう、何が悪かったんだろうと真剣に考えますよね。それが……同じように悪いところがあっても、結果的に勝ったら疎かにしてしまうんです。
去年彼に負けたことによって、真剣に取り組まなければさらに引き離されるかもしれないという恐怖が、私を練習に駆り立ててくれました。ですから、橋本選手用に特別に何かをしたわけではなくて、誰と戦うにしてもやらなければならない当たり前のことを、彼がいたからこそより真剣に取り組めたということになります」
――これでまた、ルースター級の日本人ナンバーワンに返り咲きました。
「次も日本ナンバーワンでいられるように頑張るだけです。今日の結果は今日の結果。次に戦った時も勝てるようにするという気持ちでやっていかないと、勝ち続けることは難しいんじゃないかと思います」
――今大会は世界への再スタートにもなったと思います。
「そうですね……うーん……(※沈黙)。やはり今年の世界柔術……(※さらに長い沈黙の後、涙を流す)。すいません……出られなくて……悔しかったです。だから……本当に自分が強さの絶頂だと思っても、何の拍子で選手生活が終わってしまうのか分からない。
衰えて出られなくなるとかではなくて、自信もあって、強くなっている実感もあって、なのに出られなくなることがある。
今回、その世界柔術で3位になった橋本選手に勝つことができたというのは……そういう意味では勝ってなお、悔しいです。改めて世界柔術に出たかった……。でも今回勝ったので、また堂々とそれを目指せると思います」
――ムンジアル欠場、そしてアジアで世界3位に勝った。改めてケガをしてからの半年間は、どのような時間でしたか。
「一度立ち止まらせてくれて、リセットできた感じはありますね。やっぱり選手でいることが好きだし、少しでも上を目指して自分を向上させ続けたい。自分が本当に何をやっていけば良いのか、何がしたいのかということをはっきりさせてくれた時間でした。
最近は凄く……幸せですね。追い込んで自分の体が喜ぶトレーニングをして、自分がやっていきたい技を身につけて。回りが気にならなくなりました。自分のために、私がやりたい自分の柔術をやるだけ。自分に素直に柔術をやっていきたいという思いです。
ここ数年、黒帯で世界に挑戦してきましたけど、この1年は一番、波がありました。でも、ずっと平らだとそのまま終わってしまうんです。求めていたものかもしれないですね。波が欲しかった。そういう起爆剤的な何かがないと、もうワンステップ上にいけないのかもしれないですし。自分の柔術人生に波が出てきましたね。本当にありがたいです」
■AJJC2017黒帯ルースター級 リザルト
【ルースター級】
優勝芝本幸司(日本)
準優勝橋本知之(日本)
3位澤田伸大(日本)