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【AJJC2016】ルースター級出場、芝本幸司<02>「私の柔術スタイルは、“10まで頑張らない”んです」

Koji Shibamoto【写真】アドバン差、その差の違いを世界の頂点で知る芝本だ(C)MMAPLANET

10&11日(土・日)に東京都足立区の東京武道館で行われる国際ブラジリアン柔術連盟=IBJJF主催のアジア柔術選手権2016(Asian Jiu-Jitsu Championship 2016)、黒帯ルースター級に出場する芝本幸司インタビュー後編。

アジアを制するには避けて通ることはでないであろう、若手の台頭──橋本知之との対戦について話を訊いた。昨年の初対決、ムンジアル茶帯の頂点に立った橋本との対戦を振り返る彼の言葉から、その柔術観、そしてブラジリアン柔術を知ることができる。

<芝本幸司インタビューPart.01はコチラから>


――今年のアジア選手権のルースター級は、どうしても芝本選手と橋本知之選手の対戦に話が集中すると思います。初対戦となった昨年のアジア選手権決勝ではポイント2-2、アドバンテージ2-1で芝本選手が勝利しました。あの試合について振り返っていただきたいのですが……。

「そうですね、フフフ……」

――単刀直入に言うと、あの試合は芝本選手にとって接戦だったのか、あるいはしっかりポイント計算をしながら進めた結果の勝利であったのか、ということです。

「うーん……ただひとつ言えるのは、勝つことが第一優先であったということです。万が一のことがあってはいけない。彼は茶帯の世界王者となり、黒帯に上がってきて初めての顔合わせでした。互いに世界選手権への切符は持っていましたし、まず私にとっては試合に勝つことが第一優先。その目的をキッチリ果たした、ということです」

――試合展開はおおよそ、芝本選手がトップ、橋本選手がガードを取り、パスガードを廻る攻防のように見えました。そして「芝本選手が橋本選手をパスできなかった」という評価があります。しかし、専門誌でのインタビューを読み、試合映像を見返すと、決してそうではなかったという印象を抱いたんです。

「……勝つことが第一優先だったので、彼のガードをパスすることや、それにトライすることは優先順位として高くはありませんでした。アドバンテージ一つリードしていて、途中までパス×ガードという攻防をやりながら、試合はこのまま終わると思っていましたので」

――アドバンテージひとつ差で試合が終わり、自身が勝つと考えていたのですね。ところが終盤に、橋本選手がスイープで2ポイントを獲得しました。「このまま」終わらなかった時点で、芝本選手はどのように思っていたのですか。

「特に何も思っていませんでした。2ポイントを奪われた時点で、まだ残り時間があることは分かっていたので、『2点を取られたから、2点を返せばいい』、そう思っただけです。結果、アドバンテージ一つ差で試合が終わるだろう、と」

――ということは、あの試合でも冷静に、しっかりポイント計算しながら進めていたということですか。改めて試合映像を見ると、ポイントを取られた直後に芝本選手がスイープを取り返しています。

「誰の試合でどんな試合展開だったかは関係なく、これはあくまでひとつの例なのですが――私の柔術スタイルは、“10まで頑張らない”んです」

――10まで頑張らない!?

「例えば私がスイープされそうになり、それを防ごうと10まで頑張った挙げ句に返された時は、私にとって体勢が良くない。しかし、8ぐらいの状態で『このままスイープされるな』と判断したら、そのまま返されます。その代わり、相手が『スイープした!』と思った瞬間には、私のスイープの手順が1、2進んでいます。それぐらいの余裕を持って戦っていますね」

――だからこそ試合中でも冷静にポイント計算ができているし、すぐにポイントを取り返すことができるのですね。

「とにかく勝つことが第一優先です。そのためには、いざという時に力を出せなくてはいけません。試合中、常に全力を出していたら、いざという時に力が出ない。ですので、余力を頭に入れ、常に力を抑えながら戦っています。見ている方には、面白くない試合になってしまうかもしれませんが(苦笑)」

――いえ、それこそ10分という試合時間、さらに数時間で何試合も行う柔術トーナメントで勝つための術なのですね。

「あとは、自分にとって8割の力で、相手の10割に勝てるようトレーニングを積まなければならない、ということですね。それを“自力の差”というのだと思います」

――なるほど……ちなみに、橋本選手の存在は以前からチェックしていたのでしょうか。

「もちろん、ルースター級の選手は全員チェックしています。非常に上手い、センスのある選手が出てきたと思いました」

――自分が戦う場合は、どうするかと……。

「そこはあまり深く考えないですね。僕はまずアスリートとして、トーナメントで勝つ選手を尊敬しています。いろんな要素があるなかで、実力どおりに優勝できるとは限らない。レフェリング一つ取ってみてもそうです。

当日のレフェリングが自分に向いているかどうか、など様々な要素を踏まえ、トーナメントを制する――彼が世界選手権の茶帯で優勝した。それだけで素晴らしい選手だと思うし、一番凄いことなんですよ。自分が戦ったらどうなるか、というのはあまり考えませんね」

――試合が近づいても?

「もちろん同じ階級の選手は、紫帯であろうと茶帯であろうと、私が現役選手であるかぎり、いずれ対戦する可能性があるので軽くイメージはします。ただ、相手に合わせることよりも、いかに自分の実力を出すかのほうが大切です。新しい相手が出て来るたびに考えていたら、疲れてしまいますしね(苦笑)。今は自分を高めることだけを考えています」、

――今年の全日本では、橋本選手はライトフェザー級に出場し、優勝しています。その試合を見て、昨年と印象が変わった部分などはないですか。

「私もそれほど彼のことを知っているわけではありませんし、これが今回変わったことなのかどうか分からないのですが……もともとガードが強いイメージでした。世界選手権やパン選手権を見てもマイキーやジョアオと互角、というより勝ってもおかしくない試合をしています。

その試合でもガードの強さが見えた一方で、今回の全日本ではトップゲームも見せていましたよね。もうトータルな部分で強くなっていると思います」

――対して芝本選手が、昨年の対戦から最も成長したのは、どういった部分でしょうか。

「全局面で自信があります。私もガードゲームのほうが自信もあったんですけど、この1年で完全にトップゲームも自信がつきました。昨年の試合に関して最も大きいのは、やはり初顔合わせだったということでしょう。私だけか、お互いかは分かりませんが、試合も様子見であったところは否定できません」

――では昨年の対戦を経て今年は……。

「正直、去年の試合のことは、今年の大会に持ち込むことはないです。お互い相当レベルアップしています。今回は今回の試合内容と結果が生まれるだろうと思っています。それは他の選手との試合でも同じですね」

――というと?

「ルースター級にエントリーしている木村太郎選手と戸所誠選手には全日本で勝ちましたが、それでも今回は気が抜けません。戸所選手は私との試合以外では全部圧勝しているので、私も彼との試合でリスクは冒せない。木村選手に対しても同じです。それだけの実力者が揃っていますよね。橋本選手との試合が実現すれば、全日本のルースター級とライトフェザー級の王者同士が戦うことになる。エントリー人数は4人と少ないですが、メンバーは濃いですよ」

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