この星の格闘技を追いかける

Column 「ミストラルに誘われ」

2010.12.02

Rickson
【写真】1996年11月、パリ郊外で行われた「SALON des ARTS MARTIAUX et SPORTS de COMBATS」の特設ステージでホイラーと護身術のデモンストレーションを行ったヒクソン・グレイシー

※本コラムは「格闘技ESPN」で隔週連載中の『10K mile Dreamer』2010年7掲載分に加筆・修正を加えてお届けしております

文・写真=高島学

1995年11月、この年の1月にフリーの格闘技記者となった僕は、格闘技通信誌でチョロチョロと執筆させてもらうようになり、この肩書を持って、初めて海外渡航を行なった。

『ミストラルに誘われ――』。

彼女時代の家内に借金をし、3週間ほど、フランスに滞在。パリを中心に格闘技を見て回った。結果、短期ながら初めて連載を持つことが許され、何かタイトルをつけるよう担当のM氏に命じられ思いついたのが、このフランスの季節風にちなんだものだ……。ちなみに誘われは、イザナワレと読む。

ガキのころから電車好き。ミストラルの意味を知ったのも、彼の国を走っていた欧州特急の名称からだった。『海外の鉄道』に関する鉄道雑誌の増刊号を畳の上で開いていた小学3年生のある日、それから10年近く同じ屋根の下で生活できたバァさんがポツリと囁いた。


「学、アンタはなぁ、バァチャンと違い本やなくて、実際の目で見られる時代に生きとうんやからな。自分で足を運んで、その目で好きな電車を見るんやで」と。

Mallard【写真】ヨークにある英国立鉄道博物館に展示されている世界最速、時速203㎞という記録を持つ蒸気機関車マラード号。40歳を境に、取材旅行中でも可能であれば、趣味的な時間を持つようになった

大好きだったバァさんが亡くなる1年前、高校2年の梅雨時、停学を食らい、毎日のように自宅を訪れる担任のO先生に、便せん4枚分の反省文を1週間書き続けなければならなかった。それは、僕にとって人生初の長文作成だ。

とはいっても、毎日、毎日、便せん4枚分も書くことなんてない。そこで「好きな世界史の勉強に力を入れます」と、行数稼ぎのために書いた。停学になる直前の中間テストで、たまたま、世界史の点数が良かったからだ。結果、常にO先生から「世界史、頑張れよ」と励まされ、下手こけないとばかり、ポーズで懸命に(世界史だけは)勉強をしていたのが、いつの間か本当に世界史好きになっていた。

世界史の授業になると、本来は教室の一番後ろの席だろうが、半ば強制的に席を代わってもらい、教卓の真ん前で授業を受けた。夏休みや冬休みも、世界史のY先生は週に一度、どうしようもない部類に近かった生徒のために、大阪の天王寺近辺から神戸まで、僕の分の昼食まで持参し、課外授業を開いてくれた。

「高島はイベリア半島のイスラム史に興味があるんか? アルハンブラ宮殿に行ってみたい? なら、グラナダに行け。自分の目で実際の建造物を見て、歴史に触れろ」と、カップヌードルと牛乳という奇妙な取り合わせの昼食をとりながら、熱い口調でY先生が語った。

バァさんとY先生の言葉、それが記者生活の原点となっている。

Alhambra【写真】Y先生に言われたグラナダ、アルハンブラ宮殿の訪問は、高校卒業から9年後に実現した

「興味があるなら、足を運べ」。姉ちゃんのケツばっかり追いかけていた大学時代だが、長い休みになると海外へ足を運んだ。

海外へ行くと日本で生活しているより、ずっとずっと嫌なことを経験したし、苦労も伴った。だが、やはり得難い経験も多く積めた。何より、自分の小ささ、臆病さを身に染みて感じることができた。

自分自身の内面も含め、知らないことを知る――そんな探究心を抑えることはできず、就職後も26歳で退職し、世界30カ国を11カ月ほど掛けて放浪した。帰国後、27歳で今の仕事に就いたが、当時の格通は本当に充実した面々で雑誌創りが行われており、経験値ゼロの若輩者が生き残れるような甘い環境ではなかった。

同じことをやっていては、勝負にならない。別角度から仕事をもらう必要がある。かなり海外モノにページを割いているのに、誰も英語を使わない。そして海外格闘技の興味はUFCと、オランダに制限されていたように感じた。なら、誰も足を運ばない場所に赴こう。それが放浪中に意外なほど格闘技熱が高いことを知ったフランスだった。

Jerome【写真】ルーアンに若き日のジェロム・レバンナを訪れた

K-1にジェロム・レバンナが出場しても、編集部内の注意はマイク・ベルナルドに向かっていた。ラモン・デッカーと激戦を繰り広げたディダ・ディアファット、タイでランカーを破るデニー・ビルが活躍するフランス。キック大会がTV中継されている国には、格闘技雑誌が4誌も存在していた。

UFCファンエキスポのような武道&格闘技エキスポが、既に見られた。特設ステージでヒクソン・グレイシーがホイラーを相手に護身術を披露し、後に日本でも知られることとなった柔道家ダビド・ドゥイエが、柔道のデモンストレーションを行なっていた。

そんな記者生活初の海外取材は『未開の地のフランスを探る』というタイトルを頂き、その後半年ほど掲載されることになった……。

<MMA情報モバイルサイト=格闘技ESPN>
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