【Arzalet04】非合法ファイト150戦、ムショ暮らし3年。ケビン・パク「MMAはスポーツじゃない」
【写真】とんでもない人生を送ってきたファイターが韓国MMA界に現れた (C)SUSUMU NAGAO / ARZALET
11月24日(土・現地時間)に韓国ソウルのクラブ・オクタゴン開催されるArzalet 04のメインでキャリア2戦目のケビン・パクが、ブルーノ・ホベルソの持つREAL暫定フェザー級王座に挑戦する。
プロMMAデビュー戦が7月のアルゼルト3で、クレバー・ルシアーノを41秒でKOしたパク。米国でアンダーグラウンド・ファイトを150戦も経験し、帰国後も文字通り──波瀾万丈な人生を送ってきた。
日韓アルゼルト首脳が惚れ込んだ可能性とカリスマ性。ノンフィクションとは思えないような彼の人生が、その力と雰囲気を創り上げたのか。ケビン・パクが足早に語った半生、明日のタイトル戦を前にぜひとも一読してほしい。
──アルゼルト山田重孝代表、アルゼルト・コリアのイ・ジェホ代表が揃ってケビンのポテンシャルを絶賛しています。
「フフフ、それは嬉しいことだよ」
──ところでアンダーグラウンドのベアナックルファイトを100戦以上もしたというのは本当の話ですか。
「本当さ。僕は韓国人だけと、子供の頃に父が米国に住んでいてね。2004年、ヒューストンにいてアメリカン・フットボールをやっていたんだけど、ファイトに興味があってインターネットを見て自己流で極真空手の練習を始めたんだ。
そんなころバウンサーをやっている連中と揉めて、そのバーにいた人間が僕の喧嘩を見て、『俺のクラブでファイトをしてみないか』と誘われたんだ。高校生でも良いのかって確認をとったら『アンダーグラウンドだから構わない』って言われてね(笑)」
──それはどのようなルールの下で行われていたのですか。
「最初は無差別だった。でも、半年後ぐらいに180ポンド(81.64キロ)を境に2つのクラスだけ作られた。グローブはなく、頭突きがOK。急所に打撃を入れても構わない。僕の試合ではなかったけど、時々噛みつきが有りの時もあったよ。反則はひっかくことと目つきぐらいだった」
──ケビンは今フェザー級で戦っているということは145ポンド(66.77キロ)ですよね。では15キロも重い相手もいたことになります。
「僕はだいたい140ポンド(63.5キロ)ぐらいで、減量が嫌いだからフェザー級で戦っているんだ」
──2004年ということはTUFの前年ですし、UFCやMMAは徐々に身近になっていた頃ですが。
「僕が住んでいた地域にはMMAジムなんてなかったし、ちゃんとしたMMAで戦う術も知らなかった」
──……なんと。そんなこともあるのですね。そして、その頃になってもクラブファイトがテキサスでは普通に行われていたことも驚きです。
「クラブだけじゃなくて、駐車場でも戦ったよ(笑)。完全な非合法なギャングスター・ビジネスだったからね。死人だって出た。そして、元締めの連中の多くは今では刑務所の中だよ。終身刑になっている連中がいくらでもいる。
でもね、相手はファイターじゃないから勝つのに苦労はしなかった。あの時は柔術、テコンドー、極真空手をインターネットで学んでいたからね。そして学校の友達と一緒に練習していたんだ。
ファイトは毎週あったし、1日で4度戦う夜もあった。でもさ、相手はもうビビっているし、本当に勝つのは難しくなかった。何の知識もない連中が、僕がジェット・リーやジャッキー・チェンの兄弟とでも思ってビビっていたから(笑)」
──そんなケビンが、なぜMMAを戦おうと思ったのですか。
「高校で喧嘩をし、まぁ暴力沙汰を起こしたということで韓国に強制送還されることになったんだ。で、ソウルの近くに住むようになり、こっちの高校に通うようになった。でも、ずっと米国で育っていたから、韓国の文化にまるで馴染めなかったんだ。
そんな時に母親の家に近くでキックボクシングとムエタイのCKジムを見つけて、小さなジムだけど通うようになった。3週間後、ムエタイ・トーナメントに出場してドローだった。ムエタイはさ、アンダーグラウンドの戦いとは全く違ったよ。
相手はプロで、大きなグローブをつけてちゃんと戦える相手だった。負けなかったことが嬉しくて、夢中に練習するようになった。そしてK-1を見て、K-1で戦いたいと思った。ただ音楽の活動も続けていて、結婚もしたから1年も練習ができないようになったんだ。
そんな時、山本KID徳郁を知ってさ。彼と戦いたいと心の底から思った。CKジムもMMAの練習が始まっていて、ジムに戻ったんだ。同時にチェ・ムベが開いたチーム・タックルで練習するようになった。チェ・ムベはKIDとルートがあるということだったから。そして2007年当時、韓国で一番のMMAジムがあそこだった」
──チーム・タックルに所属していたのですね。
「デモ、ロッカゲツ・ダケ」
──えっ? ケビンは日本語が話せるのですか。
「シャベルコト・ハ・チョット。オモニ・アニメ・デ(笑)」
──なるほど(笑)。チーム・タックルを半年で離れた理由は?
「僕は65キロもないのに、あそこは重量級ばかりで練習にならなかったからね。で、90キロ近くまで体重を増やそうとした。バカだったよ。そんな無理をしてもしょうがないから、コリアン・トップチームに移ったんだ」
──ベスト・チョイスではないですか。
「だと思ったよ。ジョン・チャンソンもまだいた時代で、彼とのはその後も練習を続けることあったけど、KTTには2週間しか在籍できなかったんだ」
──もう、驚きの連続でうが……それはなぜですか?
「ハ・ドンシンさんはそうでもなかったけど、ジョン・チョンヨルさんが僕を嫌ってね。アメリカナイズされ過ぎていたのと、ホストクラブで働いていることが気に入らなかったようだった。あと、僕が化粧をしていることもジョンさんは毛嫌いしていた。『お前はゲイか!!』ってね。『俺はお前の意見なんて聞きたくない。俺の話をきいておけ』って言われたよ」
──あぁ、今やセクシャルハラスメントになってしまいますが、当時ジャン館長がそういう風に思うことは想像がつきます(笑)。それにしても、今年の7月のプロMMAデビューまで、非常に時間が掛かりましたね。
「色々あったよ。軍隊へ行き、離婚し、3年間臭い飯も食った」
──……。
「まぁ、その辺の話は僕がチャンピオンになってから聞いてくれよ。でもね3年のムショ暮らしは、僕にとって分岐点になったよ。僕の愛蔵書は英語の辞書だったし、書かれていることの全てを記憶した。色々なことを学んだ。日本語が話せるのようになったのは、刑務所にいたからだ。あの3年間は、僕にとっては大学に通っていたようなものだ」
──そうなのですね……。
「2013年年末にプリズンに入り、去年の2月に出て来た。自由になったけど、前科持ちに職はなかったよ。でもCKジムに行き、以前のようにコーチをさせてもらうことになった。
暫くしてフリースタイルレスリング・トーナメントに出て金メダルを獲得したんだ。それから白帯だけど柔術トーナメントの無差別級で優勝できた。その日は格闘フェスみたいな催しをやっていて、ケガもないからそのままキックボクシングのトーナメントに出て2試合戦いゴールドメダルを手にした。2試合ともTKO勝ちだった。
もうMMAで戦う準備は整っていたよ。刑務所を出て、僕の人生にはスイッチが入ったんだ。セミプロファイトで、ロードFCの選手と戦ってヒザ蹴りでKO勝ちし、イ・ジェホ代表から声が掛かったんだ。クレバー・ルシアーノと戦わないかって。臨むところだった。僕は誰とだって戦う」
──結果は僅か41秒でKO勝ちした。右を効かして、テイクダウンを切って瞬時の左アッパーでKOでした。
「MMAグローブは小さいけど、素手じゃない。そして思い切りパンチを打つことができる。殴られても素手ほど痛くない。だから、僕はガードを下げて戦うことができる。ムエタイ・グローブでKOするより、MMAは簡単だ」
──王座を賭けて戦うブルーノ・ホベルソは打撃でもサブミッションでも試合を終わらせることができるフィニッシャーです。
「僕のパンチがアゴに当たると、彼は倒れる。彼は6試合でKO勝ち、7試合で一本勝ちしている。素晴らしいウェルラウンダーだ。でも、とても普通だ。僕のスタイルは、マンガから来ている。ホベルソは僕の攻撃に反応できないよ」
──いやぁ、興味が尽きないケビン・パクですが……、この試合を経てMMAでどこを目指しているのかを最後に教えてください。
「ホベルソに勝って暫定王者になる。その次は正規王者のヴディスラブ・パブルチェンコンコに勝つ。それからも……ただ戦い続けて、ベストを目指すよ。MMAは僕にとってスポーツじゃないんだ。
目の前のウォリアーを殺すためにケージに入る。レフェリーが、そうならないようにストップする。それが僕にとってのMMAだ。良い試合をする。それを世界に見せたい」
■Arzalet04計量結果
<REAL暫定フェザー級王座決定戦/5分3R>
ブルーノ・ホベルソ: 66.3キロ
ケビン・パク: 65.1キロ
<74.2キロ契約/5分2R>
ホベルト・サトシ・ソウザ: 74.1キロ
ペク・スンデ: 74.0キロ
<フルコンタクト空手>
キム・ジェハク:─キロ
近藤哲夫: ─キロ
<バンタム級/5分2R>
オ・ヨンチェ: 63.4キロ
大石真丈: 60.9キロ
<ライト級/5分2R>
シン・シュソップ: 70.7キロ
チョ・ビョンオク: 70.4キロ
<73キロ契約/5分2R>
キム・ソンヒョン: 72.5キロ
野副忠佑: 72.9キロ
<ライト級/5分2R>
チョ・ギョンイ: 70.6キロ
イ・ギョンソプ: 70.5キロ
<ライト級/5分2R>
キム・ジョンホン: 70.9キロ
シン・スンミン: 70.7キロ
<バンタム級/5分2R>
ジュ・ヒョクタク:60.7キロ
ソン・ヨンジュン: 61.5キロ
<バンタム級/5分2R>
パク・ミンジェ:61.8キロ
ゆうと: 61.7キロ
<フライ級/5分2R>
佑勢乃花:56.7キロ
パク・サンミン: 56.9キロ
<フェザー級/5分2R>
ハン・ジンガン: 66.3キロ
小倉拓実: 66.5キロ