【ONE79】5カ月で3試合目、エブ・ティンと戦う青木真也─02─「試合は日常を切り取ったモノ」
【写真】第3者としてMMAの試合を饒舌に語る青木は、自らの試合に関しては試合前は決して能弁でない (C)MMAPLAET
10月6日(土・現地時間)にタイはバンコクのインパクト・アリーナで開催されるONE79「Kingdom of Heroes」。
同大会でエブ・ティンと対戦する青木真也の1日をAmeba TVが制作するドキュメンタリー番組= ONE DAY が追った。
いってみればWBC世界スーパーフライ級王者シーサケット・ソー・ルンヴィサイの防衛戦の前座でMMAを戦うという特殊な状況に出向く青木の本質論とは。
<青木真也インタビューPart.01はコチラから>
──自分の試合をするという青木選手に逆説的になりますが、試合でしてはいけないこととは何になるのでしょうか。
「それすら、あまり考えていない(笑)。やりぬく、勝負をするだけです。やってはいけないと考えた時点で、それはやってしまうことなので。ただ、自分がやることをしっかりと考えます」
──やってはいけないことは、相手にやりたいようにやらせること。そう考えた時に例えばフォラヤンだとオーソに構えているけど、左リードフックが嫌だと見えてきます。ただし、イブ・タンにはそれがない。
「分からないですからね。ヤキャエフとかウィラチャイも分からなかった。8年前とか10年前に戦ってきた選手はもう辞めていますから、新しい選手……つまり分からない選手と戦っていくということですからね」
──分からないなかでもエブ・ティンはウィラチャイやヤキャエフより手強い相手かと。
「ヤキャエフとか、組んだ感じでも強かったですよ。僕のなかでは。ウィラチャイにしても、そんなに弱くない。実はそんなに弱くはない。皆が思っているほどイージーゲームではないと感じたし」
──ではエブ・ティンはもっと怖いのではないかと。
「ハイ。怖いです。勝負の怖さを持っています。イージーゲームになるとか、まるで思っていないし」
──青木選手は試合前も色々と別の仕事をこなしています。試合のことを考えないでおこうとしているのでしょうか。
「考えますよ。何て言うんだろう、今の子たちって格闘技ばっかり見ている。だから勝てないんだと思う。格闘技のことしか知らないっていうことは、格闘技のことを分かっていないっていうこと。
懐の深さがないから勝てないと思っている。試合のことだけを考える方が辛い。今、高島さんは別のことって言ったけど、文章を書いたり、人と話したりしていること、プロレスをやることも格闘技と同じです。
何か人と会って勉強したことは、格闘技に役立ちます。格闘技の試合というのは日常を切り取ったモノだと思うので。ケージの中、リングの中って透けて見えるじゃないですか。リング上は日常を切り取ったモノだからこそ、日常で格闘技だけをやっていると弱くなるんじゃないかと」
──つまり軸は格闘技、格闘技に生きているということ?
「だって格闘技選手の青木真也だから、話を聞いてくれるわけで。格闘技選手という軸がなければ弱い。僕はブロガーじゃない。ブロガーって弱くなっていくと思うんです。
インフルエンサーってフォロワーがいくらいても、軸がないと……本質的なモノが出せない。そうなると説得力もない。だからこそ格闘技の選手であることが一番大切です。
何か書く時に僕はこういう経験をしているから書ける。僕より文章の巧い人はいるし、博識な人もいる。でも、僕はこういう経験をしたということが書けるから強い。だからこそ格闘家は経験をしていく必要があると思っています」
──試合で自分を崩さないということと、経験値を上げるということは表裏一体のように感じます。
「相手云々ではないですから。結局……否定することになってしまうけど、皆は自己啓発のビジネス本のようなモノばかりを欲しがるわけです。試合に関しても、『こういう時にケージ際でどう動きますか?』とか、『これ取られたらポイント失いますか?』ということばかり意識している。
ここだと勝ったらファイトマネーがいくら、こっちだといくら──みたいな。分かりやすいモノばかりを追いかける。で、自分がキャリアを終える時に『俺は〇勝×敗でKO率はどうこうで』って。それで辞めることができるヤツは良いと思います。そこに価値を見いだせるヤツは。
ただ、自分は何をやり遂げたのか。どういう充実感があるのかと。そこを求める人間は、それでは解決しない。だから日々、試合に役立つか役立たないかではなくて本質的な部分で格闘技と触れていたいの」
──そこに第3者の介在、介入は必要ないと。
「ハイ。それがあるから相手の研究や点数稼ぎ、ドリル練習を好まないんです。格闘技として本質的なモノがやりたい。もっといえばステロイドに手を出さない。それも、本質的なことですよ」
──ここまで話を聞いておきながら、次の試合がリングで行われることをどう思っているのか教えてください。
「ハハハハ。リングだからこそ、問われます。自分自身の引き出しの多さを。だけどリング云々は気にしていないです。全部OKです」
──米国以外では青木選手は、青木真也という選手はどういう選手なのか。そこが分かり、歓迎してくれるファンの前で戦ってきました。対して、今回の試合はもうシーサケット・ソー・ルンヴィサイのボクシングを見る人達の前で試合をするということです。
「まぁ、僕の試合はBGMだということですよね。それはそれで気にしないです。そういう場は珍しいけど、そこもあんまり感じないですね。いや、本当に達観って言う言葉は良くないと思うけど、達観という表現でしかない。でも、まぁ奇妙な大会ですよ」