【Special】月刊、青木真也のこの一番:12月─その壱─ブレット・ジョンズ×ジョー・ソト=ヒザ固め
【写真】マツコの知らない世界で、ヒザ固め論を語って欲しい青木真也(C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ昨年12月の一戦=その壱は12月1日、TUF26からブレット・ジョンズ×ジョー・ソト戦を語らおう。
──昨年12月の青木真也が選ぶ、この一番。昨年のことになってしまいましたが、まずはどの試合になりますか?
「ブレット・ジョンズ×ジョー・ソト、ヒザ固めですね。ソトのシングルレッグに対し、ジョンズがそれをしっかりと切って……なんて言えば良いのか、腕を股にかけて……柔道のすくい投げのクラッチの状態にして自らは後方に倒れ、ソトを前転さえる形でヒザ固めを極めた。
なかなか今のMMAで極まるフィニッシュではないですよね。そして知らないと極められて、知っていると極められない技です。MMAの主流ではないので『まさか』という部分で、MMAの面白さを教えてくれた試合だと思うし、印象に残る試合になりました」
──確かに。ジョンズはこれでキャリア15連勝0敗になったのですが、このフィニッシュのお陰で一気に認識されたと思います。
「英国人ですけど、ヨーロッパは足関節が強いファイターが時々出てきますよね。マーチン・ヘルドとか」
──東欧系のファイターだと共産主義の時代でソ連の影響があってサンボの流れがあるとは思うのですが、英国というのは……想像できなかったですね。「ヒザ固めだからサンボだと決めつけるのは、僕たちが古い人間なのかもしれないですけど(笑)。
ジョンズの掛け方自体、それでいえば左足で左足を極めているのですが、自分も足を組んでいるからソトは同じようにカウンターでヒザ固めを狙えたし、つま先を掴んでいる手を取って腕十字というカウンターもあった。
でも、その素振りも見せなかったことで、やはりジョー・ソトはこの技を知らなかったんだと思います。所英男選手が中村大介選手にバックから自ら前転する形でヒザ固めに入って、カウンターの腕十字を取られた。あれなんてU系はサンボの流れがあるという古い時代をくんでいる攻防だったんだと思います」
──つまり、サンボの常識がソトにはなかったというわけですね。面白い。
「あのカウンターのムーブもそうだし、ヒザ固めという技がもう今のMMAではほぼ見られないですよね。というか、以前から頻繁に見られる技ではないから記憶に残っているんでしょうけど……昔、(佐藤)ルミナさんもやっていなかったでしたっけ?」
──デビュー戦、マイケル・マコラフ戦ですね。
「そう、そうそうです!!」
──修斗公式戦で、パウンドが解禁される以前です。
「つまりパウンドがないから亀になり、チョークより足関節に行っていた時代なんですよね」
──MMA歴史探訪、ヒザ固め編ですね(笑)。
「サンボだと亀の相手を返そうとして相手が頑張ったところで、ヒザ固めという若林次郎選手的な仕掛けの方が印象に残っているけど、ジョンズはシングルレッグへのカウンターで入った。回転系の仕掛けでした。いや、MMAは何が起こるか分からないですね」
──相手が腹ばいのままで、体を伸ばさせて回転にいかないからカウンターを取られないのがサンボ流というイメージもあります。
「これっ、凄くMMAPLANET的ですよね(笑)。誰がついてくるんだって(爆)」
──この会話が楽しめるのは、幸福です(笑)。ところでヒザ固めにはカーフスライサーという英語での名称が一応ついています。
「そう考えると、ノーギグラップリングでツイスタームーブとやはり関係しているのかと思いますけど、北米におけるカーフスライサーは完全に筋肉潰し系の技ですよね」
──シャーウス・オリヴェイラ×エリック・ワイズリー戦のような。「ヒザ十字&ヒールに対して、しっかりと足を抜かなかった相手にバックから抱き着いて極めたっ!! でも、この時の相手もソトと同じで、あり得ないと思っていたのでしょうけど、無策でしたね。
あと、この技は同じ足同士だったらカーフスライサーになって、これは内側から足を入れる形ですよね。
それが右と左、交互した足を外から入れるとヴェポライザーになる。僕なんかは練習では亀で頑張っている相手には、そっちを使いますよね」
──ヴェポライザーは筋肉潰しで終わらないので、怖い技という印象があります。「ヒザの靭帯にダメージを与える系なので、それを分かっているから相手を動かすことができる。
だからカーフスライサーを内ヒザ固め、ヴェポライザーを外ヒザ固めという風に定義できるかと思います。
ヴェポライザーはジョシュ・バーネット的なキャッチレスリングというのか……」
──私の場合は、ヴェポライザーはやはりロックダウン、ハーフガードから仕掛けで、潜りを利したエディ・ブラボー流のインパクトが強いです。エディ・ブラボー×ホイラー・グレイシーの2戦目の印象は鮮烈でした。
「ホイラーのヒザをバキバキと言わせた!! ロックダウンから潜り、極め切れなくてもレッグドラッグに移行してパスができるから、エディのヴェポライザーはやはり柔術的ですよね。
あのヒザ固めで、これだけ色々と面白いことになる。そういう意味でも、MMAの可能性を広めるフィニッシュだったと思います」