【2017~2018】久米鷹介─01─「自分でも不思議なくらい冷静に戦うことができていました」
【写真】2017~2018、ファイター達の足跡と一里塚。9人目は久米鷹介人に話を訊いた(C) TERUTO ISHIHARA & MMAPLANET
2017年を終え、2018年が始まった。情報化社会の波のなかで格闘技の試合も一過性の出来事のように次々と生産&消化されている。
しかし、ファイターにとってその一つの一つの試合、ラウンド、一瞬は一過性のモノでは決してない。大袈裟でなく、人生が懸っている。
試合に向けて取り組んできた日々は何よりも尊いはず。そんなMMAファイター、そしてブラジリアン柔術家が2017年をどのように過ごし、今年を如何に戦っていくのか。
MMAPLANETでは9人の選手達に2017年と2018年について語ってもらった。そのラストバッターは、ライト級キング・オブ・パンクラシスト=久米鷹介の話を訊いた。
2016年9月に徳留一樹を破り、ライト級KOPに輝いた久米はその最大のライバルである徳留の挑戦を昨年12月9日に受け、1分21秒で返り討ちにした。
しかし、この81秒間の濃密さは他に比肩することはできない国内MMAの最高峰の戦いだった。
そんな最大の試練を乗り越えた久米に改めて、徳留との再戦やその準備、そして今年の目標を尋ねた。あれだけの大勝負を完勝で終えてなお、全てが好転するような甘い状況にないなか、久米は何を想い戦い続けているのか──2017~2018、久米鷹介の足跡と一里塚。
──まずは12月9日の王座防衛、おめでとうございます。
「ありがとうございます」
──改めて、どのような試合だったかを振り返ってもらえますか。
「今回もやりたいこと、やるべきことが十分に出せた試合でした」
──クリンチから離れ際に殴るというのも、やるべきことの一つだったのですか。
「どの場面でもダメージを確実に与えるということで、あの攻撃も作戦に一つでした。ただし、そこで試合を終わらせるというのではなく、行ける時は行くぐらいの気持ちで最初のチャンスで試合を終わらせるということでは決してなかったです。なので、あの場面もフィニッシュではなくて、確実にダメージを与えることが作戦でした」
──徳留選手の得意な距離を潰す。そうはいっても徳留選手の組みの強さを久米選手は十分すぎるほど知っているなかで、よく一気にゼロ距離に持っていくことができたと思いました。勇気のある前進だったと。
「最初のハイをガードして、そのまま組むことができたのは良かったです。組みに関しては言われたように一緒に練習をした時や前回の試合で徳留選手の強さは身をもって知っていたので、自分にとって良い態勢でしか組むつもりはなかったです。
あの場面は自分の姿勢も良い形で組むことができたので、その先を考えてダメージを与えられる攻撃に転じようと考えました」
──あの試合、オーソで構えていたのですが……実はabema TVのドキュメンタリー、ONEDAYの加藤久輝選手の回で加藤選手がバックを叩いている後ろで久米選手が日沖(発)選手を相手にサウスポーでスパーをしているのが映りこんでいて、「これ、わざとやっているのかな?」って思って視ていました。
「エッ、本当ですか。サウスポーに関しては、この試合に限らずやってきていたのですが……実は加藤選手に取材が来た時にはスタッフの方に、『僕たちの練習は撮影しないでください』とお願いはしていたんです」
──つまり、出てはいけない練習が映りこんでいたのですね。
「うわぁ、後ろに入っていたのですか……そこまでチェックしていなかったです(苦笑)。サウスポーに関わらず、オーソだろうが僕らの練習は撮ってほしくなかったので、それは伝えていたのですが……」
──少しですが後ろにいたので、わざと見せているのかと邪推してしまっていました(笑)。
「いや、そんなことはしないです……。だから、申し訳ないのですが……あの撮影の日は、僕は加藤さんともスパーはしなかったですし。動きの確認をしている時期だったので、フレームに入らないようには気を付けていたのですが、甘かったです……」
──サウスポーになる場面は試合ではなかったですが。
「組みも踏まえて、どっちの構えも練習するようにしています。組みを考えると、両方で打撃ができた方が良いので」
──なるほど。久米選手が組み、徳留選手が離れた時に右を当てて明らかにダメージを与えました。そこで打ち合いになったのですが、あの場面ではどういう気持ちで戦っていましたか。
「あの距離だとまとめるつもりで作っていたので、殴るだけでした。徳留選手のパンチの威力も、効いていたこともあってあの距離だとジャブの距離ほど威力はないです。ずっと発さんとやってきたことを、あそこで出すだけでした。
自分の態勢で詰めていけば、大丈夫だと自信を持って。あの距離でも足は止めて打ち合っていたかもしれないですが、自分は打ったら頭の位置は変える。そのイメージを持ち続けていましたね」
──ああいう展開になると、殴られている方の選手に視線がいくので久米選手が頭を振っていたとは気づいていなかったです。
「それに多少被弾をしても、倍にして返すつもりで打ち合っていました。そういうつもりで準備もしていましたし、苦しい場面になることも想定してやってきました。玉砕するつもりはないですが、打たれることも覚悟して、かつ自分が何をすべきかを意識し続けて戦っていました」
──あの局面だと頭を振ることが、やるべきことだったのですね。
「打った位置に留まらないことですね。どれだけパンチを当てても、その場にいると逆転されるような反撃を食らうことはいくらでもありますから」
──あれだけラッシュをかけておいて、冷静に戦うことができていたのは改めて驚きです。最初の右が入った時に、攻め時だと判断ができたのですね。
「右アッパーが入った時に、ここは行くべきところだと思いました」
──それはもう練習云々でなく、本人の感覚だと思うのですが、一旦離れて様子を見る選択も長丁場だしあったかと思います。それでも、そんな気はなかったのですね。
「それほど冷静ではなかったです(苦笑)。最初にダウンを奪った時は焦ってチョークを狙っていますし。でも、セコンドをしてくれた発さんは凄く冷静で、あの瞬間に『パウンドで行け』と指示を与えてくれたんです。その声が聞こえて、強引に絞めに行っていたのにパウンドに切り替えることができたんです。
ワンテンポ遅れてしまいましたが、あの声で冷静になることができたと思います。だから立たれてからの殴り合いでは、自分でも不思議なくらい冷静に戦うことができていました。あの打ち合いは、最初は空振りもしています。で、距離が合ってないと思って、少し体をずらしてタイミングを合わせて左を打っていきました」
<この項、続く>