【Interview】五輪柔道銀メダル&柔術黒帯スティーブンス<02>「寝技とドリルを取り入れる」
【写真】MIZUNOからFUJIに道着が代わると、スティーブンスの動きも変わる (C)KEITH MILLS
昨夏に行われたリオデジャネイロ五輪、柔道81キロ級で銀メダルを獲得したトラヴィス・スティーブンス・インタビュー後編。
米国では柔道はコミュニティセンターで無償で習うスポーツ。柔道の指導をしても生活の糧とはならない。そんな状況をスティーブンスの師匠ジミー・ペドロは変革しようと動き始めた。
キッズ・プログラムやU23とかかわるスティーブンスは、黒帯柔術家としての技量、柔術の技術を取り入れることで米国柔道を強化させようとしている。
<トラヴィス・スティーブンス インタビューPart.01はコチラから>
――米国の柔道家の経済的な選択は少ない。でもトラヴィスは柔術でも黒帯だし、自らのアカデミーをオープンするという選択もある。競技生活を引退してからの人生プランは?
「道場ではないけど、すでにジミー・ペドロズ・柔道センターで自らのスクールは運営しているんだ。そして米国の柔道を変える試みに乗り出した。ジミーは米国の柔道指導者が指導料を得ることができるシステムを構築しようとしている。僕もカイラもそれを手伝っている」
――そこでのトラヴィスの役割はどういうものになるのかい。
「アンダー23のコーチだよ。US柔道を年代別に強化する。ただし、無償じゃない。賃金を支払ってもらうポジションにする。仕事としてね。代表チームのコーチをフルタイムの仕事にするんだ。
日本には2週間半ほど行くことになると思うけど、基本的には自宅で仕事をするよ。スクール運営のためにね。午前中はチームF.O.R.C.Eというキッズプログラムにかかわっていて、まだまだ動き始めたばかりだけど、彼らが望めば上のレベルで競技生活を送れるだけの選手に育てる。そして、彼らの引退後には指導者という道ができるようにする。今はそういう筋道がない状態だからね」
――現役としてグラップリングになるけど、EBIやADCC世界サブミッション選手権に出場するという選択は?
「それは……ある。リオ五輪から3カ月、まだ本格的なトレーニングをしていない状況だけどね。セミナーや今やるべきこと、そしてキッズプログラムの指導を優先しているからね。今の僕はキッズが夢を現実する一歩に立ち会っているから、練習時間もトーナメントに出る時間もないんだ」
――なるほど。
「でも、練習時間がとれて準備が整えばEBIやADCCに出るだけの力はある。トーナメントに出るだけの練習をするということは、他の仕事との調整が絶対的に必要になるからね。僕自身、柔道でも柔術でもかなりのことを成し遂げたという想いもあるけど、まだ戦いたいという想いも持ち続けているんだ」
――トラヴィスならではの……つまり柔術を習得している部分でジミー・ペドロの目指す米国柔道の強化にどう役立てると思っている?
「柔道家が無くしてしまった能力を再び植え付ける。全てを知るようにするんだ。そのためにブラジリアン柔術の黒帯や茶帯、いや紫帯だって構わない。柔術家とトレーニングする。寝技とドリルを練習に取り入れるんだ。柔道で勝つためにそれらの稽古を経験し、戦いの幅を広げる。
柔道と柔術の違いはルールだ。でも、それぞれのスタイルがある。柔術を取り入れたい人間は取り入れればいい。そうでない者は、それでも構わない。ただし、寝技とドリルを練習することで、その判断をするんだ。
柔道で柔術の動きをしても勝てない。柔術で柔道をやっても勝てない――なんて論争が起きれば十分だ。そういうことを考える状況を持ち込むことで、すでに柔道は強化されている。そして、否定する人間には僕はこう言うことができるんだ――『僕は結果を残した。これからも残せる。柔道で柔術家のように動くことができればね』ってね(笑)」