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【DEEP CAGE】白井祐矢 「王者に返り咲く、そこがスタート」

Yuya Shirai

【写真】今年春、東京・中央区新富1丁目にパーソナルトレーニング専用のジム=LINX.gymをオープンした白井。当ジムでメイントレーナーを務める白井はMMAで培ったトレーニング理論をこういった形でも幅広く伝えていきたいという(C)TAKUMI NAKAMURA

21日(月・祝)、東京・大田区総合体育館で行われた「DEEP CAGE IMPACT 2014~」。ウェルター級王座次期挑戦者決定戦で岡野裕城に勝利した白井祐矢。昨年4月にダン・ホーンバックルに奪われたDEEPウェルター級王座の奪還に王手をかけた。

DEEPウェルター級王座在籍時、非UFCの海外プロモーションでUFCクラスのファイターたちと鎬を削ってきた白井だが、結果を残すことは出来なかった。国内ウェルター級屈指の実力者といわれながらも海外で外国人選手に勝つことの難しさを肌身を持って経験してきた白井。海外遠征の日々を振り返ると共に、今後のキャリアについて語った。

――岡野選手に判定勝利し、DEEPウェルター級王座挑戦権を獲得した白井選手です。試合から約1週間、まだ左目には痛々しい傷が残っていますね。

「自分はカットしたり、顔が腫れやすいんで(苦笑)。見た目はこんなですけど、試合中は血が目に入って『見えづらいな』と思ったくらいで、ダメージはなかったです」

――岡野選手とは2013年2月に対戦して、白井選手が判定勝利しています。約1年5カ月ぶりの再戦はいかがでしたか。

「岡野選手は自信満々な感じでしたよね。自分に負けて以降は負けなしで、マッハ(桜井速人)さんもすごく推している。周りの評価も『今の岡野だったら白井に勝つんじゃない?』という感じだったと思います。前回は特に脅威を感じなかったですけど、今回は勢いや自信みたいなものを感じました」

――結果としてはスプリット判定でしたが、試合内容についてはどう感じていますか。

「リーチが長いので前蹴りは嫌でしたね。あと岡野選手は頑丈でした。結構、感触のある右が何度か入っても、グラッと来たのは1回くらいで。インローも結構効いていたと思ったのに顔には出さなくて、気持ちが強かったと思います。でもトータル的には落ち着いて戦えたと思います。それは試合前に長南(亮)さんと話していたことで、やろうとしたことは出来たのかなって」

――落ち着いて戦うことが白井選手にとっての課題だったのでしょうか。

「そうですね。結構、僕は1Rからガンガン攻めすぎて、途中からズルズル行くことが多かったんですよ。それで自分のペースになることもあれば、集中力が切れて流れが悪くなることもある。タイトルマッチでダン・ホーンバックルに負けた時はモロに後者で、2Rにグラウンドで下になった時に集中力が切れてしまいました(苦笑)。だから今回は1Rはマススパーのようなつもりで軽くやって、そこから試合を作っていこう、と。それが結果的には良かったのかなと思います。そうは言っても今の自分の立場としては何とか生き残れたという試合ですけどね」

――結果によっては進退も考えていましたか。

「はい。僕は3連敗したらプロでは続けられないと思っていて、去年4月にホーンバックルに負けて、10月にTTFで村山(暁洋)選手に引き分けた。村山戦は自分の中では負けと同じなので、もし岡野戦に負けたら引退を考えなきゃいけないと思っていました。それだけの覚悟を持って戦った試合です」

――白井選手は2011年~2012年に日本と海外で試合を続けていて、今年はもう一度DEEPのベルトを目指すことになりました。そこに照準を定めた理由を教えてもらえますか。

「やっぱり僕の場合は返上じゃなくて負けてベルトを獲られたからですね。今はホーンバックルがチャンピオンではないですが、負けて失ったベルトだから、それはもう一度、自分の手元に取り戻したい。そういう気持ちです」

――王座陥落を区切りに王座返り咲きではなく違う道を選択するという可能性はなかったですか。

「どうしても僕は階級的にも国内で選択肢が少ないと思うんですよね。バンバン試合が決まる状況だったら『何連勝してUFCだ!』と思えるかもしれないけど、僕の場合はそうじゃない。だったら組まれた試合を確実にクリアして、そこにある目標を達成しよう、と。今の自分にとってはそれがDEEPであり、DEEPのベルトです」

――ここ数年の戦績を振り返ると、白井選手ほど非UFCの海外プロモーションで強豪外国人選手と戦ったウェルター級の日本人ファイターはいないと思います。

「DEEPでチャンピオンになってから、なかなか国内では相手が見つからないということで、長南さんが色々と動いてくれて海外で試合をさせてもらうようになりました。チャンピオンになる前も国別対抗戦だったM-1で韓国、アメリカ、オランダで試合しているので、何気に海外の試合経験は豊富なんですよ」

――確かにそうですね。ただしDEEPのチャンピオンになってからの方がより海外挑戦という意識は強かったのではないですか。

「はい。やっぱりDEEPのチャンピオンということを評価して僕を使ってくれていたんだと思いますし、自分としても海外で勝負する気持ちは強かったです」

――ポール・デイリー(2011年2月)、デウソン・エレノ・ペジシュンボ(2011年7月)、ファブリシオ・“ピッチブウ”・モンテイロ(2012年3月)、トミー・デュプレ(2012年10月)と、錚々たるメンバーと拳を交えてきましたが、どんな経験を積むことができましたか。

Shirai vs Moteiro【写真】写真はOFCでのファブリシオ・モンテイロ戦。シンガポールのOFC以外でも、白井は英国のBAMMA、ブラジルのクルービー・ダ・ルタ、ベルギーのGLORYと現地のトップと対戦してきた(C)MMAPLANET

「それはもう全てですね。試合で感じたことはもちろん、自分はずっと長南さんと一緒に行動させてもらって、長南さんから色んな話を聞いたし、これから海外で試合をする選手たちにもアドバイスできることはたくさんあると思います。スウェーデンに行った時(2011年4月)は前日計量が終わったあと、対戦相手の(ダーヴィッド・)ビエルクヘイデンが血液検査に引っかかって欠場になって試合中止。ぺジシュンボと戦った時も、もともとはムリーロ・ブスタマンチと対戦する予定で、試合2日前に記者会見までやったのに、大会前日になってブスタマンチが腰痛を理由に欠場して、対戦相手が代わったり……まぁ色々ありましたね(苦笑)」

――そういった海外遠征ならではのトラブルも含めて、白井選手は白井選手にしか出来ないキャリアを積んできたと思うのですが。

「自分は本当にタイミングが良かったと思います。ちょうど世界中で地元のトップ選手が経験を積んでUFCへ、みたいな大会が増えて、そこに呼んでもらえたので。上手くその流れに乗って海外でUFCクラスの選手たちと試合を組んでもらえたと思います。ただ結果を出せなかったことが……ですね(苦笑)」

――UFCクラスたちと拳を交えて、どんなことを感じましたか。

「例えばデイリーとやる前はASTRAでチェ・ミルズに一本勝ちして、防衛戦(×岩瀬茂俊)にも勝って、ある程度は自信があったんです。長南さんからは『絶対に打ち合うな』と言われてましたけど、最低限の打撃はやってもいいだろうって。そしたら最初のジャブ一発で効かされて、そのまま訳が分からないままKO負けでした。いくら打撃が強いと言っても、まさかジャブ一発で効かされるとは思わないじゃないですか(苦笑)。UFCやストライクフォースで戦って結果を残す選手はそのくらい規格外で、それを肌で感じさせられた試合でした。でも実際はあのレベルの選手に勝たないとUFCでは勝っていけない。当時もし運よく自分がUFCと契約できていたとしても、きっと結果を出すことはできなかったと思います」

――ずばり海外遠征で結果を出せなかったのはなぜだと思いますか。

「自分はあまり環境の変化は気にならないタイプなんですよ、体重を落とすために動くスペースがあって、汗を出すために部屋にバスタブがあってお湯が出れば。だから環境が違うからっていうのはあまり関係ないと思います。どの試合も決して手を抜いていたわけじゃないし、練習で『これでいいや』と妥協したことも一切ないです。それでも勝てなかったのは……、もう自分の責任でしかないですよね。それが勝負といえば勝負なのかもしれないし。ただ何か噛み合わないな…とは思いながら戦っていました」

――もしかしたらそういった違和感を感じて実力を100パーセント発揮できないのが海外の難しさかもしれませんね。

「ですかね……、でもそれを抜きにしても自分の実力不足だったと思います」

――今年に入って同門の佐藤豪則選手、ストラッサ―起一選手がUFCと契約しました。その2人と比べても白井選手は実力的に遜色ないと思うのですが、歯がゆさはないですか。

「いやぁ、そういうチャンスが巡ってきたり、そこでちゃんと勝てる選手が強いんですよ。だから試合で結果を出している選手が強い。そういうことです」

――野次馬のような言い方かもしれませんが、白井選手と練習した選手はみんな口を揃えて『白井選手は強い』と言います。

「逆に言うと自分は練習で強さを練り上げて自信をつけて、それを試合でどれだけ出せるかが勝負の選手です。試合で閃いたり、爆発的に動けるタイプじゃない。昔は僕もインパクトを残して勝ってやろうと思ってましたけど、そのたびにKO負けしたり、変な試合をしちゃうんで、自分はそういう選手じゃないんですよ。それを自覚しているので、僕はもうコツコツやって結果を残す。それしかないですね」

――これからも白井選手は白井選手らしさを貫く、と。

「はい。ここ3年は試合の度に練習や調整方法を微妙に変えていたのですが、その中で自分に合っている方法を見つけて、岡野戦ではそれを実践したんです。そうしたらもの凄く身体が動きました。そうやって自分にあった練習スタイルがようやく固まってきたので、今後もそれを継続して、もっといいパフォーマンスを見せていきたいと思います」

Shirai & Yuta【写真】DEEPウェルター級チャンピオンの悠太と肩を並べる白井。DEEPはリングとケージの大会があるので、その辺りも考慮する必要がある(C)GONGKAKUTOGI

――おそらく次戦はタイトル挑戦になると思います。今後の展望について聞かせてもらえますか。

「もちろんまた海外で試合をしたい気持ちはあります。でも今の自分はそれを言える立場じゃないです。まずは次の悠太戦に勝ってDEEPのチャンピオンに返り咲くこと、そこがスタートです。おそらくタイトル挑戦は年内になると思うので、そこで必ずベルトを獲る。先のことを考えるのはそれからですね。僕は地味な選手かもしれませんが(笑)、地道に結果を残して頑張ります」

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