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【ONE FF71】IMMAF世界王者と対戦、相撲&柔術&MMAの三位一体──奥富夕夏「捻りです」

【写真】いかに組むか──懐に入ることができるか。興味深い(C)ONE

本日19日(金・現地時間)にタイはバンコクのルンピニー・スタジアムで開催されるONE FF71で、奥富夕夏がファイネ・メスキータと対戦する。
Text by Shojiro Kameike

同大会でムエタイを戦う壱センチャイジムと(C)YUKA OKUTOMI

今年3月、奥富は齊藤百湖と対戦した際、ケージ際で相撲流の腕(かいな)の返しを見せた。

小学生の頃から女子相撲で活躍し、全日本選手権で軽量級3連覇、国際選抜大会優勝という実績を持つ奥富。さらにリバーサルジム新宿Me,Weで柔術とMMAを始め、MMAではアマチュアから現在に至るまで無敗を貫いている。ONE FFに参戦する奥富に、女子相撲からMMAに至るキャリアを訊いた。


――前日計量直後のインタビューとなります。MMAでは初めての海外の試合であり、初のハイドレーションテストかと思います。

「海外の試合は相撲でも経験しているので抵抗はないのですが、ハイドレーションテストは失敗する選手もいるので結構緊張しました。普段から減量は問題なく、それほど水抜きしているわけでもないんです。ただ、普段の水抜きで尿比重がどれくらいなのかも分からないですし、水抜きなしで減量することも含めてストレスはありました。

今回は初めてトレーナーの方に付いてもらい、ONEに出ている山北選手にもアドバイスを貰ってクリアすることができました。体重は124.2ポンド(56.33キロ)、尿比重が1.0180で、どちらも余裕がある結果でした」

――奥富選手のバックボーンにある女子相撲は、MMA界ではその内容があまり知られていないかと思います。まず奥富選手が相撲を始めた経緯から教えていただけますか。

「もともと3歳から柔道をやっていました。でもガツガツとした強豪の道場ではなく、週1回練習できればよいという柔道教室で。その柔道と並行して5歳の時から、わんぱく相撲に出るようになりました。習い事として相撲教室に通い始めたのは10歳ぐらいですね。

小学2年生は男女が同じ大会に出て、私はいつも2位でした。それが小学3~4年生から男女が分かれるということで、優勝するためにもちゃんと相撲を習ってから大会に出たほうが良いなと思ったんです」

――奥富選手は千葉県柏市出身とのことですが、地元は子供の頃から相撲に触れる機会が多い地域なのでしょうか。

「青森とか、もっと有名な地域はありますけど……柏市には相撲の少年団チームが一つあって、わんぱく相撲もある程度の人数が出場していました。おかけで、相撲を始めようと思えば誰でも始められる環境ではありましたね」

――ただ、大相撲の土俵が女人禁制という伝統も影響しているとは思いますが、40年前には女子が相撲に参加することは考えられませんでした。

「私が始めた頃も女子選手は少なかったです。自分の地元だけでいえば、少年団の中で女子は私一人でした。関東全体でもそれほど女子が集まる状況ではなく、全国大会まで行くと階級別で10人ぐらいいるかなという感じで。今はもっと多いですね」

――なるほど。奥富選手が相撲で得意としているのは「寄り」、「押し」、「投げ」、「掛け」では、どの技でしょうか。

「今は『捻り』ですね。相撲っぽくない技が得意で(笑)。イメージ的には舞の海さんの相撲に近いと思います」

――「捻り」ですか! ということは、まわしを取るよりも齊藤戦で見せたように、腕を差し込んで返していくほうが多いのですね。

頭をつけるスタイル(C)YUKA OKUTOMI

「どちらかといえば頭と頭をつける――レスリングに近い体勢から、アームドラッグのように腕を捻っていくことが多いですね。

柔道と相撲を並行していくなかで、いろんなものを合わせていったら、大学時代から捻りが得意になりました」

――高校から大学まで女子相撲を続ける環境があるというのも驚きました。

「小中は少年団、高校と大学は部活でやっていました。私が通っていた日本体育大学柏高校はレスリングが強くて、鶴屋怜選手の母校でもあります。その日体大柏に相撲部が出来て、私も入学しました。そこから日大相撲部に進んでいます。だから相撲をやる環境は整っていたと思います」

――柔道と相撲を並行していて、相撲をメインにした理由は何だったのでしょうか。

「子供の頃は私も『柔道でオリンピックに出たい』と言っていました。そこそこ柔道も強くて、県大会で優勝して全小(全国少年柔道大会)に出たんですよ。でも初戦で秒殺されて、『私が生きる世界はココではないな』と思いました(笑)」

――一方でアマチュア相撲は大相撲と異なり、階級制を採用し、かつ無差別も設けています。奥富選手は階級別(軽量級)と無差別の両方で実績を残しています。

「小さい頃から男子としか練習していなかったので、大きい人と戦うことに苦手意識はなかったんです。大学の相撲部も大きい人しかいなかったですし」

――日大相撲部であれば、周りは大相撲=プロを目指す人たちが多いですよね。

「はい。女子でも100キロを超える後輩がいました。そういう人たちと練習することができていたのは大きいです。大きい人が小さい人に負けると失うものもありますけど、小さい人が大きい人に負けても失うものはない。勝ったら褒められるだけで(笑)。あとは怪我のリスクだけですね」

――軽量級と無差別の試合では、組み方は変えるのですか。

「若干変えますね。無差別だと、まず四つには組まないです。四つに組むと持ち上げられてしまうので。だけど回っているだけでは、距離があるところから力を加えられる技——突っぱりで負けたりしていまいます。そのため、自分から当たりながら前後に動く。あるいは前褌を取ると力も出るので、出し投げを使ったりとか」

――では男子の場合、大相撲というプロの世界もあります。プロのない女子相撲における目標は、どのようなものだったのでしょうか。

「ここ3~4年ぐらいで、女子相撲の実業団をつくろうという動きが広がっているんですよ。でもまだ採用してくれる企業も少なく、大学で辞めてしまう子は多いと思います。

私自身は今OLをやっていて、入社したのはもともと相撲部が強い会社なんです。最初はその会社に相撲で入りたくて。でも『相撲部で女子は採用していない』ということで、普通に就活して入りました。でも今が入社3年目で、私が世界チャンピンということもあって相撲部に入ることができるかどうか……というのが現状ですね」

――……えっ!? それは現在進行形のお話なのですか。

「はい。

実は今回の試合の1カ月前、6月にも大会で優勝しています(全国女子相撲選抜ひめじ大会、一般の部65キロ未満級を制している)。練習の頻度でいえばMMAのほうが遥かに上ですが、どちらかといえば『楽しく相撲を続けながら普及させていきたい』という気持ちです」

――6月に優勝! すみません、相撲の結果まではチェックしておらず……。奥富選手は柔術でも昨年、JBJJF全日本とIBJJFアジア選手権で女子アダルト紫帯、今年のアジア選手権でも女子紫帯の無差別級で優勝しています。「MMAのために他競技をやる」「相撲のためにMMAをやる」ということではなく、全て切り離して考えているのですか。

「そうですね。たとえば柔術についても『MMAのための柔術をやる』という方も多いとは思います。私は道衣を使ったスパイダーやデラヒーバ……MMAだと殴られてしまうようなポジションの技も好きで。もともとはトップからのほうが得意ですけど、紫帯になるとボトムからの技もできないと勝てないですから(※奥富は柔術でも2023年JBJJF全日本選手権の女子アダルト紫帯ライト級で優勝している)」

――思考が完全に競技者ですよね。ただ、今回のONE FFのオファーが来たのは、6月の相撲の試合に出るより前ですよね。

「前です。でもオファーを断る気持ちはなかったです。女子相撲や柔術はアマチュア競技なので、出る出ないは自分次第じゃないですか。でもプロのMMAはオファーを頂いた時点で『仕事』なので、それをパスすることのほうが私の中では許されない。どちらかといえばMMAの試合のオファーを頂いている時点で、相撲の試合で怪我してMMAの試合に出られなくなるほうが問題で。だから怪我せず優勝して、今回の試合に臨むことができます」

――相撲も怪我の多い競技です。にも関わらず全く怪我なく大会で優勝できるのは、よほど実力差がなければできないと思います。

「大学の時より今のほうが相撲は強くなっていますね。大学の時は相撲しかやっていなかったけど、今はMMAや柔術の動きが入ってきて、さらに相撲で勝てるようになりました」

――反対に相撲がMMAに生きている面はありますか。

「細かい技術的なことはともかく、まず足腰は他の人より強いです。MMAでも押されることはあるけど、テイクダウンしづらいとか」

――MMAではアマチュア5戦全勝、プロでも3勝1NCと無敗を貫いています。前回の試合は相手の計量オーバーにより、判定で負けながらもNC決着になりましたが……。

「いろいろな方がいるとは思いますけど、私は格闘技が好きで続けていたらプロになったというタイプです。半年ほど一般会員として練習していて、アマチュアも2年間やっていて――そういうキャリアの積み方が、今のところうまく行っているとは思います。前回の試合は、内容的には惨敗でした。でもその内容だったからこそ変えられた部分もありますね」

――ちなみに奥富選手以降、Me,Weに相撲出身者が増えたと聞きます。

「そうなんですよ。私の知り合いで相撲出身の男の子が、もともと大学時代からMMAをやりたいと言っていて。大学を卒業して社会人になってから私に問い合わせが来たあと、Me,Weに入会しました」

――柔道出身者やレスリング出身者が多いジムはありますが、相撲出身者が増えるジムというのも珍しいです。MMAを戦ううえでの目標は何ですか。

「UFCに出たいとか大きなことを語るよりは、目の前の試合に全て勝ちたいです。自分の性格を考えても『上に噛みつく』とかは得意じゃなくて、淡々と試合をこなしていたらONEに辿り着いた、というぐらいの感じですね(苦笑)」

――それも競技者の考え方なのだと思います。

「Me,Weには、そういう考えの選手が多いですね。プロの舞台でもやたらと煽ったりすることなくて。そういう雰囲気も自分に合っていると思います。あと女子も杉山しずかさん、東よう子さん、村田夏南子さん、魅津希さんと一緒に練習していて。このメンバーの中にいると、練習では自分の良いところなんて何一つないんですよ。でも試合になると、自分が伸びているところを感じることができる。それもMe,Weで良かったと思う点です」

――ONE FFで戦うのは、自身がステップアップするためには重要なチャンスです。

「そうですね。今までと同じで、注目されたいっていう気持ちはないです。とにかく決まった試合は全て勝ちたい。今回も確実に勝ちたいです」

(C)ONE

――そのONE FF初戦で、2022年のIMMAF世界王者ファイネ・メスキータと対戦することとなりました。

「相手の実績が凄くてビックリしました。でもONEに出させていただくことが凄いチャンスですし、自分は相手を選べる立場でもないです。相手の実績が凄いからって試合を断るようなら、そもそもONEに出る意味もなくて。ここは腹を括って勝ちに行きます」

――これまでプロの試合は全てケージでしたが、ONE FFはリングを使用します。

「Me,Weも壁を使った練習が多いので、リングよりケージのほうが練習と近いとは思います。でも戦う場所の中央でやることは変わらないし、ケージだと逆に押し込んでから手や足を入れにくい面もありますよね。その点はリングのほうがやりやすいとは考えています」

――結果、リングでロープやコーナーに押し込んだ時に差して捻り技に持っていきやすいでしょうね。

「柔道もやっていたので、投げ技自体も苦手ではないです。まだONE初戦なので『ベルトを狙います』とは言えません。まずONE FFで勝って本戦に出られるようになって、澤田千優選手のように勝ち上がっていきたいです」

■視聴方法(予定)
7月19日(金)
午後9時15分~U-NEXT

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