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【OCTAGONAL EYES】小さいことはよいことだ

Torres
【写真】初めてミゲール・トーレスを取材したのは2003年11月、インディアナ州ハモンドで行なわれたアイアンハート・クラウンという大会でしたが、この試合こそ、WECで王座を失う前に喫した唯一の敗北になりました

※本コラムは「格闘技ESPN」で隔週連載されていた『OCTAGONAL EYES 八角形の視線』2010年3月掲載号に加筆・修正を加えてお届けしております

文・写真=高島学

米国に行き、「日本人って小さいんだ」と改めて感じさせられる瞬間があります。身長173センチ、日本人としては平均的な上背の私が、気がつけば背伸びをして用をたす。そう、自分が小さいと実感するのはトイレのなか。男性用の便器の位置が、米国では高いことが多いのです。

MMAでは、ご存じのように階級制が採用され、数字に表れる部分で体格の違いというものは、生じないよう工夫されています。それでも、MMAの歴史を振り返ると、体格差は試合が組まれる機会という部分で、不平等な状況を作ってきました。

日本では軽量級の試合が多く組まれ、重量級のファイターは少ない。逆にトイレの位置の高い米国は、当然、平均的な体格が日本より大きく、軽量級のファイターに世界という名のつく舞台は存在しませんでした。


WECがUFCのシスターブランドとなり、フェザー級やバンタム級の試合に力が入れられるようになった2007年、ズッファ体制となって2度目のイベント=WEC27の映像を視た私は、「日本人にとって、最高の舞台ができた」と思いました。

UFCと比較すると、少し小さなケージのなかで戦う北米のフェザー級やバンタム級ファイターは、勢いこそあるものの、まだまだMMAファイターとして完成度が低いと感じられたからです。日本のプロモーションは、過去10年に渡り世界中から62キロや65キロのトップファイターを招聘し、ブラジル人と対した時以外は、日本人ファイターの多くが、問題なく勝利を収めてきました。

日本人ファイターがWECに上がった場合、最大のライバルは米国人でなく、ブラジル人になる。それが、私が抱いた日本人ファイターとWECの未来像だったのです。

あれから、僅か3年。3月12日のWEC47を視て、3年前にそんなことを感じていた自分の甘い憶測、そして将来を見る眼の無さを改めて実感した次第です。

メインの世界バンタム級選手権試合。王者ブライアン・ボーウェルズが試合開始早々に右の拳を負傷したとはいえ、ドミニク・クルーズが見せた変幻自在の構えの入れ換え、小刻みに軸足を入れ換えるスタンスは、かつて軽量級王国と言われた日本人ファイターが、今も見せることのない戦いぶりでした。

米国人ファイターが苦手とされたローキックを取り入れ、かつ米国人が得意とするテイクダウン能力をアップさせたクルーズの試合の組み立ては、一口で軽量級といっても、ライト級とは明らかに違う独特なものです。その戦い振りは超軽量級の醍醐味と、未来像を見せたといえるでしょう。

前世界王者のミゲール・トーレスから一本勝ちしたジョセフ・ベナビデスも、スイッチを取り入れ、豪快な右フックを有効活用しており、この日は北米軽量級の進化をまざまざと見せつけられたイベントとなりました。

その一方で、日本人ファイターといえば、前田吉朗と水垣偉弥が世界バンタム級王座に挑戦し善戦したものの、結果という部分では厳しい戦いを強いられています。

07年に感じた、日本人が活躍できる世界――は、北米を中心とした、それまで私たちの目に映ることのなかったファイターの成長を急激に促す場となっていたのです。だからといって、ズッファ産WECが誕生する以前、過去10年に渡り世界のMMAをリードしてきた日本の軽量級ファイターに可能性を見いだせないのかといえば、そんなことは決してありません。

ヘビー級やライトヘビー級、あるいはミドル級やウェルター級でビッグマッチ、スーパーイベントを開催できない状況下、日本のMMAマーケットの主流は、WEC同様に軽量級に特化しつつあります。

日本ではWECが本格的にスタートを切っていないさらに下の階級=フライ級を含め、アマチュアMMA大会から、多くのファイターが日々、汗を流しています。

国内トッププロモーションを含め、海を渡っていない実力者が切磋琢磨し、既にチャンピオンベルトを持つ者や、ライト級から体重を落とせば、フェザー級戦線のトップとして活躍が望めるファイターたちが、国内マットで埋もれているといっても過言でありません。
もちろん、それら日本の超軽量級ファイターには、それぞれの考えがあり、国内での活動を優先としているファイターも当然、存在します。

ただし、ケージのなかの戦いにおいては、今、この瞬間も北米と距離を置かれつつあるのが現実です。だからこそ、日本の超軽量級トップ選手たちが海を越えてチャレンジすることを望みます。国内トップファイターが、WECでの戦いを通して学んだことが、この距離を縮めるこの役立つに違いないからです。

良薬は苦いもの。痛みを伴う彼らの挑戦を願うのは、記者の独りよがりかもしれませんが、そのチャレンジが日本MMA軽量級ルネッサンスへの近道だと信じてやみません。日本にはその力があります。日本人初のWEC王者が誕生した時、トイレで背伸びをしつつも、この小ささこそ、日本人の持ち味だと、ニンマリできることになるでしょう。

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