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【WNO07】破天荒すぎるキング、ゴードン・ライアン。勝ち方を予告し、ミッションコンプリート

26日(金・現地時間)、テキサス州ヒューストンでノーギグラップリング大会Who’s Number One(WNO)07が開催された。世界最強のノーギグラップラーであるゴードン・ライアン、そのチームメイトにして最大のライバル候補であるニック・ロドリゲス、さらに最軽量級柔術絶対王者マイキー・ムスメシら、注目選手の試合レビュー。

第3回はヴァグネウ・ホシャを相手、大胆不敵な行動に出たゴードン・ライアンの戦いをお伝えしたい。
Text by Isamu Horiuchi

<30分1R>
ゴードン・ライアン(米国)
Def. 19分17秒by 三角絞め
ヴァグネウ・ホシャ(ブラジル)

白い封筒を持って登場したライアンは、実況席にそれを置く。「試合後に開けてくれ」と書いてある。どうやら試合結果をあらかじめ予告したものらしい。

試合開始。距離を詰めるライアンに対し、軽量のホシャはサークリングしながら時々、ジャブのように左手を飛ばしてライアンの胸を押して距離を取る。やがて引き込んだライアン。ホシャの右足を左脇で抱えて逃さないように固定すると、自らの右ヒザをホシャの股間に入れてバランスを崩し、そのまま後ろに倒してあっさり上を奪取してみせた。

そのままヒザを入れたライアンは、前傾姿勢でプレッシャーをかけてゆき、さらに足を捌きにかかる。強烈な圧力を受けているはずのホシャだが、両足と両腕のフレームをフル活用してその侵攻を止めている。やがてライアンは両腕でホシャの上半身を押さえつけ、サイドに。ホシャは下からライアンの左足を取ろうとするが、ライアンは右足をステップバックしてバランスを取るや、体を入れて体重をかけてハーフで上を奪取した。

横向きになったホシャに対し、ライアンは巨大な上半身を用いて圧力をかけてゆく。ヒジのフレームとニーシールドで防ぐホシャだが、ライアンはじっくりと侵攻。左腕でホシャの首に手をかけ、クロスフェイスで顔面を圧迫する。てホシャ背中をマットにつけさせたライアンは、ホシャの首の後ろでクラッチを組んで体重を預けてゆく。ホシャとしては凄まじく苦しい状態だ。

「You’re sinking. It’s OK.(お前、沈みかけてるな。それでもいいんだぞ)」とホシャに楽しそうに声をかけるライアン。事前から「好きなだけいたぶってからフィニッシュする」と宣言していた通りの戦いぶりだ。

ホシャの首を完全に殺しているライアンは、右足を抜いてマウント。なんとか動こうとするホシャだが、ライアンは上にのしかかり続けてバックマウントへ。ここからライアンは4の字ロックでホシャを固定して仰向けになる。それでも諦めないホシャは、なんとライアンの巨体を背負いながらヒザ立ちに。が、ライアンはつかさずライアンの首をハーフネルソンで圧迫し潰してみせた。

巨大な前腕で、ホシャの顔面を擦りながらゆっくりチョークを狙ってゆくライアン。めげないホシャは防ぎながら「お前が予告していたのはこんなものか?」とライアンに言葉をかける。

ライアンは4の字ロックを外すと、ホシャはすかさずスクランブルし世界最強グラップラーの巨体を背に立ちかける。ライアンは背後から体を横に預けて再びグラウンドに持ち込み、またしても4の字ロックへ。ホシャとしては、またしても脱出寸前で蟻地獄に引きずりこまれたようなものだ。

その後もライアンが背後からのクロスフェイスでホシャを削る展開が続く。決して屈しないホシャは、再びライアンの巨体を背負って片ヒザ立ちに。ライアンも再び強烈なハーフネルソンで崩しにかかるが、ホシャはそれを耐えて立ちあがった。

ライアンは4の字ロックを解くと、タイトな上半身のボディロックはキープしたままホシャの左足に両足をかける。ライアンはそのまま左側に体重をかけて再びグラウンドに。それでもスクランブルを諦めないホシャは、前転して下からライアンの右足を肩で抱える体勢になった。

ついにバックからの脱出に成功したホシャに対して、ライアンは「サンキュー!」と。両者は掌を合わせたのだった。50/50で絡んだ両者。ここからホシャは大胆にもインサイドヒールを狙ってゆく。が、ライアンは足の取り合いには応じず、立ち上がってホシャの右足を押し下げて対処。一度体重をかけてから再び立って改めてホシャの右足を押し下げたライアンは、ホシャが戻そうとした反動を使って、すかさずその右足をレッグドラッグで横に流す。

確実に段階を踏みつつ、最後は「技あり!」とでも言いたくなる鮮やかな動きで50/50を無効化し、足を抜いてみせたのだった。

再びハーフガードの体勢となったホシャは、ライアンの右脇を差す。ライアンは上腕でホシャの顔面を圧迫にかかるが、ホシャはそれにもめげずに動きを止めずスクランブルから立つ。ライアンは上からがぶるが、ホシャは頭を抜いた。17分半経過時点で、ホシャはついに距離を取ることに成功する。

と、次の瞬間ホシャは咆哮。ライアンは苦笑いし、自分からマットに寝て下からの攻防を挑む。ホシャは低くパス狙い、と思いきや左足を外掛けして倒れ込んでのヒール狙いに。

ライアンはここも足関節合戦には応じず、ホシャの足の絡みをあっさり解除して上に。立ち上がって体重を掛けにくるライアンに対して、ホシャはその足を強く蹴って距離を作ろうとするが、ライアンはホシャに立つ隙を与えずに上半身を浴びせかけてハーフ上に付いた。

ライアンは、左の前腕で改めてホシャの顔面を圧迫。そのまま体重を前にかけると、ホシャの左腕に手を伸ばしてキムラグリップを作る。そのまま引き剥がして極めにゆくライアン。ホシャがスクランブルに出たところで、ライアンはすかさず三角絞めをロックオン。グリップを作って左腕を守っていたホシャだったが、すぐにタップした。

次の瞬間2人は再び掌を合わせると、軽くハグ。事前にトラッシュトークで盛り上げた両者だったが、試合後は完全ノーサイド。立ち上がってからも笑顔でお互いを称え合ったのだった。

勝ち名乗りを受けたライアンは実況席へ。「みんな怒るかもな」と笑うライアンの前で、ここで実況が封筒を開けて中身を取り出すと……果たしてそこには三角形のマークが!

 さらに”Who’s Next? (次は誰だ)”という言葉と、そしてGRの文字(ライアンのイニシャル)が付け加えられていた。つまりライアンは、試合前から三角絞めでのフィニッシュを予告していて、実際その通りに実行ということになる。

「事前に宣言していた通り、前半はフィニッシュを狙う気はなかったよ。ピークに至るまでのお膳立てをしていたんだ。楽しかったよ」と静かに語ったライアン。

さらに「試合中はお互い楽しく罵り合っていただけだ。ワグナー(ホシャ)に対して悪い感情はないよ。いつも闘争心に溢れ、アグレッシブに戦う男だ。38歳でこんな体重差のある試合を受けたんだ。リスペクトだよ」とホシャを称えてみせた後で、自身の試合の出来については──「向こうは守りに徹したから難しい面もあったけど、まあ良かったんじゃないかな。バックを取ったけどフィニッシュをせず、ハーフガードを取らせたり立たせてあげたりしたんだよ。動きを作ろうとしたんだ。ファンが見たいのはそれだからね。そして残りが10分くらいと聞いて、じゃあフィニッシュしようか、ということで極めたんだよ」と語った。

散々削られながらも不屈の闘志で抵抗を続け、チョークを防いでバックポジションも執念で脱出してみせたホシャだが、全てはライアンの掌の内で転がされていたということか。

真剣勝負のグラップリングの試合において、(体重差があるとはいえ)世界レベルの実力者である対戦相手を「キャリー」してみせたライアン。おまけに宣言通りの技でフィニッシュするという離れ業だった。

このような戦い方に好き嫌いはあるだろうが、今回のカードが、両者の体格差及び実力差故に「勝負論」が期待できないものであったことは確かだ。そこでライアンがじっくりと戦ったことで、ライアンの強烈無比なプレッシャーとそれを凌ぐホシャ、2人の言葉による心理戦、50/50を解除したライアンの妙技等、さまざまな見所が生まれたことは間違いない。

強すぎて対等な対戦相手が見つからない困難な状況にて、それでもライアンは我々に新しいものを見せ続けている。その事実には驚くばかりだ。


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