この星の格闘技を追いかける

【ONE100】大会サポーター、八木沼純子さんのフィギュア強化&普及論からMMAが学べること

Yaginuma san【写真】フィギュアのシーズンも始まったが、明日は両国に駆けつけるという八木沼さん (C) MMAPLANET

明日13日(日)に東京都墨田区の両国国技館で開催されるONE 100 Century。同大会の大会サポーターであるカルガリー五輪フィギュアスケート女子シングル代表の八木沼純子さんは、会見で青木真也を掛け合いを見せるなど、意外な一面を見せている。

今や国民的な人気を誇るスター・プレイヤーたちを抱え人気スポーツのフィギュアスケートだが、10代の頃から世界を舞台に戦ってきた八木沼さんは、五輪スポーツでありながら注目度が低かった時代を知る世代だ。

そして、世界で勝てるようになったフィギュアの現状も知る。八木沼さんのフィギュアスケート・コア論から、MMAも普及と強化にヒントを貰えたのではないだろうか。

──八木沼さんがONE、もしくは格闘技に興味を持たれたのはいつ頃なのでしょうか。

「それほどたくさんのモノを見てきたわけじゃないのですが、選手をしていた頃にボクシングの井岡弘樹さんと同じトレーナーの方に就いてもらっていたんです」

──世界2階級制覇の井岡選手と。

「ハイ。その先生が井岡さんの試合に連れて行ってくれたりしたのが、最初だと思います。私はリンクのなかで1人で滑る競技をやってきたので、ボクシングの瞬時に頭と体を反応させて相手を攻略するという部分に対して、『これで決着がつくんだ』と驚きましたね。その一瞬の積み重ねが迫力や熱さを生んでいて、ビックリして……それが私にとって面白いということだったんです」

──そういう意味ではONEはキックボクシングやムエタイという立ち技とMMAの合体イベントですが、やはり打撃の方が分かりやすく面白いモノなのでしょうか。

「でも3月31日にONEを見させてもらった時にアンジェラ・リーとシィォン・ヂィンナンの試合が一番面白かったです。ヂィンナンの肩の柔らかさが凄かったです。あのアンジェラ・リーの技が掛からない。ずっと抜けていて。結果、アンジェラ・リーが諦めてしまったような。華やかで熱くて、あの試合で一気にONEに引き込まれましたね!!」

──そこからサポーターに就任されていくと。9月にOffice de Punch Punchというイベントで八木沼さんが、メディアの仕事を始めた時に「フィギュアに男子なんて要らない」ぐらいの勢いでTV局に言われるほど、理解されていなかったという話が凄く印象の残っているんです。

「あぁ、その話をすると長いですよぉ!!!(笑)」

──あっ、それはスペースの関係もあるので……。

「後輩の青木真也にも『長い』って言われたので、コンパクトに話しますね」

──ありがとうございます(笑)。伝えやすさという部分でフィギュアスケートだと女子になっていたモノが、今は解決できていると捉えていますか。

「2004年シリーズから採点方法が変わり、ISUジャッジングシステムでは各種目ごとに技術点、構成点、ディダクション(減点)を算出し、それらを合計した総合得点によって勝敗が決する方法となりました。それぞれの技術に基礎点がつけられ、その出来栄えによって点数がかわる。現在は、さらにいかに技術が質よく完成度が高く出来ているかが、大切になってきます。

そこでイチからルールを作り直し、そのルールに適合した色々な選手が、そのルールのなかで伸びてきました。結果、男子は数種類の4回転ジャンプの時代に突入し、今や女子も4回転を跳ぶ選手が出てきました。今のフィギュアは様々な挑戦を求められています」

──技というのはジャンプを指すわけでしょうか。

「ジャンプ、スピン、ステップなどがありますが、ここでは大きな得点源となるのはジャンプを指します。格闘技の技術と同じだと思うのですが、相手に勝つための武器ですね。その武器をどれだけ持っているのか。そのテクニックの戦いにフィギュアスケートはなりますね。

ただフィギュアスケートは芸術性とスポーツ性の2つが融合して競技として成り立っています。もともと氷の上を滑る靴ができたのが欧州で、それを競技にしたのが北米です」

──格闘技の記者としては、フィギュアスケートは物心ついた時から五輪スポーツで、伊藤みどり選手など国民に知られた存在があったので、逆に『男子は……』云々の状況にあったことが驚きでした。と同時にルール改正で分かりやすいモノになった時に、『フィギュアはそうじゃない。大切なことを忘れてはいけない』というような反動する意見は出てこなかったのでしょうか。

「80年代、私自身もそうですが、またそれ以前にスケーターとして過ごしてきた方はそれまで滑ってきたフィギュアスケート、自分たちが目指していた形があったと思います。そういった意味では『新しいフィギュアスケートになった』という言葉は少なくなかったかもしれません。

ただし、ベーシック……大切なモノは変わっていないです。なのでテクニックもそうですけど、今は完成度の高さが求められるのでただジャンプを跳ぶだけ、ただスピンするだけ、ただ滑るだけではなくて、いかにプロデュースされているのか──プログラム全体で完成度の高いモノが仕上がっているのか。そこが大切になっています。

なので私達が滑っていた時代よりも、今の選手たちの方が自分をプロデュースしないといけないモノが多くて凄く大変かと思います」

──フィギュアスケートの競技界には規定というのがあったと記憶しています。

「氷の上に正確な円を描き、その上にターンを入れながら正しいエッジでトレースを重ねていく競技です」

──あれは、見ていても……。

「面白くないですよねぇ(笑)」

──ハイ。あの動きというのは、フィギュアスケートのフリー演技をするうえで欠かせないモノだったのですか。それとも切り離された別モノなのでしょうか。

「大事です。今もステップを踏むときに、コンパルソリーでも行われていたターンというものが入っています。
いつまでもコンパルソリーで描いていたような練習方法を練習で取り入れているスケーターも多いと思いますが。そのエッジワークが如何に正しく、深く乗りながらターンとかステップを踏んでいけるのかが重要になってきます。コンパルソリーをしてきた者にとっては、ターンだったり、ステップがとても大切だということは分かっています。

アリーナ・ザキトワの練習を見ていると、氷に降りて軽くスケーティングをした後、20~30分ほどずっとコンパルソリーでのターンの描き方を練習していますね」

──派手なジャンプ、華麗なステップの裏に地道に練習をしているということですね。それは格闘技にも通じてきます。大雑把にいうとMMAでボクシングのワンツー、柔術のヒップエスケープなど欠かせない基礎で。それがないと、KOや一本勝ちは偶然の賜物でしかない。

「やはり、そういう部分があるのですね。私は色々な格闘技を見ているわけではないですが、どのスポーツでもベーシックなモノ、基礎は大切なものだと思います。だから、そこは間違いなくフィギュアスケートも格闘技も通じる部分があると思います。

エッジの使い方、ステップ、ターンの踏み方にしても、腰の捻り方、次のステップに繋げる足捌きなんかも、体全体の使い方が分かっていないと美しくスムーズにいかない。コンパルソリー世代としては、そこはとても大切だと思っています。どういう風にターンするのか……深いターンで次につなげていくのか等、今のフィギュアスケートでも凄く大事なことなんです」

──フィギュアスケートを伝える立場になった時に、今のような話をするということは?

「いやぁ、難しいですね(苦笑)」

──やはり普及、見てもらうためには別の視線が必要になってくるのですね。

「フィギュアスケートって、私が幼少の頃、また選手時代にフィギュアスケートは伊藤みどりさんやその他素晴らしい日本の選手が活躍していても、TVの露出は少なかったように感じます。全日本選手権も夜中の2時や3時にダイジェストが放送されるぐらいでした。それでもTBSさんがフィギュアをずっと支えてくださっていたんです。

そのような状況が変わり出したのは、連盟が夏の新人発掘合宿を行うようになり、小さい頃から有望選手を選出し、海外の大会に派遣するようになったからではないでしょうか。アイスショーでもアマチュア選手の参加が可能になったことで、試合と同じような環境で経験を積めたことが大きいと思います。代表選手としては、荒川静香さんをはじめ、安藤美姫さん、織田信成さん、村上佳菜子さん、浅田真央さん、最近では紀平梨花さんなど多くの可能性をもったスケーターが多く生まれてきました。

中継がフジTVに代わり、国分太一君が放送に関わるようになりました。太一君は本当に分からないことだらけだったのに、凄く勉強してフィギュアを理解していって。その頃から若いファンも増えて、同時にTVでの露出も増えていきました」

──フジTVの大晦日が格闘技からフィギュアに変わった時期がありました。真央ちゃんにやられたなって(笑)。

「でも、今はまたRIZINをやっていますよね。那須川天心選手とか……。フィギュアでいえば、あの露出が増えた時、あそこから勝てる選手が出てきたんです」

──やはりそこですね。勝たないと。

「フィギュアは今、世界に出てメダルを獲れる選手が多いです。しかもそれぞれが個性があるから見る人たちも増えていると思います。伊藤みどりさん、高橋大輔、中野友香里、荒川静香などいろいろな特徴を持った選手が同時に存在しているような状況なんです。今はそれが大きいかと思います」

──勝って、個性がある……。MMAは勝てていないんです。勝てないと求心力を持てないし、伝わらない。だから強くなれる環境作りも大切になってくるかと。

「フィギュアスケートも以前は、全日本選手権が1500人の会場で開かれ、お客さんの数も500人ぐらいでした。本当に選手の身内だけが見に来る大会で、あとはフィギュアスケートのファンの方々が少し、いらしてくださるほどで」

──それが今や、さいたまスーパーアリーナに2万、3万人のファンが集まる。

「私からすれば大変有難い時代に入ったな、素晴らしいなと思っています。長野五輪で素晴らしい能力を持った本田武史、田村岳斗、荒川静香の三人が男女シングルで出場しました。ですが、自国で開催される五輪は思っている以上にそれぞれプレッシャーも大きかったことでしょう。実力を出し切ることが難しかったその時の結果から、どんな環境にも気後れせずに平常心でいられる強い気持ちを持ち、どんな環境にも対応できる選手を多く育てることを考えていったことも、いまの強い選手が多く育っていることにつながっているのではないでしょうか。

そこから先ほどお話したように、若い選手をピックアップして海外派遣を増やしました。場数を踏まえて、場慣れさせる。と同時に、夏の新人発掘合宿など並行して行ってきました。プロとアマが接点を持ってはいけないという規定があったのですが、それも取り払い……アイスショーのなかでアマチュアの選手が、試合と同じように見ている人が多いなかで滑ることを経験させる。そういう試みを続けた結果、皆が強くなっていきました」

──いや、こういうと失礼極まりないのですが、今日は八木沼さんにMMAを知ってもらおうじゃないかというような気持ちでいたのですが、逆に色々と教わることができました。MMA界が成長するためのヒントを頂けたと思います。

「いえいえ、そんなぁ」

──ハイ。なんとかしようと踏ん張っている選手もいますので、応援お願いします。フィギュアの話を伺って、格闘技やMMAがどうすれば良いのか、格闘技だけを見ていると分からないことを教えていただけました。また13日、宜しくお願いします。シィォン・ヂィンナンとアンジェラの再戦もありますので。

「ハイ。パート1のメインですよねっ!! ちょうどフィギュアスケートのシーズンが始まり、私もフィギュアの方に足を運ばないといけないのですが、その前に第一部を観戦したいと思っています!!」

■ONE100 第1部対戦カード

<ONE世界女子アトム級(※52.2キロ)選手権試合/5分5R>
[王者]アンジェラ・リー(米国)
[挑戦者] シィォン・ヂィンナン(中国)

<ONEフライ級(※61.2キロ)ワールドGP決勝/5分3R>
デメトリウス・ジョンソン(米国)
ダニー・キンガド(フィリピン)

<ONEライト級(※77.1キロ)ワールドGP決勝/5分3R>
クリスチャン・リー(米国)
ザイード・フセイン・アサラナリエフ(トルコ)

<キックボクシング女子アトム級/3分3R>
ジャネット・トッド(米国)
エカテリーナ・ヴァンダリエヴァ(ベラルーシ)

<フライ級(※61.2キロ)/5分3R>
若松佑弥(日本)
キム・デフォン(韓国)

<ムエタイ・フライ級/3分3R>
サムエー・ガイヤーンハーダオ(タイ)
ダレン・ローラン(フランス)

<ウェルター級(※83.9キロ)/5分3R>
岡見勇信(日本)
アギラン・タニ(マレーシア)

<女子アトム級(※52.2キロ)/5分3R>
平田樹(タイ)
リカ・イシゲ(タイ)

<フライ級(※61.2キロ)/5分3R>
仙三(日本)
リト・アディワン(フィリピン)

<フェザー級(※70.3キロ)/5分3R>
プー・トー(ミャンマー)
ユン・チャンミン(韓国)

<68キロ契約/5分3R>
スノト(インドネシア)
クォン・ウォンイル(韓国)

■ONE100 第2部対戦カード

<ONE世界ライトヘビー級(※102.01キロ)選手権試合/5分5R>
[王者]オンラ・ンサン(米国)
[挑戦者]ブランドン・ベラ(米国)

<ライト級(※77.1キロ)/5分3R>
青木真也(日本)
ホノリオ・バナリオ(フィリピン)

<ONE世界バンタム級(※65.8キロ)選手権試合/5分5R>
[王者] ビビアーノ・フェルナンデス(ブラジル)
[挑戦者]ケビン・ベリンゴン(フィリピン)

<ONE Super Seriesムエタイ世界フライ級選手権試合/3分5R>
[王者]ロッタン・シットムアンノン(タイ)
[挑戦者]ヴァウテウ・ゴンカウベス(ブラジル)

<ONE Super Series キックボクシング・フェザー級ワールドGP決勝/3分5R>
ジョルジオ・ペトロシアン(イタリア)
サミー・サナ(フランス)

<ヘビー級(※120.2キロ) 5分3R>
マウロ・チリリ(イタリア)
アージャン・ブララ(カナダ)

<女子アトム級(※52.2キロ)/5分3R>
山口VV.芽生(日本)
ジェニー・フアン(台湾)

<修斗✖パンクラス王者対抗戦ストロー級(※56.7キロ)/5分3R>
猿田洋祐(日本)
北方大地(日本)

<修斗✖パンクラス王者対抗戦バンタム級(※65.8キロ)/5分3R>
佐藤将光(日本)
ハファエル・シウバ(ブラジル)

<修斗✖パンクラス王者対抗戦ウェルター級(※83.9キロ)/5分3R>
エルナニ・ペルペトゥオ(ブラジル)
手塚裕之(日本)

<修斗✖パンクラス王者対抗戦ライト級(※77.1キロ)/5分3R>
松本光史(日本)
久米

PR
PR

関連記事

Movie