【Special】月刊、青木真也のこの一番:1月─その弐─セフード✖ディラショーからの格闘幸福論
【写真】UFC世界バンタム級王者が、過酷な減量を敢行してフライ級王者に挑み敗れた (C)Zuffa LLC/Getty Images
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2019年1月の一番、第2弾は19日に行われたUFN143からUFC世界フライ級選手権試合=ヘンリー・セフード✖TJ・ディラショーの一戦を語らおう。
過酷の減量をしてこの一戦に挑んだディラショーを鑑み、青木が想う格闘技によって得られる豊かさとは。
──1月の青木真也が選ぶ、この一番。では2試合目は?
「ヘンリー・セフードとTJ・ディラショーの試合です。あの試合に関して、僕はワクワク感はなかったんです。ありました?」
──活動を休止するという話のフライ級王座にバンタム級世界王者が挑む試合ですからね。
「ですよね」
──それなのにこの試合をピックしたのは、どうしてですか。
「やっぱ減量は怖いなと」
──行き着く話はそこになりますか。
「未だにONEの計量システムだったらフェザー級で戦えるでしょうって僕も言われるんです。まぁ、体重を落とすだけならできますよ。でも、生活に潤いがなくなってしまうのでやりたくないんです。
なんていうんですかね、勝たないといけないという勝利至上主義の世界観のなかでは、減量してでもという流れになる。落とせば強いっていうロジックですよね」
──それが水抜き&ハイパーリカバリーが注目されて以来、もう10年以上の流れがあり、そうではないナチュラル派は少数ですよね。
「で、あのディラショーの本計量の時のカリカリ感ですよ」
──健康体に見えない。そんな体つきでした。
「ガリガリで必要な筋肉も落としている。でも、もうあそこはしょうがないかと。あの人達はとことん競い合う人達だから。でも、どこかで競技生活を続ける上での豊かさとの着地点は見つけた方が良いと思うんです」
──彼らはあそこまでやり、その跳ね返りが大きいです。
「これはねぇ、また面倒くさい話になってくるんですけど、ああやって得られる報酬というモノを考えると資本主義の崩壊に通じてくるじゃないですか。UFCにはそこまでの跳ね返りがある選手がいて、一握りの選手が巨万の富みを得ることができる。それはもう格差が広がり過ぎて、資本主義が成り立たないことになる」
──強い者が結果を残して大金を得ることは正解かと思うのですが。
「正解です。正解ですけど、その富が分配されないと……これって社会が抱えて来る問題ともリンクしてきませんか?」
──では青木選手のいう競技生活としての豊かさとは、GNPではなくブータンにおけるGNH(国民総幸福量)のようなモノなのでしょうか。
「そっちに大分行っていますね(笑)」
──持続可能な社会経済開発、環境保護、伝統文化の振興、優れた統治力……まぁ、今これらの単語を並べてもそういうJ-MMA界だったら良かったのにという印象は得られますね(笑)。
「もう右か左かという判断基準は成り立たないと思うんですよ。これは保守、これは革新では成り立たない。結局、僕が格闘技をやる上で譲れない軸は、格闘技って豊かになるモノだし、格闘技に携わった全員が豊かになって欲しいんですよ」
──う~ん、それは北米の弱肉強食、そして拝金主義という一面を踏まえると、青木選手の言う幸福は北米MMAには当てはまらないと思います。
「ゴードン・ライアンがホームレスが亡くなったことで、働かないからだみたいなことを言っちゃうじゃないですか。でも、俺はそうは思わない。社会のシステムが上手く回っていないからああなってしまった。当然、働かないといけないけど、亡くなった人が努力できない環境が存在していると思うんですよ。
だから……あそこまで新自由主義というか、ネオリベになれない」
──青木選手がそれを言えるのは、格闘技で成功しているからですよね。
「いや……成功はしていないけど、割と成り立っている。そういう人間って左側のコトを言い始めますよね。でも格闘技をして豊かになるという部分は譲れないから、ステロイドも反対だし減量もやらないんです」
──ファイトマネーが10万に満たない選手は強くなってまずは100万、そこから1000万欲しいと考えますよね。富の分配とか考えずに。
「そうなんですよね。青木アワードで中原(由貴)さんと話した時、『とにかく金が欲しい』って言うんです。『青木さんのようにチャンピオンになった方が後々の人生で得をすると言ってくれる人はいるけど、自分はとにかく金が欲しい。今のファイトマネーじゃ暮らしていけないから』とハッキリと言ってくれたんです。
それを聞いて、僕も反省というか……中原さんの意見は理解できたので……理論上は精神的に豊かさを求める格闘技というのはあるのですが、その正論が暴論になるなと思ったんです……中原さんの言葉を聞いて。そこは反省しました」
──同時に正論を唱え続ける必要もあるかと思います。
「正論は必要ですよね。それがないとリテラシーが下がる。でも、その環境にない選手のことも理解しないと」
──青木選手は正論を言う立場になったということではないでしょうか。キレイごとを誰かが口にしないと、世の中は汚れていく一方です。
「ですね。だから選手の立場を分かって……格闘技をして豊かになると口にすることかと。ONEと修斗の提携の挨拶をするのに、修斗のリングに2007年2月に菊池(昭)と戦った時以来初めて上がったんです。
あの時、スカッときました。あの提携について『どうなの? 修斗って』という意見があるじゃないですか? でも、僕が選手だったら有難いと感じるはずなんです」
──「修斗とは」と唱えることができる人は、格闘家でなく他に仕事を持っていて生活が成り立っている人だと。
「そうなんです。僕はやっていけないから、一度就職したんで。だから投資のお金でも、バブルでも……それで盛り上がっていければありがたいと思いました」
──なるほど、です。では、改めて減量をし過ぎたディラショーの敗北に話を戻させてもらって良いですか(笑)。
「ハイ、そうしましょう(笑)」
<この項、続く>