【WJJC2019】表彰台独占?! ライトフェザー級にイアゴ、ミヤオ兄弟&バホスのシセロ・コスタ道が敷かれる
【写真】ヨーロピアン&パンはクローズアウト、ワールドプロとブラジレイロで優勝と絶好調のイアゴ・ジョルジが優勝候補筆頭か(C)MMAPLANET
5月29日(水・現地時間)から6月2日(日・現地時間)にかけて、米国カリフォルニア州ロングビーチのカリフォルニア大ロングビーチ校内ピラミッドにて、IBJJF主催のブラジリアン柔術世界選手権が行われる。レビュー第2回はライトフェザー級の見所をお届けしたい。
昨年優勝のマイキー・ムスメシが階級を落とし、準優勝のアリ・ファリアスの名前もリストに見当たらないこの階級。軽量級最大勢力というべきシセロ・コスタ勢──パウロとジョアオのミヤオ兄弟、イアゴ・ジョルジ、チアゴ・バホス──の4人全員が(「PSLPBシセロ・コスタ」と「シセロ・コスタインターナショナル」と所属を二つに分けて)エントリー。 この4人衆は(今回のトーナメント表を4つのブロックに分けたとき)全員別ブロックに配置されているため、同門4人によるメダル独占という前代未聞の快挙が狙えることとなる。
4人衆の中でもっとも勢力的に試合に出ているミヤオ弟のジョアオは、今年のヨーロピアンとパンではジョルジと(パンでは3位のパウロも共に)クローズアウト。しかしワールドプロではガブリエル・ソウザに惜敗、続くブラジレイロではアレクサンドロ・ソドレにパスを許してともに準優勝に終わっている。輝かしい戦績を持ちながらもまだ世界制覇を果たしていないだけに、今回賭けるものは大きいはずだ。
上のフェザー級で戦うことの多い兄パウロは、今年ヨーロピアンをフェザー級で制し、パンは同門2人とクローズアウト、そしてワールドプロでもフェザー級で優勝を果たしている。が、直前のブラジレイロのフェザー級では、ヨーロピアンとワールドプロの決勝で下したアイザック・ドーダーラインに初敗北を喫して、準優勝に終わっている。今回、弟ジョアオとは決勝まで当たらないブロックに配置されたパウロ。4人全員での制覇でなくても、弟ジョアオとの兄弟クローズアウトが実現すれば、これも世界大会黒帯の部初の快挙となる。
そして、シセロ・コスタ勢の中で今年もっとも勢いがあるのがイアゴ・ジョルジだ。きわめてタイトなパスガードを主武器にヨーロピアンとパンを同門のミヤオ兄弟とクローズアウトしたジョルジは、さらにワールドプロではカルロス・アルベルト、ブラジレイロでは(準決勝でジョアオに完勝した)アレクサンドロ・ソドレという若手の成長株をそれぞれ決勝で下して優勝を飾っている。つまりクローズアウトも含めれば、ジョルジは現在本年度のメジャー国際大会全てで優勝していることとなる。この世界大会も制すれば五大大会グランドスラムという偉業達成となる。
最強軍団の最後の一人がチアゴ・バホス。現在33歳で、昨年はマスターの世界大会を制したベテランだ。今年はまだ目立った活躍が見られないが、強力なパスガードを武器に15年の世界大会では3位、一昨年パン大会優勝の実績を誇るワールドクラスの強豪だけに、同門3人とのクローズアウトを成し遂げる実力は十分にあるだろう。
しかしこの階級では、そんなシセロ・コスタ勢のメダル独占の阻止を狙う強力な若手ブラジル勢もエントリーしている。特にワールドプロでジョアオにモダン柔術戦で競り勝った22歳のガブリエル・ソウザ(ZRチームアソシエーション)は、今年のグランドスラム・ロンドンではジョアオとジョルジの両者と倒して優勝。昨年はバホスにも勝利しているソウザは、今回は一回戦を勝てば次戦でそのバホスと戦う組み合わせだ。シセロ・コスタ4人衆のクローズアウト実現のための、最大の壁と言える。
そしてこのソウザと並ぶ有望株が、ブラジレイロでジョアオからパスを奪い完勝したやはり22歳のアレクサンドロ・ソドレ(ノヴァウニオン)か。勝ち進めば、準々決勝で上述のバホス対ソウザの勝者と戦う公算が高い。この若き二人とシセロ・コスタ勢の戦いは、世界柔術を舞台に行われるブラジル人選手の世代闘争と捉えることもできるだろう。
このように新旧ブラジル人強豪選手がひしめくこの階級で、もっともメダル獲得に期待がかかる日本人選手が嶋田裕太(ネクサセンス)だ。近年の国際大会にて4度までもジョアオの軍門に降っている嶋田。勝利まで紙一重のところまで迫るものの、今年はヨーロピアンではペドロ・クレメンチ相手に不可解判定に泣き、単身乗り込んだブラジレイロでは、アレクサンドロ・ソドレに敗れている。今回の嶋田の初戦の相手が、そのソドレだ。そしてもしこの難敵にリベンジを果たすことができれば、準々決勝で待っているのはおそらくバホス対ソウザの勝者だろう。
その後の準決勝はジョアオ(あるいはジョアオを倒した強者)、そして決勝はパウロかジョルジ(あるいは彼らを倒した強者)との対戦となる。つまり嶋田は、優勝するには初戦から決勝までの4試合全て、世界的超強豪と戦い続けなければならないこととなる。世界制覇を目指す途轍もない困難な道を往く嶋田の競技柔術人生を、まるで一大会に凝縮したかのようなこの試練──どう立ち向かうか見届けたい。
さらにこの階級には、鍵山士門(デラヒーバ・ジャパン)、山田秀之(トライフォース)、加古拓渡(グラップリングシュートボクサーズ)、という3人の日本人選手もエントリーしている。鍵山と山田の2人は近年勢力的に国際大会に出場しており、今年のパン大会で鍵山はジョアオ・ミヤオ相手に世界の壁の厚さを体感し、山田は強豪レネ・ロペス相手に互角の勝負を演じている。鍵山は初戦のラム・アナンダ戦を突破すると、再びジョアオに挑むこととなる。山田の初戦の相手は、春に嶋田相手に勝利している試合巧者のペドロ・クレメンチ(カーウソン・グレイシー)だ。ここを突破するとおそらく準々決勝でイアゴ・ジョルジが待っている。
そして加古は2年ぶりの世界大会参戦。日本人初のベリンボロ・マスターとして名を馳せ、2016年の世界大会3位(準々決勝で敗退したものの、優勝者パウロ・ミヤオの薬物検査失格を受けて繰り上げ)という実績を持つ男の初戦の相手は、昨年パン大会準優勝のパブロ・マントヴァーニ(アトス)。昨年のパン・パシフィック大会で加古はこのマントヴァーニ相手に得意のハーフガードをパスされ、さらにバックを奪われて絞めで完敗している。勝負師加古がこの世界的強豪相手にどうリベンジ戦を挑むか、注目したい。
シセロ・コスタ勢が創り上げたVロードは、他の出場選手にとっては泥濘と深い木々に前方を遮られた獣道──のようなライトフェザー級だ。