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【AJJC2017】全日本ライトフェザー級優勝からアジアへ、橋本知之─01─「全ては必然です」

Tomoyuki Hashimoto【写真】独得の感性と、確固たる自分を持つ橋本。後編では青木のMMA×柔術論についても、その個性を十分に発揮してくれる(C)MATSUI TAKAO

9月8(金)から10日(日)まで、東京都足立区にある東京武道館で、IBJJF主催のアジア柔術選手権2017が開催される。

IBJFFの4大国際戦の一つで、海外の強豪選手も参加する同選手権は、各階級に日本のトップランナーが勢揃し、日本で見られる柔術トーナメントの最高峰といえる。

ここでは今年の世界選手権アダルト黒帯ルースター級3位に入賞し、全日本選手権はライトフェザー級で優勝したばかりの橋本知之。世界で戦う橋本に大会への抱負、そして彼の想う柔術とは何かを前後編に分けて掲載。今回は全日本選手権を振り返りつつアジア選手権へ向けての意気込みを語ってもらった。
Text by Takao Matsui


――全日本選手権の優勝、おめでとうございます。

「ありがとうございます。大きなミスがなければ優勝できると思っていましたので、結果を出せて良かったです。もちろん試合なので負けることも想定していましたが、勝ったことがある選手が相手だったので、精神的にそこまで追い込まれてはいませんでした」

――世界選手権で入賞したことは、自信につながっているのでしょうか。

「そうですね。それもそうですし、この1年で強くなっている自信もありました。新しい技術を練習していたので、それが試合で出せて良かったです」

――新しい技術とは?

「分かりやすいところで言えば、決勝のデラヒーバフットロックです」

――鍵山士門選手に極めた、アキレス腱固めですね。

「デラヒーバガードから足をすくってフットロックをかけるんですけど、前からずっと練習をしていたモノのが、ようやく自分のものになってきました。今年の世界選手権の前にカイオ・テハのところで練習した時に教えてもらい、コツがつかめるようになっていたんです。それまでも試合で使っていたんですけど、なかなかうまく極められなかったんですよね」

――相手の意表を突く攻撃になったのでしょうか。

「有名な技なので、知っていたとは思います。でも実際に試合で使う人は、そんなに多くないので、対応が難しかったのかもしれません」

――残り1秒での一本勝ちでした。

「一応、ポイントでは勝っていたので、最後に使いたいなと思って技をかけたら極めることができました」

――鍵山選手とは2年前のジャパニーズ・ナショナル以来の再戦になりました。接戦になった印象もありましたが、実際はどうでしたか。

「戦っていて、そこまで接戦になっている印象はなかったです。最初にダブルガードからトップを取られてアドバンテージを失いましたが、僕の中で一回くらいミスをした以外は、終始、試合をコントロールしている感覚でした」

――そうなのですね。初戦は澤田真琴選手と戦い、準決勝は山田秀之選手に競り勝ちました。こちらの試合は危ない場面はなかったですか。

「全ての局面ではないですけど、展開としては僕が優勢に試合を進めている意識でいました。過去の対戦を見れば確率的には僕が優勝する可能性が高いと思っていましたので、予想していた通りの結果になって良かったです」

――ちなみに、優勝する確率はどのくらいあると分析していましたか。

「うーん……、80パーセントくらいですかね。自分の中では、ですけどね。圧倒的な差まではないと思っていましたが、最後は勝てるだろうなと予想していました」

――20パーセントの不足分は?

「今回はルースター級ではなくライトフェザー級なので、フィジカル面での不安ですかね。20パーセントは、その分です。鍵山さんなどはフィジカル強いし、そこは勝てないですから。足りない部分は、技術で埋めていった感じです」

――ルースター級の出場は考えなかったのでしょうか。

「昨年も全日本選手権はライトフェザー級で出場しましたし、あまり考えませんでした。年に何回も減量して体重のアップダウンをしたくないと思っています。アジア選手権はルースター級で出場するので、同じ選手と何度も対戦しても面白くないかなと思いました」

―アジア選手権は、ルースター級ですか。ライトフェザー級で嶋田裕太戦が実現するのでは?という期待もありました。

「ライトフェザー級出場も少し迷いましたけど、世界選手権やパン選手権はルースター級で出場するので、階級を合わせた方がいいと判断しました。ルースター級の戦い方に慣れることが大事かなと思っていましたので」

――いや、仰る通りですね。目指すは世界ですから。

「試合でやることは変わりませんけど、階級ごとに相手の戦い方が違いますし、自分が軽くなっていることも影響があります。体重が軽いとトップからのプレッシャーも変わってきますから、パスが難しくなるんです。

重い階級は体重があるので抑え込みがやりやすくなりますが、軽いと押されて弾かれやすくなります。その分、バックを取る展開が多くなるんです」

――ではルースター級出場ということで、やはり注目は芝本幸司選手との試合になります。昨年のアジアで芝本越えを果たしました。

「勝ったといっても終盤まで負けていましたし、アドバンテージ差ですからね。それでも一昨年に負けた後と比較して、昨年は戦いやすくなっていましたので、僕の方が成長度でいえば巧くなっていたのかなと思います。さらにこの1年でいい練習ができているので、ちゃんとやれば行けると信じています。

今回も厳しい戦いになるでしょうが、僕の方がトータル的に上回っているのではないですかね、やってみないと分かりませんけど」

――芝本選手は今年の全日本選手権で、対戦相手の欠場などでケガからの復帰戦ができませんでした。

「休んでいたといっても4、5ヵ月のことだと思いますので、あまり影響がないのではないですかね。普通に、変わりなく強いと思います」

――今回も接戦になりそうですね。

「僕的には、ポイントを奪って差をつけたいですけど、そんなに簡単な相手ではないので。その一方で、行けるのではないとかという楽観的な自分もいますけど」

――追いかける立場から追われる立場になりました。

「僕は追いかけるとか追われるとか、そういう意識は持っていないです。それよりも、自分の柔術、技術はどうなんだろうとか、それを試合で知りたいという感じです。世界チャンピオンになっていれば、負けられないとかそういう感情が芽生えるかもしれませんけど、自分にはないですね。そこを考えても仕方がないと思います」

――下から出てきた選手に負けたくないのでは。

「仮にそういう結果が出たとしても、自分が弱かっただけのことです。相手の柔術が、巧かっただけですからね。そこで悔しがることはないです。世界チャンピオンに負けることと、下から出てくる選手に負けることは、一緒です。

負けは負けです。負け方やポイント差によっては評価に違いがあるかもしれませんけど、偶然で負けることはなく、すべて必然です。そこは受け止めるしかないんです」

――なるほど。そこまで冷静になれるのですね。コイツには負けたくないとか、熱くなることはありませんか。

「こういうやつに負けたくないとかは分かりますけど……、イケメンに負けたくないとか(笑)。それはそれで、考えても仕方がないことじゃないですか。相手のことを考えて勝ちに徹することは大切だとは思いますけど」

――橋本選手は相手をよく研究するタイプですか。

「それも、あまりしないですね。初見の技を食らわないとか、そのくらいです。まったく知らない相手と対戦する場合は、得意技を見るくらいですかね。別に練習している技を相手に知られたからと言って、試合に影響するわけでもないですし、極められる選手は技をシェアしていてもそれで勝てるじゃないですか。

一発の技を開発したら、黙って試合で使った方が良いと思いますけど、なかなかそんなことはないですからね。良い技は、みんながシェアして研究するようになりますよ」

――デラヒーバフットロックも、同様ですね。

「有名な技ですからね。そこからスイープやベリンボロへつなげることができるし、相手を止めることもできます。とても便利な技です。特別ではないですが、対応の準備をしておくことが重要だと思います」

――世界選手権でも、初見の技はなかったですか。

「なかったですが、カイオからはブルーノ・マルファシーニ対策としてレッグドラッグのディフェンスをしっかりしておくように言われました。難しくて、そんなに自分のものにできなかったですし、試合でそういう展開になりませんでしたけど」

――橋本選手でも、習得に難しい技術があるのですね。

「あります、あります。まだまだ、たくさんありますよ」

<この項、続く>

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