【UFN81】我儘ファイト世界一決定戦=TJ・ディラショー×ドミニク・クルーズ
【写真】ステップ、スイッチ、踏み込み、フェイント。一瞬たりとも目が離せない神経戦が繰り広げられるであろうバンタム級頂上決戦だ(C)MMAPLANET
17日(日・現地時間)、マサチューセッツ州ボストンのTDガーデンで行われるUFC Fight Night81「Dillashaw vs Cruz」。米国のTV中継に合わせ、日本や豪州では日曜の午前中からイベントが始まることもあるUFCだが、米国では非常に珍しい。そんな同大会のメインはイベント名にある通りTJ・ディラショー×ドミニク・クルーズのUFC世界バンタム級選手権試合だ。
王者ディラショーはMMA戦績12勝2敗、これが3度目の王座防衛戦となる。一方、チャレンジャーのドミニクは20勝1敗、初代UFC世界バンタム級王者ながら度重なるヒザの負傷で王座剥奪、水垣偉弥を復帰戦で下すもまたも長期欠場となり、これが1年4カ月振りのファイトとなる。
ドミニクはWEC王者時代からスイッチを多用し、どちらの構えからも蹴り、ヒザ、パンチを上中下に打ち分けることができ、さらにテイクダウンにつなげるというファイトスタイルを構築。MMAに革命を与えたファイターだ。
一方、ディラショーが前王者ヘナン・バラォンを破った時、「パワーのあるドミニク」という言われ方をした。ディラショーもまたスイッチを交え、相手を幻惑するファイトを展開したうえでフィニッシュに結びつける試合をやってのけたからだ。
ディラショーもドミニクもベースはレスリング、組み技と打撃では、構えた際に利き腕の位置が前後逆になる。組み技では利き腕が前、打撃では後ろに置く。日本ではレスリングや柔道のオーソの構えだったファイターが、MMAに転じるとそのまま打撃ではサウスポーとなるケースが多いが、米国では重心が前足に置かれるクラウチングを矯正するために打撃でもオーソを習得させる傾向が強い。
その過程においてスイッチヒッターとなるファイターが多いなかで、ドミニクのそれは単なるスイッチに留まらず、多くのフェイクと遠距離から仕掛け、そして近距離での攻撃と多彩な前後の動きを取り入れたステップが昇華されている。ディラショーがパワーのあるドミニクと称されるとすれば、ドミニクはよりスピードと変化のあるディラショーといえるだろう。
このようにスイッチを多用し、打撃から組み技にスムーズにつなげる展開を得意とする両者だが、チャンピオンはシングルからバックキープというその後の展開を望み、挑戦者はダブルで一気にテイクダウンしスクランブルで相手を疲弊させるという特色を持つ。
実際、酷似しているというスタイルもドミニクはより動きが大きく、その動きの大きさが雑になることなく、正確なジャブを打ち込むためのフェイクになり、特有の動きを可能にしている。一方のディラショーの特徴は左右のハイキックだろう。ジャブやストレートに相手の意識を持ってこさせ──あるいは視線をふさいでから、一旦沈み込むように重心を下げて左ハイを放っていく。その蹴りも左中心というイメージがあったが、今では右のハイキックもスムーズに繰り出されるようになった。
自分の動きをして相手を戸惑わせるのが両者の基本、言ってみれば我儘ファイト世界一決定戦だ。より自分の動き、あるいは相手を意識せずに動くことができるかが、重要になってくるだろう。そしてこれだけ引き出しの多い両者の試合だけに、何が有効でどこか論点になるのか技術的に探ることは困難であり、あまり意味を持たない。2人とも我々の意識の先を行くファイターなだけに、この試合でまた何かMMAの進化を感じさせる動きをしてくる可能性も高い。
そんな技術的なファクター以外に気になるのが、やはりドミニクのブランク、実戦の勘という部分だ。前述したように1分間で終わった水垣との試合が16カ月前、それ以前の試合となると現フライ級絶対王者デメトリウス・ジョンソンを完封した2011年10月にまで遡る必要がある。つまりドミニクは過去4年と3カ月で2試合、5Rと61秒しかオクタゴンで戦っていないことになるのだ。
本人が口にすることはないが、不安を感じないことはあり得ない。同様にチャンピオン陣営の不安材料はチーム・アルファメールを離れ、かつてのリーダー=ユライア・フェイバーとの確執が続いている点だ。試合が近づくにつれ「気にしない」という発言をするようになったディラショーだが、そこには無視するという意識が働き平常心でないような雰囲気も伝わってくる。
そして、そのディラショーをして「ベスト・トーキング」と言わしめた、ドミニクの借金回収サルベージ請負人のような──追い込みを掛け逃げ道を失くすトラッシュトークでは、その点も就かれ「アルファメールを離れたのは正解。なんせ、お前の優秀な元チームメイトは俺には勝てなかったんだから」と突っ込まれもした。絶対に負けられないのは両者揃って同じこと。ただし、その理由のなかに移籍問題が絡み、より良いパフォーマンスが必要という心理状態がディラショーに働くとすれば、それはマイナスしかならないだろう。
「お前の話は2つだけ。『ゲームに穴がある』、『KOする』のみ。でも根拠がない。お前はまがい物なんだ」というドミニクの言葉に対抗するには、その根拠をオクタゴンのなかでディラショーは見せるしかない。そうなった時こそ、実はドミニクの真価が問われる瞬間でもある。
■ UFN81対戦カード
<UFC世界バンタム級選手権試合/5分5R>
[王者] TJ・ディラショー(米国)
[挑戦者] ドミニク・クルーズ(米国/1位)
<ライト級/5分3R>
アンソニー・ペティス(米国/1位)
エディ・アルバレス(米国/4位)
<ヘビー級/5分3R>
トラヴィス・ブラウン(米国/6位)
マット・ミトリオン(米国/14位)
<ライト級/5分3R>
ロス・ピアソン(英国)
フランシスコ・トリナルド(ブラジル)
<ウェルター級/5分3R>
パトリック・コーテ(カナダ)
ベン・サンダース(米国)
<ライトヘビー級/5分3R>
ティム・ボッシュ(米国)
エド・ハーマン(米国)
<ライト級/5分3R>
クリス・ウェード(米国)
メディ・バグダッド(フランス)
<フェザー級/5分3R>
マキシモ・ブランコ(ベネズエラ)
ルーク・サンダース(米国)
<ライト級/5分3R>
ポール・フェルダー(米国)
ダロン・クルックシャンク(米国)
<フェザー級/5分3R>
チャールズ・ロサ(米国)
アウグスト・メンデス(ブラジル)
<ライトヘビー級/5分3R>
イリル・ラティフィ(スウェーデン)
ショーン・オコネル(米国)
<バンタム級/5分3R>
ロブ・フォント(米国)
ジョーイ・ゴメス(米国)
<ライトヘビー級/5分3R>
フランシマール・バローゾ(ブラジル)
エルビス・ムタプチッチ(米国)