【Special】キックボクシング・ルネッサンス Glory&K-1総括対談(02)
5月26日(土・現地時間)にストックホルムで開催された「Glory World Series 2012」と、翌27日(日・同)にマドリッドで行われた「K-1 RISING 2012」が開催された。
キック再興への2日間、そして欧州中心のキック界の再構築となった二つの大会を振り返る対談。第2回はGlory70キロトーナメントを中心にお届けします。
高島 ピンカに完勝といって良い試合をペトロシアンはやってのけました。
中村 ピンカもよくミドルを蹴ったり、あれだけバランスの良いペトロシアンをこかせたりしていたんですけど、あのルールで判定をつけるなら、ペトロシアンに全ラウンドつけざるをえない。随所に良いところは見せていたのですが……。
高島 そのルールですが、首相撲5秒ルールは一体、どうなったんだろうかという(笑)。
中村 確かに(笑)。解釈の問題ですが、5秒以内にヒザを一発とか……。
高島 2発出すと注意されていましたよね。
中村 もう、いわゆるK-1ルール。ほぼ同じですね。2日連続で、同じルールでやっているように見えましたし。
高島 ペトロシアン以外で、印象に残った選手は誰になりますか。
中村 代役出場でケムに勝ったダビッド・キリア。あの選手は本当に興味深いです。最初、ケムはなぜ倒れたんだろうって思ったぐらいだったんです。
【写真】ダビッド・キリア×ケム・シッソーピノーン。代役がキリアが、左ハイでダウンを奪い判定勝ち。波乱を起こした(C)BUS UTERWIJK
高島 両手で押しておいて、大外からくる左ハイキック。
中村 横からでしたね。首を取りにいこうとして、あの態勢になったのでしょうか?
高島 僕は視線を塞いだように感じましたね。
中村 両手押し、手を伸ばした状態から蹴るというのは、空手的なテクニックですよね。ああいう技術は、あまり使う人がいない。
高島 そのキリアが現在では、セーム・シュルトの同門でデイブ・ヨンカーズの下でトレーニングしているのは興味があります。
中村 グルジア出身で極真空手をやっているだけで、ロマンを感じますしね。熊久保さんが「ビターゼ・タリエルの弟子か?」って言っていました(笑)。フィニッシュ以外でも、飛び込みアッパーとかも巧かったです。ムエタイスタイルのディフェンスの間をアッパーで打ち抜いていました。
2Rは取りかえされたと思うんです。でも、3Rを取らせなかった。気持ちも強いですね。1Rにダウンを奪って、2Rに反撃を許すと、そのまま3Rもペースを握られることが多いと思うのですが、3Rにケムに攻め込まれないように戦うことが出来ていました。勝負強さ、勝負根性もある選手ですね。
高島 旧ソ連、そして極真、精神力が弱かろうはずがないって思ってしまいます(笑)。
中村 そういう強さがあるっていうのは、驚かされました。ああいうバックボーンを持った選手が、ダッチ・キックボクシングを学ぶのは重要なのかもしれない。キックボクシングって日本で生まれ、日本語なので強引に言ってしまうと、ムエタイ、キックボクシングとはまた違うダッチ・キックボクシングのスタイルも有りなのかなって。
【写真】サニー・ダルベック×ウォーレン・スティーブルマンス。日本でも実績を残すスティーブルマンスが、地元のダルベックに押し切られた(C)BUS UTERWIJK
高島 同じ代役出場ではウォーレン・スティーブルマンスが、スウェーデン人のサニー・ダルベックに負けた試合も驚きました。ダルベックは荒いムエタイスタイルの持ち主のようでした。
中村 サウスポーで、蹴りで距離を取って戦う。日本で強いと思われている選手が、ああいう若い選手に負けてしまうこともあるんだと、少し驚いています。
高島 地元の利というのは、数字に表れわれていない部分で本当にあるのでしょうね。これから欧州中心でイベントが回るようになると、日本人選手はこれはもう相当な覚悟が必要になってきますね。あとはエアポケットに入ったかのような、米国人同士の対戦がありました。カイ・ホーレンバックが、マイケル・コーリーを破った一戦なのですが。
中村 あれはコーリーのレベルが低くて、勝者の強さも分からない微妙な一戦でした(笑)。
【写真】カイ・ホーレンバック×マイケル・コーリー。ホーレンバックが何もさせず、1RでTKO勝ちしたが……(C)BUS UTERWIJK
高島 米国で中継があるから、米国人を残す必要があったんだろう――みたいな(笑)。ベラトールのトーナメントで準決勝が米国人同士とブラジリアン対決に分けて、決勝に米国人ファイターを残すような感じで。
中村 忘れてはならないのがロスマーレンですね。上手く戦っていたと思います。1R、アスケロフはパンチとローだけでなく、ヒザも交えて動きが良かった。それこそダッチ・キックボクシングというのか、受けては返すという攻防のなかでテンカオなど上手く取り入れていました。
それでも後半、2R以降はボディを効かされて息切れしてしまったことで差になって出てしまったのかなと。
高島 顔面にフックが入るので、ガードが上がる。そこでボディに連打を受けるという展開に見えました。あのテンポの試合を見ていると、どうしてもフックの打ち合いが続くという印象が残りました。
【写真】ロビン・ファン・ロスマーレン×ジャバル・アスケロフ。似たタイプの実力者対決は、スピードで優るロスマーレンが手数でも勝り、判定勝ちを収めた(C)BUS UTERWIJK
中村 距離が近かったですからね。背格好も良く似ていて、アスケロフの方が少し蹴りが多いぐらいでほぼ同じスタイルだし。良くも悪くも噛み合っちゃいましたね。で、回転力とスピードがある分、ロスマーレンの方が押し切ったみたいな。
ああいう試合になると、スピードと手数で押し切れてしまうんですかね? 純粋に70キロのロスマーレンは不利かと思ったんですが、あのバンバンバンという速いリズムで戦い切れるのも有りなんですね。
高島 そして、引くときになるとしっかりと引いて距離を取るというのは、ある意味MMA的でもありますね。それとロスマーレンには、やはりダメージの蓄積がまだないという印象を受けました。
中村 そうですね。アスケロフの方が、消耗している感じはありました。そういう印象は残りましたね。
高島 では、続いてK-1MAXのほうに話題を移したいと思います。
中村 トーナメント全体でみると、サワーとキシェンコが二強で、リスティ、ンギンビ辺りが絡んでいきそうだと感じました。順当に勝ち上がったかな……と。
高島 そこでハルート・グリゴリアンが……。
中村 そうですね、イチオシのハルートが……。1Rを見ていると、これは今日も勝つなと思ったんですけどね(苦笑)。昔のキシェンコのような感じなのかなって。1Rから攻め続けて勝つ。でも、今回のように途中で息切れしてしまうこともある。
高島 最近のキックの風潮は3分×3Rです。しかも、今回はワンデー・トーナメントでなくシングルマッチ。そこで打ち疲れるというのは、コンディション調整ができていないのか、それとも経験不足なのか。
<この項続く>