【Column】モントリオールのGSP(後篇)
【写真】GSPは愛想が良い人間でなく、その明るい性格に加え愛想も良い人間だった。
※本コラムは「格闘技ESPN」で隔週連載中の『10K mile Dreamer』2011年7月掲載分に加筆・修正を加えてお届けしております
・モントリオールのGSP(前篇)はコチラ
文・写真/高島学
盟友フィラス・ザハビから、『ヒオキ』というファイターが、ジムにやってくると聞いていたであろうGSPは、フィラスの『日沖』という発音が限りなく『ヘオキ』に近いこともあり、英語的には『エオキ』となる青木真也と勘違いしていた……。
勘違いに気付いたGSPは、名前を間違えたことを詫び、それからの4日は聞きようによっては『アツ』と聞こえる『ハツ』という風に、ファーストネームで日本からやってきたファイターのことを呼び続けた。
初めての出稽古先で、どうしても遠慮がちになる日沖を手招きし、打ち込みの相手を申し出たGSP。カメラを構える僕にも、何かの拍子に笑顔を浮かべながら、話しかけてくる。
汗を拭きながら言い放った、『サケを飲み過ぎた』という一言で、彼がアルコールを嗜むことを知った。
GSPの愛想が良いのとは、反比例するように人が良くない僕は、名前を間違ったから、あんなに愛想が良くしているんじゃないかと勘ぐっていた。それから4日間、GSPの練習に同行させてもらい、以下のことが分かった。
日沖をトレーニング・パートナーに選ぶ機会が多かったのは、愛想が良いからでなく、普段、自分の回りにいないタイプのファイターだったから。少しでも自分の経験値をあげるために、限られた期間しか滞在しない日沖と重点的に練習するようにしていた。
名前を間違ったことは、やはり気にしていたようだった。
翌日から、日沖の過去の試合内容や対戦相手について、やたらと詳しい話が振ってきたり、『フレンチカナディアンとして、オンタリオからやってきたマーク・ホーミニックに勝利したことが、物凄く嬉しかった』と、数少ない過去の出会いについて語ることが圧倒的に多くなった。
これは推測だが、名前を間違えた日にでも、ネットか何かで日沖について、相当調べ上げたに違いない。
GSPは愛想が良いのでなく、愛想も良いヤツだった。
彼の周囲には、いつも笑い声がある。そして、会話の中心は彼自身だ。まるでサイボーグのような完璧な試合運びを見ていると、もっとクールで口数が少ない人間だと勝手に思い込んでいたが、実際はかなりホットで、感情が表に出る青年だった。
あの記者会見でのフォーマルな雰囲気とは程遠い、際どい会話がドンドン飛び出してきた。
マット・セラに負けたあとに会見を欠席せず、冷静に言葉を発していたことに感銘を受けたと伝えると、「あの時ほど、自分に対して怒りを感じたことはなかった。必死で、そんな感情を出さないで、話し続けていた」ことを明かしてくれた。
そんなGSPだが、結局のところ、会話はMMAの話題に行きつく。そして、延々と続く。
試合やトレーニングの話になると、話の本筋は取材時の内容と大差ないが、プライベートの場では言葉に棘があったり、例え話が下品になったり、喜怒哀楽をハッキリと表情と、発せられた言葉に表していた。
「インタビューは、オクタゴンの中とは違うけど、ビジネスの一環だ。仕事中にプライベートと同じ態度でいる人なんていないだろう?」と、バケットを摘みながら話したGSP。
『そのフランクな感じで、インタビューに答えると、もっとファンも親近感がわくと思うけど』という僕の意見に対し、彼はこう言った。
「インタビューのときに、プライベートの時と同じような態度で話せば、ビジネスとプライベートの見分けがつかなくなって、気が狂っちゃうよ。自分を見せるのは、友人の前だけいい。コークを飲んで、チーズバーガーを食べたりできるしね」と。
レストランで食事をしても、街中を歩いていても、誰かが彼に気づき、話しかけてくる。
そんなときに浮かべる、歯が綺麗に揃った笑顔よりも、唇を閉じ、その端がどちらか斜めに上がった笑顔の方が、ずっとGSPらしいことが分かった貴重な4日間だった。