【DWCS S08 Ep06】満を持してコンテンダーシリーズ参戦、内藤由良「日本人は日本人としての強さもある」
17日(火・現地時間)米国ネヴァダ州ラスベガスのUFC APEXで開催されるDWCS S08 Ep06で、内藤由良がアテバ・グーティエと対戦する。
Text by Takumi Nakamura
6月30日のPancrase345で、ディラン・オサリバンの代役アリ・カラダギィにマウントからのエルボーでTKO勝ちを収め、Dana White’s Contender Series=DWCS出場のチャンスを掴んだ内藤。カラダギィ戦が約2年3カ月振りの実戦だったが、この試合に勝ったことで一気にUFCへのチャレンジが動き出した形だ。
日本人にとって重量級=ミドル級という階級でUFCを目指す内藤は、DWCS参戦が自身のキャリアをかけた挑戦であるとともに、自分が結果を出すことで日本の重量級そのものを盛り上げたいと語った。
改めて格闘家は試合しないと先に進まねえなって
――6月のアリ・カラダギィ戦後にDWCS出場が決まりましたが、どういった経緯で参戦が決まったのかを教えていただけますか。
「もともと自分はアメリカのマネジメント会社のアーセナル(スポーツマネジメント)と契約していて、ブライアン・オルテガやダスティン・ポイエーと同じマネージャーさんにお願いしているんですけど、去年からDWCSに入れてもらえるかもしれないという話はあったんです。それ以外にもLFAで数試合してから直接(UFCと)契約(を目指す)とか、色々と話はあったんですけど、上手く決まらないままズルズルと来ちゃっていて。それでDWCSに出るんだったら6戦やるのが基準という話があると聞いて、もう1戦やってくれということになって、今年6月にパンクラスで試合をすることになったんです。試合間隔も空いていたので、一度パンクラスで試合をやることにして、そうしたら試合後にDWCSから正式にオファーが来た、という感じですね」
――今UFCにチャレンジする日本人も増えていますが、軽量級だったらRord to UFC(RTU)という道がありますが、内藤選手の階級=ミドル級では明確な道がない状況でしたよね。
「そうなんですよ。RTUでもライトヘビー級のワンマッチが組まれたこともあったので、ミドル級でもそういうチャンスが巡ってこないかを待ってみたり、UFC FIGHT PASSで試合を配信している大会、UAE Warriorsみたいなフィーダーショーに出ることも考えたり……どうやったらUFCに出られるんだろうというのを色々と考えていました。そういうなかでマネージャーがUFCに精通してる方だったので、今回スムーズに話が決まってくれて良かったです」
――試合間隔が空いたのは、どの路線でUFCを目指すかを悩んでいたことも理由だったのですか。
「特に明確な理由があったわけじゃなくて、結果的にそうなったって感じですね。実際に何度かLFAからもオファーをもらっていて、いつでも行ける準備をしていて、内々で相手も決まっていたけど流れて…みたいなことが何度かあって。それで2年空いちゃったって感じです」
──ステップアップするための場が、海外。日本国内にミドル級の需要はほとんどないということは、関係していますか。
「分母が少ないですからね。ただ、そこが関係しているとすれば、それはこれからのためです。自分がUFCで活躍して、ミドル級でも日本人はやれるということを見せる。そしてパンクラスからUFCに行けるルートがあるということを示す。パンクラスのミドル級で実績を創れば、UFCへの道が開けるという道を創りたいと思っています」
――6月の試合は当初ディラン・オサリバンとの対戦を予定していて、直前でカラダギィに変更になるという形でしたが、あの試合に勝ったことで道が拓けたようですね。
「はい。改めて格闘家は試合しないと先に進まねえなってことを感じました」
――カラダギィ戦が終わってから、すぐに練習を再開したのですか。
「試合が終わった週の金曜日には練習に出て、スパーリングにも参加していたので、あまり休んでる感じはなかったですね。ダメージもなかったですし、減量終わりで身体の調子も良かったです。6月に試合をした流れのままいこうと思って練習はすぐに再開しました」
──アリ・カラダギィはMMA初戦のキックボクサーでした。王座を獲得したロッキー川村2選手を含め、これまで戦ってきた相手だと、内藤選手の実力が北米で通用するのか測ることが困難だというのは正直あります。そこも踏まえて、ご自身のパフォーマンスにどれだけの自信を持てていますか。
「良い意味で、怖いモノなしという気持ちでいます。接戦の経験がないし、自分がどれだけやれる分からないことが不安じゃなくて。行けるんじゃないかと思っています。GENもそうですし、ずっと高いレベルで練習をさせてもらってきて。それにハンディントンビーチで、マネージャーがミドル級の選手を集めてくれて、今はUFCファイターになったアントニオ・トロコリとかとも練習もしてきましたし。ロッキー川村戦より、強くなっていることは実感できていたので。日本で強い選手と戦っていないとかは気にしていないです」
――SNSにもアップされていたように、GENスポーツパレスで練習を始めて4年になるそうですね。
「はい、今はGENをメインで練習しています」
――GENには日本の重量級のトップ選手たちが集まっていますが、GENで練習することは自信につながる・不安はなくなりますか。
「重量級の選手が集まる場所がGENしかないという現状もあると思うのですが、三上ヘンリー(大智)君、ちょっと階級は下ですけどDEEPに出ている岩倉優輝君、上田幹雄選手も20代ですし、最近は若い選手も少しずつ増えています。あとは年齢が上の選手たちも、あの人たちが海外で経験してきたことは本当に本物だと思うので、そういう経験を教えてもらったり、海外での過ごし方や外国人選手や特徴を教えてもらったり、そういうことを知ることができる場になっているので、自分としてはすごくいい環境ですね」
――去年12月に岡見選手が復帰戦をやる前にインタビューさせてもらったんですけど、そのときに内藤選手の名前を挙げていて「若い選手たちと練習して、彼らからも刺激や力をもらう」と言っていました。内藤選手は岡見選手からどんなものを得ていますか。
「岡見さんは世界のトップで戦ってきた人なんで、一番知識も持っていますし、UFCがどんなところかというのはあの人が誰よりも分かっていると思います。技術的な面でもMMAが上手くて、特に壁レスとか、そういう面ではこの4年間であの人からたくさん学んできましたね」
──重箱の隅を突くようで申し訳ないのですが、そのGENの先輩方と内藤選手や新世代フィターが描く成長の放物線は違っている部分があるかと感じます。
「そこで感覚的なズレが出てくるということですね。それは過去よりも、これからですね。海外での練習を増やすだとか、若い選手は一同に会して練習をするとか。それで海外で戦っていくようになれば。世界を目指しているなら、岡見さんが創ってきたGENを新しくしていくのも若い選手の役割だと思います」
──そういうなかで対戦相手のアテバ・グーティエにはどんな印象を持っていますか。
「とにかく“フィジカル!”という感じですよね。そのなかでもストライキングのフィジカルという感じで、典型的なアフリカ系の選手だなという印象があります。ただ戦績が少ない分、雑なところや打撃に偏っているところがあるので、穴は結構ありますよね」
――試合映像を見る限り、それらの穴を勢いとフィジカルでごまかしている印象もあります。
「そうですね。自分は毎週DWCSは見ているんですけど、ミドル級くらいの試合になると、打撃と寝技どちらかに偏っていることもある。フィーダーショーのチャンピオンやトップクラスでもそうなんですよ。前回のパンクラスで対戦予定だったオサリバンの過去の試合でも、対戦相手があまり参考にならないレベルの試合もあったので、ミドル級ってそういう階級なのかなと思いました。自分も含めてそう思われているとは思うんですけど」
──コンテンダーシリーズに出ている選手は、ほぼほぼそういう選手ですよね。対戦相手の力量など測れないです。
「そうなんです。どういう選手が相手だったのか分からないけど、圧倒して勝っている。でも蓋を開けてみるまで分からないですよね」
――今の話を聞いていても冷静に対戦相手や周りのことも分析されているなと思うのですが、グーティエ対策はできていますか。
「そうですね。グーティエの試合映像もしっかり見て、立てた作戦を遂行するための練習をずっとキャンプで続けてきました」
UFCで活躍できる重量級の日本人がここにいるっていうことを証明していきます
――これからはそういった経験やキャリアのすべてをぶつけるチャレンジが始まると思いますが、ワクワクしていますか。
「いやあ、ホントに楽しみですね。自分がどこまで通用するのか。もちろん上に行く自信しかないし、いつかは壁に当たることもあるとは思うんですけど、世界一の団体にチャレンジして、自分がどの位置にいるのかも確認したいです」
――内藤選手には重量級の日本人として期待される部分も大きいですが、重量級でも日本人は通用するところを見せたいですか。
「そうですね、僕は重量級でもやれると思います。結局戦うのは同じ人間ですし。もちろんフィジカル差とか遺伝的な違いはあると思うんですけど、日本人は日本人としての強さもあると思うので。体の柔らかさとか忍耐力とか。
外国人はすぐに心が折れちゃったりする選手もいると思うんですけど、そういうところは日本人の方が優れていると思っていますし、フィジカルじゃないところでしっかり制していくのがMMAの面白いところだと思うので、自分がやってきたこと、どれが正解っていうものはないと思うんですけど、色々と試したいですね」
――ちなみに内藤選手はレスリング出身ですが、オリンピックは見ていましたか。
「めちゃめちゃ見ていて、すごく刺激になりましたね。あれだけメダルを取っていたのは日本人の強さというか、コツコツやることの強さというか。自分と同世代や少し下の世代で、自分の目で見てきた選手たちも多かったので、その選手たちの活躍をオリンピックで見られたことはすごく嬉しかったです」
――競技は違えど自分でもやれるんだという気持ちになりましたか。
「なりましたね。特に重い階級、74キロ級で高谷大地くんが銀メダルを取ったんですけど、あの階級でメダルを取れるんだというのもありましたし、86キロの石黒隼人も準々決勝で負けはしちゃいましたけど、世界で通用するレスリングを持っているので、不可能はないんだなと思いました」
――日本のファンに対して、どんな試合を見せたいですか。
「やっぱり重量級でもやれるよってところを見せたいですし、今後もっと日本の重量級が盛んになって欲しいので、そのきっかけになれればいいなと思います。自分が小さい頃は岡見さんがそういう姿を見せてくれていたし、僕が結果を出すことで今後MMAをやりたいと思う重量級の選手が増えると思うんですよ。それこそレスリングや柔道の重量級の選手たちが引退して終わりじゃなくて、MMAという道もあるよということを示したいなと思います」
――なるほど。他競技からMMAに転向する選手が増えれば練習仲間も増えるし、日本の重量級全体のレベルも上がりますよね。
「はい、そうやって日本の重量級がもっと盛り上がるんじゃないかなって思います」
――それでは最後にファンの皆さんにもメッセージをいただけますか。
「しっかりDWCSでフィニッシュして勝って、UFC契約を勝ち取って、そこからUFCで活躍できる重量級の日本人がここにいるっていうことを証明していきます。皆さん応援よろしくお願いします!」