【Special 】K-MMA、2023年・秋。修斗で岡見勇信戦、キム・ジェヨン「衰えたという声に負けない」
【写真】この試合に向けて取材後に米国で練習をしてきたという話も伝わってくる――キム・ジェヨンだ(C)MMAPLANET
日本と韓国、MMAにおいても永遠のライバルである両国。Road FCを頂点とするK-MMAは規模的には日本のRIZINのようなビッグステージを持たない。対してUFCファイターの評価は引退したコリアンゾンビに代表されるように、韓国勢の方が高い。9月のDEEP vs BLACK COMBATで後者が日本の老舗を圧倒した。日韓関係に少し変化が見られるようにもなった10月最終週に訪韓、K-MMAの今を歩いた。
Text by Manabu Takashima
特集「K-MMA、2023年・秋」。遅まきながら第二弾は12月2日(土)に東京都江東区の豊洲PITで開催されるプロ修斗公式戦=FIGHT&MOSHで岡見勇信と戦うキム・ジェヨンの声をお届けしたい。
MMAデビューは2004年2月――キャリア19年、K-MMA界の生き字引といえるキム・ジェヨンにとっての岡見勇信戦とは。
――12月2日に修斗で岡見選手と戦うことが決まりました。今の気持ちを教えてください(※取材は10月25日に行われた)。
「岡見選手のようなメジャーなファイターと戦うことは、自分の格闘技人生のなかで、一番のチャンスが来たという感じです。岡見選手と戦える日が来るとは、全く期待をしていなかったので。これが2年振りの試合になるのですが、この間にケガもあり潮時かと考えることもありました。でもまだ辞められないと1年前に思い直し、トレーニングに戻りました。そのような過程があったので、今回のオファーは本当に嬉しかったです」
――2004年にソウルで行われたGladiatorの旗揚げ戦を取材した際、初めて韓国のMMAジムを訪れさせてもらったのですが、チーム・タックルに既にキム・ジェヨン選手が在籍しており極真空手出身だと聞かされたことが思い出されます。いわば韓国MMA界のパイオニアです。
「あの頃は情熱と根性だけでMMAをやっていました(笑)。その情熱は自分だけでなく、大韓民国のMMA関係者が持っていたのでキム・ドンヒョンやジョン・チャンソン、チェ・ドゥホら有名な選手が生まれたと思います。自分の韓国のMMAの発展に役立とうと頑張ってきました」
――今、名前が挙がった選手たちはUFCファイターになれました。一方でキム・ジェヨン選手はあの場で戦うことがなくても、ここまでキャリアを積んできました。
「UFCが30歳になった選手と契約したがらないのは、その後の伸びしろを考えても理解できます。同時に30代の壁を感じ取る人が多いことは知っています。ただしMMAは五輪競技ではないので、精神力や技術力で乗りこえるモノがあります。自分自身、UFCがMMAを続ける上での唯一の目標ではなかったです。そして30歳を過ぎても、強くなれる方法は存在しています」
――なるほどぉ。UFCだけが目標でなかった。では、キム・ジェヨン選手はなぜMMAを始めようと思ったのですか。
「もう大昔の話ですね(笑)。自分が極真空手を始めたのは、強くなりたいと思ったからです。そしてMMAを見た時、ここで勝つことが強さに通じると思って始めました」
――当時の韓国のMMAはイベントができても、継続して活動できるところがSprit MC以外はほとんどなかったです。当時、MMAが韓国に根付くという希望を持っていましたか。
「何度も『もう少しだけ耐えてみよう』という繰り返しでしたね。Sprit MC以外でも自分が競技生活を続けることができたのは、応援してくれる方の支えがあったからです。まぁ韓国国内だけでなくMMAにはUFCやPRIDEがあったので、ジムの指導をしてスポンサーの協力を得られてことで、生活はできました。ただABCを始め海外で戦うことで、国内の選手よりも待遇は良くなり、その時に『やっていける』と思うようになりました。若い頃はガムシャラに突っ走って、やるだけやろうという風でした(笑)」
――韓国のMMAは活動開始同時は打撃が強く、組みに課題があるという時代もありました。その後の技術の変革を常に向き合ってきたかと思います。
「MMAデビュー直後は自分も極真空手出身のアグレッシブなストライカーでした。今も指導をしてくれているパク・ヒョンウク監督に出会ってから、MMAに合う打撃、MMAに合うクリンチ・レスリング、MMAのための寝技を教えてもらいウェルラウンダーに成長することができました」
――技術力が進歩してくると、最終的には気持ちの強さが欠かせないのもMMAだと思います。そのなかで極真でガンガンとやりあってきた経験というのは生きてくるものでしょうか。
「自分の考えでは、極真空手はMMAにあまり役立たないです。自分は極真の癖を直すために苦労をした口です(苦笑)。やはり極真がガンガンとやりあえるのは、顔面を守る必要がないからで。あの距離をMMAで戦うには、それだけの防御と攻撃が必要になってきますが、極真はそこを省いてあの攻防があるわけなので」
――精神的な支柱にもならないですか。
「MMAと極真は別物です。自分はミドル級としては背も低く、リーチも短いので精神論を武器に戦うことはできない」
――押忍、忌憚のないご意見をありがとうございます。ではキム・ジェヨン選手が40歳になるまでMMAを続けることができたモチベーションとはどこにあったのでしょうか。
「プロMMAファイターを続けることができたモチベーションは、チームの存在です。このチームで皆で練習を続けることが、MMAを戦う目的であり、どこそこで戦いということが目標ではなかったので。このチームで活動し、皆と刺激しあい成長することが自分のモチベーションですね。
引退するまで、世界中の強者と可能な限り戦いたいと思っています。過去のキャリアを振り返ると、拘り過ぎることがあり過ぎたり――反省することが多いです。もっとできることもあったと思います。後悔することも多かったですが、そういう時にもチームの皆が支えてくれました」
――さすがACBで戦った選手の言葉は説得力があります。
「ACBはUFCで戦う力がある選手だらけだと聞いて、戦ってみたいと思いました。当時は米国のサイトでアジアのミドル級で1位だったので、やってやろうと気持ちになったんです。だからこそ、今回は岡見選手のような強い選手と戦えて嬉しいです」
――最近の岡見選手のパフォーマンスを見て、どのような印象を持っていますか。
「最近の岡見選手は、以前より衰えたという風に見られていますが、だからこそ強くなれる。自分もそのような声……衰えたという声に負けないように努力して、強くなっています。だから、岡見選手を相手に全く気を緩めることはないです。岡見選手はクリンチが強く、プレッシャーも凄いです。そこに負けないように対策し、岡見選手だけでなく30年間、格闘技をやってきたキム・ジェヨンを倒せる試合をしたいです」