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【ADCC Asia & Oceania Trial / Colors02】勝負の1週間、山田海南江「練習相手との試合でも気にしない」

【写真】シンガポール入り翌日の山田海南江(C)SHOJIRO KAMEIKE

25日(土・現地時間)にシンガポールはジュロンイースト・スポーツセンターで開催されるADCCアジア&オセニア予選の女子55キロ級に、山田海南江が出場する。さらに1週間後の12月2日には、女子プロ修斗興行Colors02で前澤智とグラップリングマッチで戦うことも発表された。
Text by Shojiro Kameike

今大会は「ADCCアジア&オセアニア予選」ではあるものの、女子55キロ級トーナメントは本戦出場を賭けた予選ではない。そんななかで山田があえてシンガポールに渡り、しかも初となるADCCルールに挑む理由とは。シンガポール入り直後の山田が語ってくれたのは、日本グラップリング界の現状とレスリング出身であるがゆえの感覚——そして自身の夢だった。


――今大会の女子55キロ級は、世界大会の予選ではありません。なぜそのトーナメントに、あえて出場しようと思ったのでしょうか。

「まず今回から、柔術よりグラップリングに専念しようと考えています。グラップリングに専念するなかで、ADCCで女子55キロ級ができたことを知り、ADCCで一番になりたいと思いました。でも今まで一度もADCCルールの試合をしたことがなかったんです。女子55キロ級の予選は来年5月にタイで行われると聞いていますが、予選でADCCルール初挑戦だと厳しいですよね。まずはADCCルールを経験して、予選に向けた対策や戦略を考えるために、今大会にエントリーしました」

――グラップリングにはサブオンリーやIBJJFのノーギなど、様々なルールの大会があります。そのなかでADCCを選んだ理由を教えてください。

「えっ、ADCCは魅力的じゃないですか(笑)」

――単純明快ですね。

「アハハハ。同じチームの岩本健汰がADCC本戦に出場した時、中継を視て『この会場で試合をしたい』と思ったんです。でも女子は60キロ未満と60キロ以上の2階級しかなくて。私が60キロ未満で試合をするのは、体重差はもちろん力の差もあるかなと感じました。でも今回から55キロ級ができたことで、私がやってきたレスリングと柔術の力が、どこまで通じるかが気になったんですよ」

――グラップリングでは他のルールと比べて、ADCCはスタンドレスリングの要素が強いでしょう。その点でもご自身に合っていると思いますか。

「はい。今まで自分がやってきたことを考えると、戦略次第ですが一番良いルールである可能性は高いですね。そのチャンスを生かしたいです」

――今大会の女子55キロ級出場者はシンガポール、タイ、インドなど各国のADCCルール大会に出場しています。豪州はADCCルールに限らずグラップリング大会が多数開催しており、試合経験は豊富な選手ばかりです。一方、日本は圧倒的にADCCルールで戦うことができる機会が少ない。

「そうなんです。出場メンバーの中で私が一番ADCCルールの経験値が少ないと思います。おそらく体格も私が一番小さいかもしれません。だからこそ今回の試合を踏まえて、予選に挑むことができれば——そう考えると、今大会で女子55キロ級トーナメントが開催されたのは、タイミング的にも私にとって良かったです」

――ADCCルールの試合経験がないなかで、今大会に向けてどのような練習や対策を行ってきたのでしょうか。

「もともとADCCルールで練習できる場所が少ないじゃないですか。まず女子選手がいるジムを探し、出稽古に行かせてもらって——ADCCルールについてはタイマーを見ながら前半と後半を意識して練習していました。練習中にタイマーを気にするのは相手にも失礼かと思うのですが、そこは私がやるべきことを貫くしかなくて」

――前半、後半というのはADCCルール特有のポイントの有無に関する練習ですか。

「そうです。ポイント無しの前半はどう攻めるか、ポイントが入るようになる後半はどう攻めるかと意識して練習していました」

――ADCCルールに挑む女子選手が圧倒的に少ない以上、自分が主体的に何とかするしかありませんね。どのジムで出稽古を行っていたのでしょうか。

「今回はもう一人、玉井侑未さんが同じ女子55キロ級に出るので、玉井さんが練習している東中野のトイカツ道場さんに行かせてもらいました(玉井の所属は今成柔術)。『トーナメントで当たる可能性のある選手と一緒に練習するの?』と思う人もいるかもしれないけど、私はあまり気にしないんですよ。トーナメントで当たるかどうかは分からないし、一緒に練習していようと、していまいと対戦したら勝つしかないので」

――それはレスリングを経験されているからではないですか。レスリングの強豪校なら、対戦する可能性のある選手が同じ部にいることも多いでしょうし。

「そう思います。もしかしたら相手の方は気にしているかもしれないし、そこで断られたら私も諦めます。ただ——柔術を始めてから『そういうのを嫌がる人もいるんだな』って知りました」

――練習相手と対戦したくない、という選手も多いですね。

「レスリングだと強化合宿は、絶対に戦う相手と練習することになるじゃないですか。だから私は気にしていなかったというか。結局は、その人たちに勝たないと日本一になれないし、日本一になれないと世界に挑戦できないので。

もともと私はレスリングの実績がなかったけど、オリンピックを目指して強くなるために安部学院という強豪校へ一般入試で進学しました。安部学院のレスリング部では、まず自分が一番弱いことは分かっていて、とにかく人の何倍も努力しないといけなかった。そうしないと強くなることはできなかったんです」

――そうしたレスリング時代の経験を鑑みると、海外で試合をすることにも躊躇はないでしょう。

「今回も『出る!』ってスパッと決めました(笑)。もちろん、いろんな方に相談しました。遠征費もそうですし、様々なスケジュールのこともあって。でも、せっかくのチャンスだから——おそらくADCCで女子55キロ級ができていなかったら、ギで来年のムンジアルを目指していたと思います。でも自分が出てみたいと思ったADCCに新しい階級ができ、ここでADCCルールを経験できるチャンスがある。そう思って、いろんな方に相談して今大会に出場することを決めたんです」

――ムンジアルとADCCの両方を目指そうとは思わなかったのですか。

「私、ギとノーギを並行できるほど器用じゃないんですよ(笑)。柔術やるなら柔術、グラップリングをやるならグラップリングに集中したくて。でもグラップリングをやるにしても、先ほど言われたとおり大会ごとにルールが違います。であれば、どこを目指すのか。やるからには中途半端なことはしたくないし、今回はADCCでしっかりやると決めました」

――では今大会の女子55キロ級で、チェックしている選手を教えてください。

「やはり一番は去年、アジア&オセアニア予選の女子60キロ級で優勝しているアデーレ・フォルナリーノですね。まだトーナメントの組み合わせが確定していないので、どこで誰と対戦するのか分かっていませんが……」

―他にも柔術茶帯やグラップリング戦の経験が豊富な選手が出場します。そのなかでご自身は、どれくらいの位置にいると思いますか。
「それは聞かれると思って、どう答えようかと思っていたんですよ(笑)。でもADCCルールの経験がないから、何とも言えないというか正直分からないです。今回のトーナメントで、その答えを見つけたいと思います」

――なるほど。さらADCCトーナメントの1週間後、12月2日にプロ修斗興行の中で前澤智選手とグラップリングマッチで戦うことが発表されました。

「実は結構前にグラップリングマッチのお話は頂いていて……、本当は良くないと思うんです。プロの大会に出ることが決まったあと、その1週間前に行われるトーナメントへ出ることを決めるなんて。トーナメントで怪我をしたら、プロ興行に穴を空けてしまうことになる。でも、私自身が目指しているものを目指し続けていきたいんです」

――ADCCは強豪が揃ったトーナメントであり、その1週間後に違うルールで、これまた強豪の前澤選手と対戦する。かなりハードな1週間になるでしょう。

「前澤選手はずっと練習も試合もし続けているファイターで——実は一緒に練習したこともあります。対戦が決まったあとも、お互いに何も言わず練習しました。だけど先ほども言ったとおり試合相手と練習することも、練習相手と試合することに対しても特に思うところはないです。ADCCトーナメントと前澤選手の試合で、どっちが上か下かという気持ちはなくて。どちらも勝ちたいし、試合ができるならガンガン出ていきたいですね。私としては、どんなルールであっても自分がやるべきことは変わらないと思うので」

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