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【RIZIN LANDMARK06】「初めてパウンドで人の顔を殴りました(笑)」イゴール・タナベが前戦を振り返る

【写真】『神は抱えきれない責任を負わせることはない』。そういうモノが身の内に宿る。無神論者としては、素晴らしいなと感じます(C)TAKUMI NAKAMURA

10月1日(日)に愛知県名古屋市中区のドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)で開催されたRIZIN LANDMARK06にて、ANIMAL☆KOJIと対戦したイゴール・タナベ。
Text by Takumi Nakamura

フィニッシュは三角絞めでの勝利だったが、スタンドで自信を持って左ミドルを蹴り、パウンドで削るなど、同じ一本勝ちでもプロセスは違って来た。MMAに挑戦する柔術家ではなく、柔術で勝つMMAファイターになるために――。イゴールがMMAへの取り組みについて語った。


――先月RIZIN LANDMARK06でのANIMAL☆KOJI戦では三角絞めによる一本勝ちでしたが、あの試合の一週間後にJBJJFの全日本ブラジリアン柔術選手権2023にも出場されていましたね。

「ちょうどRIZINの一週間後に全日本大会があって、事前にエントリーはしていたんです。それで怪我がなければ出ようと思っていました」

――今はMMAファイターとして試合をしているイゴール選手ですが、柔術の大会には出ていきたいと思っているのですか。

「はい。柔術は子供の頃からやってきたものだし、最後に柔術の試合に出たのもちょうど1年前だったんです。年内に一度は柔術の試合には出たいと思っていたのでタイミングがよかったです」

――優勝したシャビエル・シウバ選手に敗れて3位という結果でしたが、それについてはどう捉えていますか。

「勝てた試合だったと思うので率直に悔しいです。柔術の試合に出たことは後悔していないし、むしろ楽しかったんですけど、結果を出せなかったことは……悔しかったです(苦笑)。これからもMMA中心ではあるんですけど、タイミングが合えば柔術の大会にも継続して出ていきたいですし、いつも言っていることなのですが、僕はまだ黒帯になって柔術の世界大会に出たことがないので、そこには挑戦したいです」

――それではANIMAL戦について聞かせてください。改めて試合を振り返ってみていかがですか。

「7月の阿部大治戦に比べると打撃は良くなったと思います。阿部戦で初めて打ち合って怖さがなくなったというか。今回は打ち合う場面はなかったですが、自分から前に出られたと思います。あと初めてパウンドで人の顔を殴りました(笑)」

――阿部戦はまだ相手の打撃を受けることを警戒しながらの打撃だったと思うのですが、今回は自信を持って打撃を出しているように見えました。

「ちょうど阿部戦から良太郎先生(※初代KNOCK OUT-BLACKウェルター級王者で、多くのファイターの打撃を指導)に打撃を見てもらうようになったんです。阿部戦の時点で打撃は成長していたのですが、まだ打撃をやることに緊張や恐怖心があったんです。でも阿部選手と打撃の攻防をやったことで、打撃に対する怖さがなくなって、練習でも変化を感じるようになりました」

――練習ではスパーリングの回数も増やしているのですか。

「基本的にはミットですね。良太郎先生に週5回ミットを持ってもらって、スパーリングは週2回です」

――MMAグローブで強度の高い打撃のスパーをやるのはラウンド数が限られると思うので、試合で得た経験が大きかったのですね。

「はい。どんぴしゃでクリーンヒットをもらわなかったというのもあるんですけど、殴られることへの恐怖心はなくなりました」

――また試合後にも質問させてもらいましたが、左ミドルがフォームも綺麗で非常によかったと思います。かなり練習では蹴り込んでいたのですか。

「阿部戦は良太郎先生と練習する期間が短かったので、先生からは『今は阿部戦に必要なことだけをやろう』と言われて、パンチとカーフキックに限定して練習していたんです。それで阿部戦が終わった後、練習を再開することになったのですが、阿部選手のスネを蹴って右足を怪我していて。それで『右を蹴れないなら、左ミドルを練習しよう』ということで、ひたすら左ミドルを蹴っていたら、いつの間にか右よりも左の方がいい感じなりました(笑)」

――スパーリングだけでなく反復練習で技を磨く。それは柔術でもキックでも同じですね。ミドルを蹴るようになって、MMAとしてはどこが変わりましたか。

「スタンドの距離感が良くなって、タックルにも入りやすくなりました。良太郎先生が常に僕に言うのが『組み技の選手が打撃の練習を始めると、ストライカーみたいな動きをすることが多い。でもイゴールは打ち合う練習をするんじゃなくて、打撃の駆け引きとか寝技に持っていきやすくするための打撃を練習しよう』ということなんです。ANIMAL戦も試合前にずっと練習していたパターンでテイクダウンを取れました」

――なるほど。良太郎選手とはいい師弟関係が築けているようですね。

「はい。良太郎先生は知識もすごいし、僕に必要なものを教えてくれるし、本当に最高の先生ですね」

――また今回はグラウンドでのパンチも的確に入っていました。スタンドの打撃と同じように練習していたものだと思っていたので「初めてパウンドで人の顔を殴った」というコメントは意外でした。

「ハーフガードになった時にヒザが入ったままになっていて、動きにくかったんですよね。それでどうしようかなと思っていたら目の前に顔があったんで、殴ってみようと思って殴りました。そしたらANIMAL選手がすごく嫌がって動きが止まったので、そのまま殴り続けたという感じですね」

――練習していないにも関わらず非常に安定感のあるパウンドでした。

「あそこで変に動くとバランスを崩すので、足を抜くことよりも殴ることを優先しました。意外とスムーズにパンチを打てたし、効かせることも出来たので新しい武器になりそうな気がします」

――柔術で培ったグラウンドにおけるバランス感覚が活きたようですね。

「間違いなくそれはありますね。ホベルト・サトシ・ソウザが矢地祐介選手とやった時にマウントから殴っていて、みんな『あそこでバランスを崩さずに殴るのはすごい』と言っていたんです。当時僕はMMAをやっていなかったので、あまりピンとこなかったんですけど、今になって思うと柔術で培ったバランスの良さなんだろうなと思います」

――柔術家は自然にグラウンドでバランスをとることが身についているのでしょうね。

「簡単にいうと脱力なんですけど、相手がこちらに動いてきたら、自分はこちらに動く。そうすればバランスをキープできる。そういうことが体に染みついているんだと思います」

――フィニッシュはマウントポジションから腕十字を狙い、最後は三角絞めという流れでした。

「あれはもう『もらった!』という感じですね」

――MMAデビューから4連続一本勝ちとなりましたが、今回はスタンドの打撃やパウンドも出すことが出来て、今までにはない経験が出来たのではないですか。

「本当にそうですね。それまでの3試合とは違う試合内容だったと思います」

――イゴール選手はプロ2戦目でメルヴィン・マヌーフ、3戦目で阿部選手と対戦していて、柔術のバックボーンがあるとは言え、普通はそのキャリアで戦う相手ではないですよね。

「僕も思い返してみて、よくやったなと思います(笑)。マヌーフ戦のオファーが来たときは、正直めちゃくちゃ怖くて、自分が勝つ姿なんて想像できなかったんです。でもここで逃げちゃったら、逃げ癖がつくというか。一度でも“逃げる”壁を超えると、また厳しい試合のオファーが来たときに逃げる選択をしてしまいそうな気がしたんです。僕はキリスト教徒で、キリスト教えの中に『神は抱えきれない責任を負わせることはない』というものがあるんですね。だからマヌーフ戦も乗り越えられると思って試合を受けました」

――結果論ですがものすごい経験値を得ることが出来ましたよね。

「マヌーフは引退してからの復帰戦ということだったんですけど、僕とやる3カ月前にヨエル・ロメロとやっていて、その時点でBellatorのランキングでも8位くらいでしたからね。『全然復帰戦じゃないじゃん!』と思いました(笑)」

――試合のペースとしては普通ですね(笑)。

「それで2戦目でマヌーフとやったから、当分試合で怖いと思うことはないだろうと思ったら、3戦目のオファーが元UFCファイターでパンクラスでもチャンピオンになっている阿部選手と言われて、『えーーー!!』みたいな(笑)。僕はマヌーフより阿部選手の方が怖かったんです。阿部選手はRIZINでもマルコス・ソウザやストラッサー(起一)さんの寝技にも対処して勝ってるし、マヌーフは一か八かの試合ができる選手でしたけど、阿部選手はそういうわけにはいかないですか」

――僕も阿部選手の方がMMAファイターとして完成度が高く、マヌーフ選手よりも手ごわい相手だと思っていました。

「そういう相手に一本勝ちできたというのは自分の中では大きかったですね」

――イゴール選手を見ていると、ただ柔術で勝負するだけでなく、MMAファイターとして強くなってMMAで勝とうとしているところがうかがえます。そこは意識していますか。

「はい。僕は柔術の技術だけでMMAで勝っていけるとは思っていないんですよ。僕も子供の頃からUFCを見ていて、柔術だけでチャンピオンになった選手はいないと思っていて。MMAをやる柔術出身選手として、何々が出来ないからって壁を作りたくないんです。打撃の壁、レスリングの壁、フィジカルの壁……そういうリミットを自分で作りたくないし、MMAをやるならMMAファイターとしてレベルを上げて試合をしたいです」

――次の舞台として狙うはRIZIN大晦日だと思いますが、そこに向けた想いを聞かせてもらえますか。

「やっぱり僕はRIZINで戦っているので、大晦日の大会には出たいですね。あまり海外で試合をしたいとか、どこどこに出たいという気持ちはなくて、今戦っているRIZINでトップに立ちたい。そうすれば自然にチャンスが巡ってくると思っています。組まれた試合を勝ち続けて、色んな扉を開いていきたいです!」

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