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【Special】月刊、大沢ケンジのこの一番:8月―その弐―:リネケル✖キム・ジェウンからの日本✖世界

【写真】風間とともにオクタゴンへ向かう大沢氏(C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。
Text by Shojiro Kameike

背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は大沢ケンジが選んだ2023年8月の一番、8月5日(日・現地時間)にONE FN13で行われたジョン・リネケル×キム・ジェウン戦から考える――日本と海外の違いについて語らう。さらに風間敏臣に同行し、現地シンガポールで目撃したUFC ESPN52とRoad to UFCから、日本MMAの問題点を提起してくれた。


――韓国や中国のファイターが、北米のファイターと打ち合い、勝利する試合も少なくない。そこで同じアジア人である日本人ファイターだけが「フィジカル差が……」「パンチ力や耐久力が……」とは言えなくなるわけですね。

「韓国はもちろん、中国人選手も至近距離が強いですよね。それはRoad to UFCでも明らかで。ONEを視ていると、フィリピンや他のアジア選手も前に出て、至近距離でも戦える。遠い距離だけで戦おうとしているのは、もう日本人だけじゃないですか。その理由にフィジカル差を挙げるのなら、それは違うと思います。日本人選手でも世界で通用するフィジカルをつくり上げている選手は多いので。

あとは組みや打撃の技術力の問題もあります。ひとつ思うのは――日本国内だと、一芸に秀でていたら勝てる場合が多いんですよ。寝技が強い、打撃が強いというだけで勝てることがあるから」

――寝技ができないストライカーも、身体能力があれば国内ではテイクダウンディフェンスができて、パンチで倒せることもある。その逆もまた然り、ですね。

「そうして勝ち続けていくと、綺麗な戦績であればUFCとかから声が掛かりやすいじゃないですか。でも世界に出てみると、みんな全ての要素が強いから、一芸に秀でているだけの選手は勝てない。本当にね……ストライカーのキム・ジェウンやサンドハーゲンが、あれだけテイクダウンも寝技も強いわけですよ。一芸に秀でているだけの選手って、相手からすれば怖さがないんです。何をやってくるかが分かるから」

――前回の取材では、「フィニッシュを狙わず、トップをキープするだけの相手は怖くない」と仰っていましたね。

「それと同じなんです。たとえば至近距離の打撃が強い選手にとっては、距離が近くなったら組むだけ――それが分かる選手が相手だと怖くない。だから自分は、もっと強くパンチを振るうことができる。至近距離で打ち合うこともできれば相手も下がるし、組みやすくなるんですけどね」

――経験という意味では、中村倫也選手がプロ3試合目で修斗ブラジル王者のアリアンドロ・カエタノと対戦し、大苦戦しながらも勝利した経験は大きかったように思います。

「あの経験は大きい。もともとレスリングの力があって、打撃も身につけたうえに、あの経験を得たのは大きいです。そういえば佐藤将光選手はキム・ジェウンに勝っていますよね(今年1月に判定勝ち)。リネケルとあれだけの試合をしたキム・ジェウンに佐藤選手が勝っている――佐藤選手だって、それまでにどれだけ苦しい道を通ってきたかっていうことですよ」

――だとすれば、世界で戦う前に国内でもっと鎬を削るべきということですか。

「それもありますけど、実際に試合だけじゃなくて練習や戦術の面も考えていかないといけませんよ。2006年のサッカーW杯で、日本はアジア予選を圧倒的な強さで1位通過したのに、本戦では1回も勝てなかったんです。2敗1分という結果で――ジーコが監督、チームには中田英寿や中村俊輔とか錚々たるメンバーがいたのに」

――……はい。

「あの時はアジアで勝てる戦術を重視していて、いざ本戦のW杯では世界との差が出てしまったと言われているんです。その後はアジアで勝つ戦術と世界で勝つ戦術を分けて考え、結果も残してきていますけどね。MMAでも、国内で勝てたからといってアジアで勝てるとは限らない。アジアで勝ったからといって世界で勝てるとは限らないわけです」

――サッカーの例でいえば、日本代表チームは国内でアジアだけでなく欧州や南米の代表チームとの試合経験を積むことができる。同様にMMAでも世界で勝つためには、まず国内で海外選手の試合経験を経る必要があるのか。国内のイベントでもっともっと海外選手を招聘してほしいと思いますか。

「そこでプロモーターに頼りきってはいけないですよ。言い方は悪いかもしれないけど、他人の金で強くなって海外へ――というのは、あまり好きじゃなくて。まずはジムで、選手と指導者がするべきことがある。ジムで選手を強くして初めて、選手にはチャンスが与えられるものなので」

――なるほど。まずはジムでの練習……まさにスタートラインが重要となりますね。

「スタートラインは本当に重要です。見据える先がUFC、Bellator、ONE、国内でいえばRIZINでも同じですよ。どこを、そして何を見据えて練習するのか。キャリアの積み方も大切ですよね。勝ち続けて、綺麗な戦績だからって声が掛かっても、ちゃんと選手のキャリアのことを考えていかないといけない。今回はシンガポールでUFCとRTUを見て、『日本人は海外の選手に勝てない』とは思わなかったです。まだまだ日本のMMAもやるべきことが多いけど、やるべきことをやれば――必ず勝てると信じています」

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