この星の格闘技を追いかける

【BJJ STARS08】膠着禁止のミドル級GP。柔術の神の子=ミカ・ガルバォンがロを始め3人の世界王者に挑む

【写真】とんでもないGPトーナメント。タイナン・ダウプラが出ていないところがよりそそられる(C)CLAYTON JONE/FLOGRAPPLING

30日(土・現地時間)、ブラジルのサンパウロにてプロ柔術& グラップリングイベントのBJJ STARS 08 が行われる。
Text by Isamu Horiuchi

道着着用とノーギグラップリングの両方のルールにおける世界のトップアスリートたちを集めて開催されるこの豪華大会。今回の目玉は8人の黒帯選手が参加する道着着用ルールのミドル級GPだ。


この大会で特筆すべきは、道着着用の試合において膠着禁止目的の特別ルールが2つ採用されていることだ。一つ目は相手のラペルを相手や自分の手足に絡めて掴む技術に関するもの。攻撃姿勢を持って行われているとみなされれば許されるものの、膠着目的と判断された場合には掴んでいた側にペナルティが与えられ、強制的にグリップを解除した状態で試合が再開される。

もう一つは50/50ポジションについて。こちらは20秒間経過した時点で解けなければブレイクされ、両者にペナルティが与えられた上でスタンドから再開となる。

そんなルールが採用された8人制ワンデートーナメントの出場選手は以下の通りだ。

レアンドロ・ロ(ブラジル)
ルーカス・バルボーザ(ブラジル)
イザッキ・バイエンス(ブラジル)
ミカ・ガルバォン(ブラジル)
ロベルト・ヒメネス(米国)
マウリシオ・オリヴェイラ(ブラジル)
レオナルド・ララ(米国)
ペドロ・マチャド(ブラジル)

この8人の中で、IBJJF世界王者の肩書を持つのはロ、バルボーザ、バイエンセの3人。特に実績・知名度共に群を抜いているのは、言わずと知れた4階級世界王者のレアンドロ・ロだ。

12年にライト級世界王座に就いて以来、ミドル、ミディアムヘビーと制し、2019年にはついに(友人のブシェシャことマーカス・アウメイダに決勝戦を譲られる形ではあったものの)無差別級世界一の座に輝いた。

もうすぐ33歳となるレジェンドはここ数年試合数を絞っているものの、その強さは衰えを知らない。今年のパン大会のミディアムヘビー級においても2試合を勝利し、準決勝でチームメイトに勝利を譲っている。

重い階級での戦いにおいては、一瞬の爆発的なムーブで優位なポジションを取っては動きを止めるような試合運びが目立つロだが、今回は久々のミドル級。この体重ならば、強力なガードから様々なスイープを自在に使いこなし、上からは機動力を生かして鋭いニースライスやトレアナ・パスで攻め立てる本来の動きが期待できそうだ。

(C)CLAYTON JONE/FLOGRAPPLING

このロにとって天敵ともいえる存在が、2018年のミディアムヘビー級世界王者&2021年は同門とシェアで準優勝のハルクことルーカス・バルボーザだ。

ロとは道着着用では2019年のパン大会、2020年のBJJ Starsにて対戦。ロのオープンガードからの攻撃をトップから封じ込めて勝利している。

特に2年前の試合はテイクダウンでポイントを先行し、終盤はバックに付きかけての完勝だった。さらに2021年のBJJ BetのノーギGPの決勝でもロと対決。この時に至ってはテイクダウンからバックを奪ってチョークで一本勝ちを収めている。ロのガードの攻略法を完全に会得している世界でも数少ない選手の一人が、バルボーザなのだ。

低く重く相手を抑え込み、無駄な動きはせず上を決して譲らない重厚なバルボーザの戦い方は、ロだけでなく誰にとっても難攻不落と言えるだろう。普段より軽いミドル級の戦いとなるこの大会、減量の影響がないならばバルボーザこそ本命と言えるかもしれない。

もう一人の世界王者が、イザッキ・バイエンスだ。

高い身体能力を活かした抜群のスクランブル力とトップキープ力を誇る。このGPと同じミドル級を主戦場としていて、2018年に世界王座に就いた。2019年と2021年の世界大会決勝では、それぞれガブリエル・アウジェスとタイナン・ダウプラに惜敗したものの、どちらも正面衝突を避けた相手に50/50を作られて終盤まで延々と膠着された挙句、終了直前に微妙なポイントを稼がれての敗戦だった。バイエンスの実力が現在も世界最高峰にあることを疑う者はいまい。

2019年と2021年の世界大会決勝の展開からいえることは、今回の大会特有の膠着禁止ルールによってもっとも恩恵を受けるのがこのバイエンスということだ。これまでロとは数回対戦し、いずれもそのオープンガードを超えられずに敗戦を喫しているが、27歳と脂の乗り切った現在のバイエンスが、今回とうとうレジェンド超えを果たす可能性は決して少なくないだろう。

GPをさらに興味深くしているのは、上記3人の世界王者に対し、年齢下の若手黒帯5人が挑む構図となっていることだ。

一番の注目は最年少19歳、柔術の神の子ことミカ・ガルバォンであることに異論はないだろう。ルタ・リーブリとブラジリアン柔術の両方で黒帯を巻き、北米では主にノーギシーンにおいて、突出した反応速度を利した一瞬の切り返しや驚くべき極めの強さをもって見る者を魅了している。そしてその驚異のパフォーマンスは、道着着用ルールにおいてさらなる輝きを放つ可能性が高い。

茶帯として参戦した昨年のEUG大会の道着着用トーナメント準決勝では、年末に世界王者となるタイナン・ダウプラと歴史に残るような大激闘を展開。ダウプラの強力無比なオープンガードを盤石の重心とボディバランスで封じ込めた上で、絶妙の体捌きと反射を利したパス攻撃で追い詰め、一瞬で三角絞めの体勢を作ってみせて判定勝ちを収めてみせた。

続く決勝では、弟弟子の雪辱に燃えるジョナタ・アウヴェスの執念の防御&膠着戦法を攻略できずに惜敗したものの、試合全般においてほぼ一方的に攻撃を続ける圧巻の内容だった。今年3月のパン大会において、ダウプラとアウヴェスのAOJ勢が頭二つ抜けた強さを見せつけたことを考えても、当時茶帯だった──柔術の神の子の凄まじさが分かろうというものだ。

昨年はさらにその後、アブダビ・ワールドプロ大会にエントリー。ブラジル予選と世界大会の両方の6試合のうちの5試合で一本勝ちを収めて圧巻の優勝を遂げている。

オープンガードを駆使する相手にギを掴まれても一切動じない盤石のベース&ボディバランス、強烈無比なプレッシャーといったファンダメンタルにおいても無類の強さを持つ神の子は、摩擦が多く極めの力がさらに増す道着着用ルールにおいてこそ最も輝くといえる。

今回、三人の世界王者とガルバォンの試合が実現すればどれもドリームカードだが、特に期待されるのはロとの一戦だろう。トップ、ボトムの双方から多彩かつダイナミックな攻撃を繰り出し、ファンを魅了する新旧レジェンドによる初対決は実現するか。

(C)CLAYTON JONE/FLOGRAPPLING

若手の中でもう一人注目選手を挙げるなら、やはりロベルト・ヒメネスか。

ダイナミックな極めと見事なバックグラブを中心にノーギシーンで活躍する21歳は、昨年2月のBJJ Starsにおいてバイエンセとノーギで対戦しており、ポイントで惜敗したもののバックを奪いかける等の大健闘をみせた。

そして先日のパン大会では久々に道着着用ルールに登場。初戦を突破した次戦で、色帯時代から因縁のある現世界王者タイナン・ダウプラと対戦。三角絞めに屈したものの、先制のテイクダウンを奪った上で見応え十分のスクランブル合戦を展開して力を示した。摩擦によってバックグラブの精度が上がる道着着用ルールにおいて、ヒメネスがレジェンド相手にアップセットを引き起こす可能性は間違いなくある。

残りの3人のブラジル人若手黒帯選手も、いずれも実績を持った存在だ。24歳のマウリシオ・オリヴェイラは、2018年の茶帯ミディアムヘビー級世界王者にして、昨年のBJJ Bet大会におけるノーギトーナメントにてガルバォンの極めを凌いて殊勲の星を挙げた選手だ。

25歳のレオナルド・ララは18年の茶帯ミドル級世界王者で、上述の昨年のワールドプロ大会において、ガルバォンに唯一極めさせなかった選手だ。23歳になったばかりのペドロ・マチャドは昨年末に黒帯を取得し、3月のパン大会のヘビー級で3位入賞を果たしている。

今も最高峰の実力を保持する世界王者3人と、その首を狙う新世代5人による要注目の戦いが幕を開ける。

■視聴方法(予定)
5月1日(日・日本時間)
午前7時00分~FLOGRAPPLING

PR
PR

関連記事

Movie