この星の格闘技を追いかける

【Special】潔すぎる決断、米山千隼─02─「引退とは口にしていない」&『一番予想外だったのは……』

【写真】二人三脚で歩んできた坂野周平と。坂野も既に引退を決めており、彼のインタビューも後日掲載します。そんな米山と坂野は『2人はプライベートの付き合いは?』と尋ねると、同時に「全くないです」と答え笑顔を見せた(C)MMAPLANET

昨年11月1日に東京都港区のニューピアホールで開催されたDEEP99で元谷友貴に敗れた米山千隼インタビュー後編。

負けたら辞める──と実践した米山。真剣にMMAと向き合ってきたからこそといえる、清い決断だった。

<米山千隼インタビューPart.01はコチラから>


──元谷戦で勝利した場合、2021年の2月から米国で練習をするプランもあったと聞きました。

「ハイ、試合に勝てばということで行き先なども元谷選手との試合後に決めることになっていまいました。できるだけ長い期間、米国に行けるようにと。

いつかは一本でやっていかないといけない場所だと思っていましたし、仕事をしながら戦うという状況には、格闘家としてコンプレックスを持っていました。なので元谷選手との試合が終わったら仕事を辞めて、米国へ行くつもりでした」

──ご家族は?

「仕事は8年ぐらいやってきて普通に生活できるだけの収入もありますし、お金を使う機会もなくて──僕自身、そのための貯金もしていました。無期限ではないですし、周囲の方たちもサポートをして下さるということだったので、家族が生活できるお金を用意し、僕は米国に行くというプランでした。

あの試合で勝てば家を離れて、期間を設けてできるところまで勝負をさせてもらおうと思っていました。その代わり負けるようだと可能性はないので、スパッとやめるという話を奥さんとはしていました」

──人生の分岐点での二者択一は、どちらを選択しようが後から選ばなかった自分の人生を思い浮かべることもあるかと思います。

「そうだと思います。まだ、僕は振り返ることができていないので」

──米山選手のなかでMMAをやり切ったという実感はあるのでしょうか。

「う~ん、やり切った……自分が持っている格闘技に対する可能性を全て使い切ったかといえば、まだまだ先があると思います。でも1つ、1つの試合、自分のその時の思考のなかでできることはやってきたんじゃないかと……。間違ったこともあったとは思いますけど。

そうですね──できることはやってきましたが、やり切ったとは言えないです」

──プロでUFCに目指すMMAファイター人生は終わりました。あれだけ追い込んで取りくんできたMMAが、米山選手にとっては楽しいという言葉だけで片付けられるものではないかもしれないですが、今後はMMAとどのように向き合っていこうと考えていますか。

「僕、自分の口から引退するとは言っていないんです。MMAの試合には出ないということで。MMAという格闘技の試合に出ることは辞めると言っているのであって……。僕は格闘技が好きだし、触れて行きたい。

これからは今までのように真摯には向き合えないですが、都合良く好きなように、自分が想うように格闘技と触れていたいです。今でも練習も続けていますし」

──今も練習は続けられているのですね。

「ハイ。ただし自分がやり練習をしていて、試合に勝つための練習ではないですけどね。やはり格闘技が好きなので、ヘラヘラやっているわけではないですけど、苦しいことはしていないです」

──他の選手の試合は見ていますか。

「見ています。練習仲間が出ていたNEXUSのライブ配信も視ましたし、普通に大晦日のRIZINも楽しみです。海外もプレリミナリーまでは終えていないですけど、メインカードの大きな試合は追っています。自分が試合に出ないから、試合を見ないということは全くないです」

──米山選手、格闘技が好きなままなら……MMAPLANETで月に1試合でもピックしたMMAの試合について語るという企画をしてもらうことは可能ですか。

「……。……。嬉しいです。そう言ってもらえることは。少し前にもGrachanで解説をしないかという話も頂いたのですが、真摯にMMAに向き合っていない僕が、そういう風に格闘技と関わって良いモノなのか。その辺りは割り切れていないんです……」

──自分は何が真摯に向き合うことなのか分からないのですが、好きなら構わないじゃないかと思っています。なので、気が向けば宜しくお願いします。

「……格闘技は好きですし、ずっと見ていきます。凄く嬉しいです……だから、少し考えさせてください(笑)。でも、本当にそう言ってもらえて凄く嬉しいです」

──ハイ、いくらでも考えてください。anytimeです(笑)。ところで元谷戦に勝っていれば、暫らくは離れ離れになる米国行きも同意してくれていた、奥様は今回の決断にどのような反応だったのでしょうか。

「試合を終えてから、たくさんの人に色々な声を掛けてもらいました。そのなかで一番予想外だったのは奥さんに『続ければ』と言われたことなんです。『やりたいんでしょ?』って……。そう言ってもらえたのですが、そこに甘えるのもちょっと違うと思いました」

──……。

「僕は彼女も辞めてほしいと思っていると考えていました。だから、本当に予想外の言葉で──奥さんがそういう風に言ってきたことは……」

──それでも決断が変わることはなかったのですね。

「変わらないです。決めていたので、奥さんに言われようが、親ぐらいの関係性の人に言われたとしても……」

──続けないことを伝えた時の奥様は?

「プライベートな話になりますが、中学の時からずっと一緒だったので、僕が決めて口にしたことは曲げない……変わらないと分かっています。

『続ければ。やりたいんでしょ?』と言ってもらえましたが、僕が『続けないよ』と言ったので、僕らの中での格闘技に関する会話はそこで終わりです」

──奥様が『続ければ』と言われた、この事実こそ米山選手が如何に真剣にMMAと向き合ってきたのか。その一言に集約されているかと思います。素晴らしい言葉をもらえましたね。

「ハイ」

──そして、それでも続けないと言える米山選手も……やはり素敵です。

「周囲の人に言ってもらうことに耳を傾けないということではないんです。ただ、本当の幹になる部分は自分で決めてきましたし、これからもそうしていきたいと思っています」

──正直に口にさせてもらいますと、本当に残念です。残念ですがGrachan、パンクラス、DEEPとあなたのような選手を取材できて本当に良かったです。ありがとうござました。

「いえ、僕の方こそ駆け出しの頃から考えていることを聞いていただき、発信してもらえたこと、本当に感謝しています。マルワジムは1月に閉鎖されますが、それからも練習会もやってきますし格闘技は続けます。これまでありがとうございました」

■ 米山千隼
1996年1月25日、神奈川県出身。24歳
マルワジム所属
MMA戦績9勝2敗1分

PR
PR

関連記事

Movie