この星の格闘技を追いかける

【Special】月刊、青木真也のこの一番:11月─その参─マゴメドシャリポフ×モラエス―02―

2017.12.07

Shinya Aoki【写真】青木真也の言葉、どこまで響き、届くか(C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ11月の一戦=その参は11月25日、UFN122からザビット・マゴメドシャリポフ×シェイモン・モラエス戦を語らおう。

この試合を皮切りに、青木真也が日本のMMAファイターに警鐘を鳴らす。


今の日本はMMAを好きな人が損をしている。やっぱりMMAを見ることですよ

――11月の一番、最後の試合は何になりますか。

「UFC中国大会のザビット・マゴメドシャリポフとシェイモン・モラエスの試合ですね。シェイモン・モラエスはかなり強い選手だと思うんです。以前、WSOFのモラエス対決でマルロン・モラエスと試合をしたときにかなり良い試合をしていたじゃないですか。

あの試合の前にイヴォルブにいたハーバート(エウベウ)・バーンズがシェイモンはブラジルではストライカーとして有名で、打撃で勝つことも十分にあるっていう風に言っていたんです」

――バーンズの言う通り、左ミドルやヒジを入れて互角の攻防を繰り広げ、最後は左フックでダウンしRNCで敗れましたが、競った試合でした。

「だからWSOFとの契約が切れると、UFCも彼を取ったと思うのですが、そのシェイモン・モラエスを相手にマゴメドシャリポフが圧倒しての一本勝ち。

UFC、ベラトールに続くメジャークラスだったWSOF、これを北米メジャーとACBの対抗戦と捉えると、日本ではまだまだ伝わっていないACBのロシア人選手が北米メジャーを圧倒してしまったわけですよ」

――階級は違いますが、ランス・パーマーなどWSOFトップだった選手に日本人選手はどれだけ勝てるのかということを考えると……。

「どういうことなのACB? 何なのマゴメドシャリポフ?ってなりますよね。そしてマゴメドシャリポフに関しては、ドーピングフリーではない、UFCという規制のあるところに出てきて、あれだけ強いわけじゃないですか。当然のように次の試合にも期待だし、今後UFCでのロシア人はどうなるのかってことですよね」

――ACB恐怖ですね。

「ロシアってあれだけ大きいし、中国と上手く合体したらMMAの世界に逆転現象が起こるかもしれない。ACBはカナダ、ポーランド、ブラジルとか色んな国でイベントを開催しているし。EFN(Eurasia Fight Night)やM-1にも良い選手はいくらでもいる。やっぱり、ロシアは掘るな……です」

――UFCは掘っているような気がします。

「規制を設けて掘っている。凄く強い選手は欲しい。でも、たくさんはいらない。全部、掘ってしまうと制圧される恐れがあるから。いや、やっぱりロシアは触っちゃいけないです」

――素材抜群で、とにかく強い人間が強いファイターとなる。それがロシアの格闘技だと思います。

「ハイ、弱いヤツは残れない」

――そんな強い連中が、マゴメドシャリポフもそうですが米国に渡って北米MMAのスネークさも学んでいる。

「マゴメドシャリポフもヒカルド・アルメイダとマーク・ヘンリーがセコンドに就いていましたよね」

――TUF26でチーム・アルバレスのアシスタント・コーチも務めていました。

「もうボクシングと一緒です。陸上もそうです。米国が作ったインフラをロシアが制圧する。そして米国はドーピングでロシアを抹殺にかかる(笑)」

――スケールが大きすぎますね。

「触らないにしても、どこまで世界が強くなっていることは認識しないと。UFCに行きたいというなら、それぐらい知っておく。下手な腕試しでロシアにはいかない。痛い目に合う。それを全然分かっていない。

韓国にしてもRoad FCでもTop FCでもないAngel’s Fightのオク・レユンなんてヤバいなって思っていたら、モンゴル人に負ける。ロシアと合体したら怖い中国の選手だって、こないだのUFCを見ていたら、どれだけ力をつけているのか」

――中国勢も今や、米国で練習を積むのは当然のような状況になっています。それができるだけの経済力もある。

「本当にもう甘くない。厳しい世界になっている。強いとか弱いという以上に、そこを認識していないと。それも分からないでUFCとかロシアとか言っていたら、『MMAのこと好きじゃないんじゃないの?』って思ってしまいますよ。

だって、田中(路教)選手なんてMMAのこと好きでしょ? 凄く好きだから、ケツも見ていると思う。それぐらいの集中力を持って取り組んでいるんだろうなって感じます」

――荒唐無稽の話ですが、そのなかで日本人はどうすれば強くなれるのか。

「一つはインプットをしている指導者、あるいは現役選手でも良いから、新しい技術を取り入れている人に習う、練習をすることだと思います。

今の状況を見ていない指導者に教えを受けても、強くはなれない。それはアウトソーシングでも良い。ジム外でもインプットしているモノがある人と練習すること。その人の知識、技術を自分に

あとは……僕自身もそうなのですが、青木、川尻、五味とかが前に前に出る必要はもうない。そういう位置じゃないんです。僕は僕で違うところで自分のやりたいことをやっている。前に前に出ても、僕らはもう幸せにはなれない。だから、下の世代に譲るというか……」

――本来は奪い取る必要があるわけですが……。

「でも、その環境も日本にはないのが現状ですからね。僕らは僕らで、居場所を作っていく。楽しいMMA、格闘技を僕らの世代でもできるんですよ。

柔術だってIBJJFの間隙をついてEBIがのしている。ノーポイント&サブオンリーだけでなく、あのタイムアップ後の腕十字のロック(スパイダーウェイブ)かバックマウント&バックルポジション(襷架け)で、どっちが守り、どっちが速く取れるか。そんなタイブレーク的なルールが米国では定着しつつある。

掌底ルールのコンバット柔術が、同じ決着方法を導入してUFC Fight PassでPPV中継をしているんですよ。どっちもエディ・ブラボーがプロモーターだから、そうなるんでしょうけど。そういうルールがクリエイトされ、認められている時代に日本は遅れる一方ですよ」

――……。メディアにも耳が痛い話です。

「ACBを知らない――では話にならない。もうロシアが話題なると掘るな、触るなで終始話が終わっちゃうんですけど、そういうことも踏まえて選手たちには感度を高めてほしい。もう中国も来ていますからね。

日本の選手が思っている以上に世界のレベルは上がっている。これまで世界といえば米国とブラジルだったのが、東南アジアも皆が思っているより、ずっと力をつけている。東アジアも強い。フィリピンやタイ以外にも、MMAで頂点を目指そういう連中が多く出てきているんですよ。

その現状は理解しないと、ちょっと日本は難しい。今の日本はMMAを好きな人が損をしている。やっぱりMMAを見ることですよ。そして僕らが巡り合っていない、MMA好きを掘り起こさないと」

PR
PR

Movie