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【Special】月刊、青木真也のこの一番:9月編─その壱─ンガラニ×関根秀樹「若い子たちは皆やっている」

Ngalani vs Sekine【写真】誰もが賞賛の声を挙げた関根の挑戦に対し、青木は苦言を呈した(C)ONE

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ9月の一戦=その壱は9月16日、ONE59からアラン・ンガラニ×関根シュレック秀樹戦を語らおう。

円やかになってきた青木の譲れない部分とは。


Shinya Aoki──9月の青木真也が選ぶ、この一番。まずは?

「関根さんとアラン・ンガラニですね」

──おぉ、意外な選択です。

「あの試合は試合内容を語ることは余りないのですが、ここまでスケジュールが詰まった状態で試合をすることに関して、疑問がありますね」

──……。

「僕はMMAの人間なので、彼はMMAなのか柔術なのか分からないですけど、舐めるなよという気持ちは当然出てきます」

──その言葉を関根選手に対し、投じることができる人もあまりいないと思います。

「なぜですか?」

──43歳になって警察官を辞めて、格闘技の道を選択した。他にない人生、そして夢に手が届くうちに夢を追いかける姿勢に我々は共感しますから。

「あぁ、僕は関根さんに対してリスペクトする気持ちがあっても、その部分に関してリスペクストするのは余りないです。仕事を辞めたことに対して、リスペクトなんて……。僕からすれば、若い子たちは皆やっていることだし。

だって今、MMAを続けることに於いて、それは当たり前のことなんだもん。別に彼だけが凄いことをやっているわけじゃない」

──10代、20代でなく、40代でというのは私の年になると、その挑戦する気持ちを持つエネルギーに感服します。色々とできない年齢に自分自身がなってきていることも感じていますし。

「う~ん、皆やっていることですよ。そして、MMAをやるなら挑戦するコストというモノは若い方が圧倒的に安いと感じました。若いうちにやりたいことをやっておく。若いうちにチャンスを得ることは、コストとして安いんだなと。だから、この試合が気になったんです。

挑戦するコストという話ですね。ブラントン・ヴェラと試合をすると知った時から、余り耳障りが良いという印象はなかったです。ゴメンナサイ、それが正直なところです。それからの関根さんを見ても、『うわぁ……頑張っているんだ』っていう感情はないです。

ただ、それは文句が言いたくて『このヤロー』って喧嘩売るということでもなくて。皆が感じている想いと自分の中に違いがあって、僕は引いているなということを言いたかったんです。お金がどうこうという話やステイタスの話ではなくて、単純に若い子がやっていることと同じでしょって話で」

──若くないから、皆が共感するモノがあるのではないでしょうか。と同時に関根選手の連戦に関しても、若い選手だと自分も『ケガを直して』という主張をすると思います。ただし、関根選手は時間がない。そして周囲に流されるのではなく、自分で判断している大人なので。これは2階級上でUFC復帰戦を果たした岡見勇信選手、そしてベン・アスクレンと戦う青木選手にも当てはまります。他の選手ならMMAPLANETはスルーです。

「それは高島さんが記者で、僕はファイターだから。あの連戦は話が違いますよね。柔術に出ていて、MMAを戦うならまだ分かります。ただストライキングがあるもので、プロとして戦いケガをすればどうするんだっていう気持ちです。穴を空けちゃうんだよって。実際にそうなったし。

そこに関してはMMAを舐めるなという気持ちが、僕にはあります。年齢とか勇気とか関係ない」

──それは青木選手の方がフラットな見方ができると思います。

「そんなに甘いことをやっているつもりは、僕にはないので。これがね、MMAの第一線で戦っていた選手が注目をされるわけでもないのにローカルを回って戦い続ける……ジェレミー・ホーンのような感じだったら理解できます。

でも彼の試合の出方を見ていると、取り組み方が透けて見えてくる。あんな風に試合に連続して出場していると、普段からどんな練習をしているんだろうって思われても仕方ないですよ。

と同時に遅れてきたデビュー感というのか──必死に一生懸命やっていることに悲壮感はなく、楽しくやっているように感じます。大人デビューのような。20代の時にやっていることを今、やっているんだなって」

──本当のところはどうか分からないですが、挑戦することに意義を感じ、楽しさを追及していると感じられます。

「だから人生としては豊かですよ、関根さんは。勝ち組だろうし。凄く良い生き方だって思います。それもあってンガラニに吹っ飛ばされるような試合ができる。吹っ飛ばされても悔いはないはずです。自分が信じた道を追求しているんだろうし。

たらればで考えると、もっと早くからやっていればと思うこともあるだろうし、警察官を続けてきた自負も当然あるだろうし。それでも、今やりたいことをやっている──そんな今があることは幸せですよね。

僕はそういう部分で、関根さんの人生を悪く思うというのはないです。ただし、MMAというスポーツの競技特性を考えると、この連戦は危険だし、MMAファイターとしてMMAを舐めるなよという感情を抱きます。20代の時だったら、もっとムカついていたと思います」

──ハハハハ。

「宇野(薫)さんが服を売っていることも、MMAを舐めんなよって思っていたし(笑)。2008年にDREAMが始まって、なんで桜庭(和志)さんだけ言いたいこと言えるんだって思っていたし。

俺の方が凄いことをやっているのにって。彼の方が全然、集客力があったんですけど。23歳、24歳の僕はそういう風に思っていた。この野郎、舐めるなよって全てにムカついていたし、フラストレーションを持っていた。なんで、認めてくれないんだって。それが徐々に減ってきましたね」

──尖がっていたけど、角が取れて円やかになってきたのですね。

「僕は中和してきた。若い子が何を言おうが、やろうが……ガンバレって思うだけで。ただし、MMAという自分がやり続けてきていることに対しては、やっぱり舐められたくないです」

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