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【Special】月刊、青木真也のこの一番:9月─その弐─ハファエル・ロバトJr×ジョン・ソルター「乗れる」

Lovato Jr【写真】青木が乗れるラファエル・ロバトJrとは?(C)BELLATOR

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ9月の一番、第2 弾は21日のBellator205からハファエル・ロバトJr×ジョン・ソルターの一戦を語らおう。


──9月の青木真也が選ぶ、この一番。では2試合目は?

「ハファエル・ロバトJrとジョン・ソルターの試合です。ロバトJrに関しては、僕はもうファンですね。ブラジリアン柔術の競技に出場して結果を残してる人で、MMAをやって強い。そんな人ってなかなかいないじゃないですか? しかもMMAで無敗っていうのは一番魅かれる存在ですね」

──ロバトJrは試合に関してということでなく、MMAを戦うということにがっつきが感じられないです。そこも魅力的ですよね。

「もう柔術の指導とか道場経営でやっていけるのだろうし、好きだからやっているという感じがします。なおかつムエタイも綺麗だし、テイクダウンも綺麗で一つの完成形です」

──ただし、このソルター戦はこのままだと判定負けになるというところで、寝技に入ると一気に仕留めた試合でした。

「信じている……柔術家を信じているのが良いですよね。やっぱり柔術家がMMAで勝つと嬉しいですね、僕は」

──同じ週末にBrave CFでブルーノ・マルファシーニもMMAを戦い、RNCで一本勝ちをしています。ロバトJrもマルファシーニも柔術で戦う時は、ポジションを取って殴りまくるような激しさとは対極にある選手だと思っていたので、それが非常に興味深かったです。

「でもロバトJrはメタモリスでもカイロン・グレイシーからキムラをしっかりと取ったりしているじゃないですか。そういうベーシックな柔術で強いというのが良いです。マウントを取ってからあれだけ殴ることができるのも、技術がしっかりとしているから。

そういうロバトJrの活躍を日本では全く無視されている。こういうこともアンテナを張っていないと怖いと思いますよ、ファイターも業界関係者もほぼロバトJrを触っていない。そこの危うさを感じます」

──柔術家としては、日本人の出ない重量級がピックするのは難しい。米国人としてBJ・ペンに次ぐ黒帯世界王者というのが、彼をプッシュする定型詩であったことは間違いないです。

「まぁ華がないから、触り辛いですねぇ。試合も堅いですし」

──逆にその堅いロバトJrがリコ・チャッパレリ主宰の伝説のグラップリング大会、LA-SUBでリョート・マチダにテイクダウンで敗れた。その方が印象に残るほどで。

「ブドーチャレンジで、小斎(武志/故人)とも戦っていますよね。バックマウントから絞めを狙ったら、小斎さんが噛みついちゃって(笑)」

──青木選手は今やPFLやマネージメント業で名を馳せているアリ・アブデルアジズに飛びつき十字を極め、キャメロン・アールにアキレス腱固めで勝った……これも伝説の組み技大会です。

「懐かしいですよね、もう13年も前で(笑)」

──そのロバトJrが今、MMAで9連勝中と。

「階級もあるけど、モダン柔術じゃない。そこですね」

──植松直哉さんが無差別で戦って、三角絞めで負けたけど力任せでなく危険な戦いを仕掛けない人だったと言っていました。

「そりゃあ、植松さん……無理ですよ。あんな大きい人と戦うのは。でも、その話も分かる気がします。あの要所、要所で堅い試合ができる人だから、横移動ができる。そういう応用のきく柔術家なので、MMAでも結果を残せるのかと」

──確かに実はオールラウンダーな柔術家だと。マルファシーニにもそうですし、上になっても十分すぎるほど強いですしね。

「そこにも攻めの堅さを感じます。ただし、ベラトールのミドル級チャンピオンはゲガール・ムサシだから、その世界戦は見なくて良いです(笑)。もう、証明しているので」

──証明している?

「自分の柔術を証明したから。やってきた柔術をMMAで証明した。ただ強い人と戦いたい、そのために結果を残してきた。だから世界王座に挑戦させろっていう論理ですけど。そこまででロバトJrは彼の柔術を証明して戦ってきました」

──少し話が主題から外れますが、ロバトJrもマルファシーニもマウントを取りに行きます。北米MMAではマウントを取りに行く選手は少なく、ハーフで抑えてコツコツ殴る。そして抑えるが主流です。

「それは俺、違うんで」

──青木選手もパス、マウントからパンチ、そして……。

「バックチョークです」

──ハイ。なぜハーフでコツコツか、それは立たれるから。そして上を取っているとポイントがある。そんななかONEではトップ奪取はさほど攻勢点にならないことが明白になってきました。では、青木選手もそうですが柔術家のマウントを取る戦いというのは、ONEの裁定基準にマッチしているのではいかと。

「マウントというか、それが格闘技として正しい。やっつけなさいというグレイシーの論理でいえば、マウントからのバックに行きつきます。ハーフで立たせないというのは、テスト対策が過ぎます。

ハーフガードで良いっていうのは、2004年ぐらいから北岡さんが言っていましたよ。でも、僕はそれだと伸びしろがなくなると感じていた」

──上を取って勝つというなかで、北岡選手の考えも全くもって正しいです。

「僕は──格闘技は取らないといけないから、マウント&バックだと思っています」

──マウントは返されるリスクが高い。ハーフだとスタンドに戻ってイーブン、またはスクランブルでバックを制することができるので。

「返される……ですよね、マウントは。そこでONEはハーフは評価しないから、寝技はポジションを取ること。クリアなポジション、ADCCのようなポジションを評価する。そういう寝技をロバトJrはベラトールでやっている。これは良いですよ。柔術を証明しているんです。

僕はジョン・フィッチのスタイルが長くつ受けるうえで望みでもあるんですけど、ロバトJrは理屈が通っているから乗れるんです。日本の柔術家でアレをやる人はいない。やっているのは僕かも知れない。自分の信じている格闘技を追及して、MMAで問う。それが日本にはいない」

──そこは私と青木選手は平行線で、柔術家がMMAで戦うのもムンジアルのトップを目指すのも上下関係はありませんという考えなので。

「そうそう。そういう考え方があって然りで。でも、僕は違う。そして湯浅(麗歌子)の『自分の強さを確認したい』という言葉に乗れたんです。要は自分の柔術を証明したいという。乗れるけど、舐めるなよという思いで……僕の柔術の先にはMMAがあるという考えだった。

やる人は乗れる。やらない人をとやかく言うつもりはないけど、湯浅は結局のところやらなかった。もう俺の範疇から外れた。僕とは思想が違ったということです(笑)」

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