【Special】月刊、青木真也のこの一番:7月─その壱─レイ・クーパー3世×ジェイク・シールズ&「PFL」
【写真】シールズの敗北とPFLのフォーマットの可能性 (C)PFL
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ7月の一番、第一弾は7月5日に行われた PFL2018#3からレイ・クーパー3世×ジェイク・シールズの一戦を語らおう。
──7月の青木真也が選ぶ、この一番。まず1試合目はどの試合になるでしょうか。
「まずはジェイク・シールズが、レイ・クーパー3世に負けた試合ですね。アレは見ていて辛かった」
──動きは最初から悪かったようにも見えました。
「う~ん、ジェイクも40歳……39歳ですか。それを考えると負けも致し方ないですよね……。コンディションが良くなかったようですし、減量が厳しくなっているのかなと」
──同じタイプのジョン・フィッチがBellatorに転じて自分を貫き通しているのとは逆に、なぜか打撃から入りますよね。
「ミット打ちとか巧いですからね。それはフィッチもですけど。ミットで巧いから使ってしまうのか。ジェイクは2月にポラリスでクレイグ・ジョーンズに負けているし、元気がないゾーンに入っていますね。ジェイクのスタイルは、僕のなかで希望でもあるので、ちょっと考えさせられますね」
──希望というのは、やはり組み伏せるという部分で?
「ダメな時に潜りで作って上を取り返すだとか、足関節の作りやギロチンだったり、可能性のあるスタイルなので……今回の負けは勿体ないです」
──対戦相手は子供の頃に父親がジェイクに負けているのを見ていて、それから14年を経てリベンジというストーリー仕立ての試合でした。そういうことでファイターがより強くなるなどということはあるのでしょうか。
「それで強さを越えられるなら、楽なものですよ。変わらないですよ、それぞれが持つ力は。トラウマやフラッシュバックで強くなれるなら、皆がなれる。そんな怒りのパワーが試合で好影響はないだろうし、ジェイクが衰えたのとクーパーの博打が当たった感はありますよね」
──ダン・ヘンダーソン戦など、一発を貰ってもガードワークで凌げる力があったのがジェイク・シールズだったのですが……。
「そうそう、ガードワークが強いのも武器だった。ちょっとねぇ、でもジェイクは俺の希望であることは確かです」
──私は彼の父のレイ・クーパー世代も取材相手だったのですが、父親の魅力に比べて息子の力はどうなんだろうという見方をしていたのも事実です。
「レイ・クーパー息子って、インスタとかで練習を見ているとパンチも綺麗でもないですしね。ウェルター級として体が絞れているわけでもない。ジェイクが普通に勝つ……凄いセーフティゲームでシングルレッグに入って、下になって捲ってバックチョークみたいに戦えば勝てたと思うのですが……だから、ボタンの掛け違いというかMMAの面白さが出ましたよね」
──PFLの序盤の3試合、試合のインターバルの短さ、そして早く勝つことが絶対のポイント争いというのは、影響を与えたと思いますか。
「ジェイクはKO負けして、次の試合とかできるのかなって思います。実際、欠場している選手も増えているし。ただし、このリーグ戦のシステムは辻褄があった時、ああいう戦いは面白くなってくるかもしれないですね。
ここは負けても、KO負けしなければ良いとか。そういうスポーツ的な……、こないだのサッカーのワールドカップの日本×ポーランド戦のようなMMAが生まれるかもしれない」
──6階級、1イベントで2階級をこなすというスケジュールでなく、男子8階級&女子4階級で2カ月間インターバルを置けるというようなプラットフォームになると、MMAは変わってくるかもしれないですね。
「そう、どこかがこのやり方を取り入れたりして、12人でなく4人で回すところが出てきたり、そういうことが起こり得る可能性を持っていると思います」
──ハイ。ファンが喜ぶというハッパの掛け方ではなくて、レギュレーションで早く勝てばそれだけ評価されることが決まっているので。それは明確ですよね。
「点数制度や人数など、改善する点はあるけどゲーム性があって面白いモノだと思います。6点取らないと後がないファイターが、初回で倒しにいくのは必然だし」
──一か八か、勇気だとかプロフェッショナリズムでなく、そうしないと勝ち残れないというのは単純明快で良いです。
「だから川名さんが『可能なら初回から一本勝ちしたい』とか言っているの、他の試合ならただ勝ちゃあ良いじゃんって意味不明になるけど、『そして、得点を稼ぎたい』となるとPFLのフォーマットなら理解できるし、とても面白い」
──逆に0点でも、一本やKO負けでないと12人中8人がプレーオフのトーナメント戦に進めるわけですから、火傷をしない戦い方もある。
「そう現に0点でも、川名さんは今7位でプレーオフ進出圏内に残っていますしね」
──エスクデロが一本勝ちしても、体重オーバーだったから順位は6位でも0点は0点。そして、戦った両者が二人とも0点という状況を作ってくれた。そのうえランク2位のブライアン・フォスターが負傷欠場で、得点の上積みがない。さらに負傷欠場がもう一人出ている。
「2連敗でも、二つとも判定負けなら残れる可能性は十分にある。でトーナメントで奇跡の優勝で100万ドル獲得もありえる。まぁ、マッチアップにはプロモーションの意図は感じられますけどね。それでもフェアなゲーム性が担保されれば、PFLのフォーマットはちょっと面白いことになりますよね。現行のMMAのシステムを変えるとはまではいわないですが、変える可能性はあります。我が国のように有能な人材が少ない状況では、試合が保証されているので育成システムになりえるだろうし」
──そういう意味では修斗のインフィニティリーグが、近いことをやっています。
「うん、それがより高い位置でより平等に試合機会が与えられるようになると……、国内の選手に試合が担保されるのは大きいです。だから、こういうことをしっかりと視野にいれてMMAを行なっていく必要はあるはずです。あとは欠場してしまう選手を少なくすることですよね。欠場が多くなると、魅力が削れてしまうので。だって、レイ・クーパー息子は100万ドルよりも、ジェイク・シールズに勝ったということで、跳ねて『もう、やらないよ』ってなってもおかしくないから(笑)。ベテランは気力が続かないかもしれない──けど、もっと洗練されるとこのシステムは面白いですよ」
■ PFL2018#5対戦カード
<ライト級/5分3R>
ナタン・シュルチ(ブラジル/4位:3P)
ジェイソン・ハイ(米国/10位:0P)
<ライトヘビー級/5分3R>
ヴィニー・マガリャエス(ブラジル/1位:6P)
ブランドン・ホージー(米国/4位:4P)
<ライト級/5分3R>
ウィル・ブルックス(米国/3位:3P)
ロバート・ウォルトリー(米国/1位:5P)
<ライトヘビー級/5分3R>
マキシム・グリシャン(ロシア/2位:6P)
ラキム・クリーブランド(米国/5位:4P)
<ライト級/5分3R>
ラシッド・マゴメドフ(ロシア/─位:0P)
ルイス・ブスカペ(ブラジル/8位:0P)
<ライト級/5分3R>
クリス・ウェイド(米国/9位:0P)
川名有生(日本/7位:0P)
<ライトヘビー級/5分5R>
ダニエル・スポーン(米国/6位:4P)
アルトゥル・アリブラトフ(ロシア/─位:0P)
<ライト級/5分3R>
イスラム・マゴメドフ(ロシア/5位:3P)
エフライン・エスクデロ(米国/6位:0P)
<ライト級/5分3R>
チアゴ・タヴァレス(ブラジル/12位:0P)
アルトゥル・エストラスラズ(ブラジル/─位:0P)