【Gray-hairchives】─06─Oct 18th 2004 Robert Follis
【写真】この時は2日間で4クラスほど取材させてもらったと記憶しているが、全てのクラスをロバートさんが指導していたはずだ(C)MMAPLANET
17日(月・現地時間)、エクストリーム・クートゥアーの名将ロバート・フォリスが亡くなったというニュースがMMA界を駆け巡った。
チーム・クエスト時代からランディ・クートゥアーの片腕とし、MMAコーチとして活躍していたフォリスは日本での知名度こそ高くなかったが、確かな手腕とその人間性で大いに尊敬を集めていた。
また昨年収録のTUFシーズン24のアシスタント・コーチだった彼の人間性、指導力をプロ修斗世界フライ級チャンピオン扇久保博正も絶賛していた。
Gray-hairchives─1995年1月にスタートを切った記者生活を、時事に合わせて振り返る──第6弾はガチ! MAGAZINE02号より、ロバート・フォリスのインタビューを再掲載したい。
【後記】
この時、本来ならばランディ・クートゥアーの取材のために訪れる予定だった。しかし、チケットを抑えた後でスケジュールの都合でランディのいなグレシャムの街を訪れることになった。
かなり秋の気配が濃くなっていたポートランドの隣町、グレシャムでランディに代わりロバートが非常に丁寧にチーム・クエスト、MMAについて話してくれた。TUFの中継が始まる半年、この時のランディ不在の理由こそTUFシーズン01の収録のためだった。
「誰なんだとロバートさんって(笑)」。伝説のガチ!マガジンを一緒に創っていた旧友が、笑いながら指摘したように──本当に誰も知らなかったロバートさんのインタビュー──MMAが米国社会に根付く以前、今から振り返ると、こんな質問を投げかけていたのかと赤面してしまいそうな稚拙なインタビューだ。しかし、世がMMAについて知らなかった頃から、ロバートさんは今に通じるMMA論をこれだけ話していてくれたことに今からすれば畏怖すら感じる。合掌。
――ロバートさんは、いつからランディ・クートゥアーと行動をともにするようになったのですか。
「最初に会ったのは、1998年だと思う。UFC-Jで、ランディがモーリス・スミスに勝った試合の前だった。ランディに頼まれて、スパーリング・パートナーを務めることになったんだ。あの頃は、ランディもMMAとレスリングを並行して練習していたから、私は別にランディの専属というわけではなかった。
私にはそれほどレスリングの経験があるわけじゃなく、柔術やキックボクシングも同じように万遍なくやってきた人間だから。それからも、彼を手伝ったり、自分の練習をしたりしながら、コンタクトは取り合っていた。チーム・クエストの専属コーチになってからは2年10カ月が過ぎたよ。最初は私とランディ、ダン・ヘンダーソンとマット・リンドランド、とても小さなグループだった」
――ロバートさんのチーム・クエストでの肩書きは何になるのでしょうか。
「一般的にはヘッドコーチかな。あとSPORT FIGHT(オレゴン州で行われていた人材育成型のMMAイベント)のプロモーションと、クエスト関係のプロダクション会社の代表でもある。コーチング以外の仕事は、以前はランディと分担してやっていたのだけど、先に現役を退いた私が、今も現役のランディの分も働くのは当然のことだからね。
ただ、コーチやコーナーマンの仕事も一切、手は抜いていないよ。私は若い選手の試合について作戦を立てたり、トレーニング・スケジュールを組み立てることも大好きなんだ」
――今、ジムにはどれくらいの練習生が通っているのですか。
「250人ぐらいかな。フィットネス感覚でなくファイターとしてジムに通っているのは20人ほど。そのなかでも、プロとして試合に出ているのは10人ぐらいだ。練習生はどんどん増えているし、何倍にも増やそうと思っているけど今はこれでいい。十分に忙しいからね」
――チーム・クエストではカリフォルニア州リノや、ここオレゴンでスポートファイトという自主興行を行っていますね。
「リノは1回だけだよ。2003年の6月から2~3カ月に1度の割合で、ポートランドやグレシャムで大会を開いてきた」
――オレゴン州政府はMMAを認めているということですね。
「そうさ。MMAもわけの分からない連中がバーファイトと変わりない試合をしたりしていた時期があったから、最初の頃はなかなか理解されなかったけど、選手の安全面をいかに考慮しているかを説明し続けて、ようやく許可をもらった。それだけじゃなく、今では凄く協力的になったんだよ」
――スポートファイトのルールは、UFCと同じネヴァダ州MMAルールなのですか。
「そうだよ。ただ、アマチュアの試合ではエルボーは禁止している」
――えっ、アマチュアのあるのですか!!
「1回の興行で、プロが5、6試合でアマチュアの試合は4、5試合は組んでいる。アマチュアで結果を残した者が、プロへとステップアップする。さっきも言ったように安全面への配慮を考えれば、当然のことだよ。キッズ・ファイトは、ヘッドギアとバッドをつけて、みんな一生懸命キックやパンチ、パウンドを繰り出しているよ」
――えっ! パウンドまで許しているのですか。
「軽くね。親たちも喜んでいるし。やっている子供たちも楽しそうにしているよ」
――う~ん、親の承諾があるなら反論できませんね。
「子供たちの多くはね。ランディのことも、UFCのことも知らないのに、ここにやってくるんだ。で、MMAのベースを学んで、少し大きくって、まだ興味のある子は真剣にトレーニングに集中するようになる。ハイスクールになると、アマチュアの試合に出るんだ。ヘッドギアなし、エルボーが使えない以外は、UFCと同じルールのね。
でも、さっき話に出たバーファイトのようなMMAイベントより、ずっと安全なんだよ。レフェリーやドクターがしっかりしているから。オレゴンの人々のMMAに対する姿勢は、とてもポジティブなものだし、ここのボクシング・コミッションも私たちの姿勢を見て、非常に協力的だしね」
――サンクションを得るのに、ランディの実績が評価された部分はありますか。
「MMAの戦績だけでなく、レスラーとしての実績、何よりもテーブルの席での彼の落ち着いた対応、紳士的な佇まいは特別な雰囲気があるからね」
――41歳になって、なおあの肉体を誇り、誰からも尊敬されていますからね。
「一緒にいると、もっと強く感じるよ。正直で、フェアでとても誠実なんだ。まぁ、マイケル・ジョーダンっていう具合にはいかないけど、ランディはポートランドではかなりの有名人さ。MMAには彼のような人格者がもっと必要なんだよ」
――ところでポートランドでは、レスリングが盛んなのですか。
「ミッドウェストを除くと、米国でレスリングが盛んな街なんてないよ。実際、今やMMAの方が有名なんじゃないかな」
――でも、ランディのようなMMAとレスリングの両方で成功したアスリートのいるクエストには、五輪志望のレスラーも足を運ぶのではないですか。
「クエストではフリースタイルもグレコローマンも、カレッジスタイルもいっさいレスリングのクラスは設けていないよ」
――えっ? いやロバートさんに話を伺っていると驚くことばかりです。クエストにはレスリングクラスがないと……。
「そうだよ。レスリング・ビジネスは将来の展望もなさそうだし。MMAのためにテイクダウンや防御の練習に時間は割いているけど、レスリングだけのクラスはない。ここに通っている練習生は、シングルレッグ、ダブルレッグ、ボディロック、レスリングの基礎はしっかり教わるけど、それはレスリングのコンペティションで勝つためじゃない。MMAに必要だからなんだ。
君のように格闘技界の人間ほど、チーム・クエスト=レスリングと勘違いしているんだよね。私がチーム・クエストのコーチだというと、記者はみんな、『レスリングの経験は?』でなく、『何年間、レスリングをやってきたのか』って質問をするんだよ。チーム・クエストの選手は、レスラーからの転向してきた者ばかりだと誤解されているんだよね、今も」
――いや、私もしっかりと勘違いしていました(苦笑)。
「まぁね、シドニー銀メダリストのマットもいるし、ネブラスカ大のエースだったライアン・シュルツ、それにバルセロナ五輪とアトランタ五輪に出場したダンもいるから、皆そう思ってしまうよね。
ここのファイターのほとんどは、ハイスクールで少しだけ経験した人間や、まったくレスリングの経験のない連中ばかりなんだ。でも、どこのジムよりもレスリングの技術をMMAに活かす術を知っているよ」
――基本はテイクダウン、そしてパウンドですか。
「それも大きな勘違いだよ。チーム・クエストの選手は、関節技を得意にしている選手も多いし。ガードポジションからのサブミッションだって、お手の物なんだよ」
――では、クエストには柔術のクラスも用意されているのですか。
「道衣有りのクラスはない。でも、だからって関節技ができないということじゃないと思うんだ。今時、道衣を着てMMAの試合に出る選手もいないじゃないか。裸の柔術、つまりサブミッション・レスリングはクエストの得意中の得意分野だし、トップをキープする力も秀でているよ。加えてボトムを強いられたケースを考えて、しっかりガードポジションの練習もやっているから。
MMAなら一般的にトップをとって戦うことがスマートな方法だよね。自らガードポジションを取る必要はないけど、下になるケースも十分に考えられるから、対策に抜かりはないよ。あと、私の方から先に言わせてもらうと、クエストにはキックボクシングが得意な選手もいるからね(笑)」
――了解しました(笑)。
「レスリングのトップクラスがいる。柔術マニアもいるし、キックばかりやっているような奴もいる。色んな連中がいるから、それぞれが練習パートナーの良い点を見習うことができて、強くなれるんだ」
――MMA、サブミッション、キックボクシング以外のクラスは?
「コーチを要請するインストラクター・クラスを設けている。あと、チーム・プラクティスもね。スポーツとしてのMMAの頂点に立つことが私たちの唯一にして、最大の目標だ。ランディやダン、マットのように素晴らしいパフォーマンスをファイトのなかで見せて、試合後はきちんと対戦相手に敬意を払う。
この業界の人間に欠けている部分をランディは凄く大切にしている。私たちの大会を見に来てもらうと分かってもらえると思うけど、会場には子供がいて、家族みんなでMMAを楽しめる雰囲気があるんだ。私たちは血だらけのブラッディなショーをやるつもりは一切ない。人の顔を殴ったり、蹴っとばしたりしているけど、スポーツとして日ごろの練習の成果を試合で発揮しているに過ぎないんだ。
『MMAもスポーツなんですよ』って、人々に説いて回るより、ランディの姿勢を見てもらうほうが、ずっと理解してもらえるんだ。Eメールでも、凄く彼に敬意をはらった言葉が世界中から送られてくるからね。例えば、ランディがヴィトー・ベウフォートのパンチがかすってカットし、負けてしまった試合があるじゃないか。ほとんどアクシデントのようなパンチで、すぐに試合が終わってしまったんだ。
あの日のために必死で練習してきたのに、何もする前に。それでもランディは、まったく不平を言葉にすることなく、ヴィトーに『おめでとう。傷が治ったら、私の挑戦を受けてくれ』という言葉が出てくる人間なんだよ。彼のそういう本当に謙虚な姿勢を多くの人間に見習って欲しい。私はランディのああいう偉大なところを尊敬してやまないんだ」
――41歳にして、あの肉体を維持しているのも脅威です。やはりクートゥア選手のトレ―イングは凄くハードなのですか。
「ランディのトレーニングはスマート。よりスマートに、何よりもスマートにというのが信条だ。ハードなトレーニングこそ、全てを生み出すと信じて1日に8時間も練習する選手がいるみたいだけど、私たちは違う。ジムにいる時間は6時間。集中して練習するのは3時間だ。私たちのやっている1日に3時間のトレーニングは、究極的にスマートなモノだと思う。
ランディの年のせいもあるかもしれないけど、長時間練習したって何も楽しくないじゃないか。楽しくないことは、長続きはしないよ。だから、私たちは楽しく練習するために中身の詰まったことをやっている。それからね、楽しく練習するのと楽をするのとは決して同じことじゃないからね。まぁ楽しくとハードトレーニングも同じ意味ではないけど、楽しくなければ精神的にもヘルシーではいられないじゃないか」
――ロバートさんの哲学上、どうや、街の喧嘩自慢のような練習生は、クエストではやっていけないですね。
「いや、そんなことはない。そういう連中は、自分に自信がある奴らが多いけど、すぐに長く伸びた鼻をへし折られるからね。それで気持ちを入れ替えるか、辞めていくかどっちかだ」
――ところで、このところランディとヴァンダレイ・シウバの対決を望む声が増えていますが。
「誰だって、見たいだろう。MMAの歴史に永遠に刻み込まれる試合になることは間違いない。そして、ランディがシウバをテイクダウンして、コテンパにやっつけるだろう。リングだろうが、オクタゴンだろうが、勝つのはランディさ。巷ではランディはリングで戦えないなんて思っている連中もいるみたいだけど、僕らがオクタゴンとリングでゲームプランを使い分けられないと思われているとは、全くバカバカしい話だよ」
――PRIDEルールには、UFCにないグランドでの踏みつけ、グランド状態で頭部へのヒザ攻撃が許されていますが。
「UFCで禁止されているからといって、ランディが使えないとでも思っているのかい? ランディはテイクダウンを得意とし、相手のテイクダウンを切ることが得意な選手なんだよ。ヒザが許されているルールなら、危険度が増すに決まっているじゃないか。私はヴァンダレイ・シウバのことを見下しているわけじゃない。とても強いファイターだと思う。
でも私はチーム・クエストの人間だ。シュートボクセの人間でシウバが負けると思っている人間がいないように、私はランディが敗れる姿なんて、これっぽっちも想像ができない。ランディは、私の人生の中で1番スマートなアスリートの1人だし、ゲームプランを組み立てるのに秀でている。無尽蔵のスタミナを誇っているのも、彼の強みだ。ベースがしっかりしているし、試合そのものの正しい価値もきちんと理解している。彼の口癖を教えてあげようか?」
――ぜひ、お願いします。
「彼は戦いを控えた選手にいつも、こう言っているんだ。『家族は君を愛することを絶対にやめない。本当の友達は君の前から去ったりしない。試合に負けても、この世が終わるわけじゃないんだ』ってね」
――素晴らしい言葉です。では最後にロバートさんが思う、チーム・クエストの強さを教えていただけますか。
「チームであること。世界を見て回った人間が集まって、他の人間に伝える。MMAはインディビジュアルなスポーツだけど、ここは本当の意味でチームがある。ジムのなかで誰が一番強いのかといった考えを持たない。そして、良い意味での競争心もある。チームが個人を強くしているんだよ」