【Special】月刊、青木真也のこの一番:6月編─その参─ムンジアル ─01─「お前らデカい顔をするな」
【写真】青木真也が日本のブラジリアン柔術について語った(C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ6月の一戦=その参は何とMMAではなく、6月1日から4日にかけて行われたムンジアル=ブラジリアン柔術世界選手権。日本人黒帯柔術家達に向けられた言葉は──自己顕示欲なのか、それとも活を入れる激励なのか、もしくは愛なのか……。
■『MMAできないヤツが柔術をやっているじゃん』
──では6月の一番、最後の試合は?
「ムンジアルですね」
──ムンジアル?
「ハイ。ムンジアルは僕、思ったんですけど──これから日本人が勝つことは難しいだろうなって」
──ムンジアルで勝てない、その理由から青木選手がブラジリアン柔術を話題にした理由をまずは探っていきたいです。
「それが顕著に表れているのが、湯浅麗歌子が3年連続で黒帯で世界王者になっているのに、何の状況も変わらないということです。それだったら、誰もブラジリアン柔術をやろうとは思わないです。高島さんだって、女子を扱っていないじゃないですか」
──う~ん、そう言われると返す言葉がないですが、MMAPLANETでいうとマンパワー不足とファイナンシャルの欠如で、手が回らないということです。
「ほら、そういうことですよ。3年連続で世界王者になっても、まるっきりの専門メディアでさえそう。それは湯浅が悪いんじゃなくて、柔術界全体の問題ですよ。彼女が柔術で飯を食えないというのは。それが日本の柔術で、ブラジルや米国だったら違ったでしょう」
──マッケンジー・ダーンやミシェル・ニコリニのように?
「そうです。まぁMMAに転向という道を選択しているけど、そもそも彼女たちは食っていけているから。男子もそうですよ、日本は。競技レベルは男女で違うにしても、日本の男子がこれからも絶対に勝てない。というのは結局、柔術しか見ていないからですよ、アイツらは」
──それはどういうことですか。
「だってMMAできないヤツが柔術をやっているじゃん。これが僕の考察です。だから、弱いんですよ」
──それは違うでしょう。MMAができないから柔術をやっている? なぜ、MMAをしようと思わないといけないのですか。別競技ではないですか。
「いやいや、柔術はMMAの一部だから」
──IBJJFのムンジアルで勝ちたいと思っている柔術家はそのように考えないですよ。逆にMMAに色気を持つと、ムンジアルで勝てないぐらい、別競技として高い頂を持っています。
「僕は申し訳ないけど、柔術はMMAの一部でMMAへのステップアップの過程だと考えています。それが俺がやってきたこと。高島さんだって、そういう部分があるでしょう」
──自分は柔術というのはMMAの根幹になっていた時期があるけど、過程とは思わないです。今もその技術はMMAに十分に生かせるし、それは伝統派、武術空手もムエタイの首相撲、カレッジレスリングもそう。ただし、その個々の競技で使う技術がMMAに全て通じているとは思っていない。だから、柔術は柔術、MMAはMMAだと考えています。
「僕が思うのは、今の日本の柔術は凄く閉鎖的になっていて、自分達の価値観を大切にし過ぎて周りのモノを拒んでいるように感じるんです。
ノーギに柔術の人は来ないし。結局、道着しかお前らやっていないだろうって。偉そうなこというけど、お前ら弱いだろうって常に思っているので」
──どこの場に出て、弱いかですよね。
「いや、格闘技として弱いだろうってことですよ。サブミッションの取り合いをしたって……要はひっくり返し合いしかしていないだろって」
■『俺たちが一番凄いことをやっている『
──いいですか?
「ハイ」
──自分はADCCがノーギを代表するルールだとすれば、日本の黒帯柔術家、ムンジアルに挑んでいる選手と日本のトップMMAファイターがADCCルールで戦えば、アベレージの戦績をみると柔術家の方が強いと思いますよ。
「そうスか?」
──RIZINのグラップリング大会、あの一本でなければどっちが攻めたかをジャッジが判断するルールで、青木選手も北岡選手も日沖選手も出ていない状況ですが、嶋田裕太選手がダントツに強かった。細川顕選手、アレが前半だけでもポイントがあるルールなら、また違った結果になった公算は高い。嶋田選手が最も手を焼いていたのは紫帯の佐野貴文選手でした。一本でなくても、パスガードをガンガンされる選手が、逆転のサブミッションを取れることなんて本当に稀だと思います。
「ない。ないですね。でも、これは横暴だけどMMAの方が上なんですよ」
──それは、ないッ!!
「いや、これは僕の考えだから。俺は声を大にして言う」
──いや、それは違う。
「僕はMMAの方が上だと思っている。基本的に柔術の方が下だと。俺らのやっていることが一番。だから、お前らデカい顔をするなっていうことは思っている。ここは僕、北岡さん的なんですよ。俺らのやっていることが一番だと思っている」
──青木選手がそう思うのはありでも、柔術家がそれは違うと思って然りでしょう。
「そりゃあ、外国の強い柔術家を見ていると、強いなぁって認めることはありますよ。でも、日本の柔術家にはいない。これ、結構マジな話です。練習を何人かしても、強いとは思わない。かなり横暴な考えですけどね」
──横暴ですね。
「俺らの方が上だと思っているから」
──では、ムエタイの選手たちに対して、青木選手は彼らは寝技ができないからMMAの方が上だと思うのですか。
「やっぱり俺たちの方が上だと思っています」
──なるほど(笑)。柔術家だけでなく、ムエタイの選手にも思うのですね。なら、まぁ良いかなって思います。
「レスリングにしても、柔道にしても俺らの方が凄いことをやっている。キング・オブ・スポーツだという想いが強い。当然、認めますよ──一部のパーツに関しては。でも、俺たちの方が凄いスポーツをやっている」
──これは青木選手のインタビューなので、記者として青木選手の話を伺うことが仕事ですが、私自身はそこはまるでないです。では100メートルの金メダリストと、十種競技の金メダリストだと十種競技の方が価値があるのでしょうか。私は到底思えない。それは競技特性だから。みな、同等なはずです。
「そりゃ、比べるものじゃないです」
──一番好きなスポーツなら構わないですが。
「大沢ケンジが言っていたことと一緒ですよ。でも、しょうがないソレは。そう言わないと、やっていけない部分がある。俺たちが一番凄いことをやっている気持ちでいるから。ただ、嶋田裕太がカウンターで大沢に対して、『ふざけるな』って怒ったのは大歓迎ですよ。
それはそれで気持ち良いから。あの意地は素晴らしい。その意地を見せるから、彼は日本で一番なんですよ。一番のファイターだと思います。でも、世界一になるのは難しいだろうな……」
■『なんで、ひっくり返し合いで情熱を燃やすことができるんだろう』
──それはMMAも同じことじゃないですか。
「ただ、アレに情熱を燃やせられないって思っちゃう」
──それは青木選手個人の有り方ですし。
「そう、そうなんですよ。なんで、こんなひっくり返し合いで情熱を燃やすことができるんだろうって」
──そこに世界一のひっくり返し合いがあるからじゃないですか。ルンピニーのタイトル戦に寝技はないですが、だからダメだとは思わないでしょう。
「そういうモンなのかな。僕は見ていて、何でって思っちゃうんですよ。日本人に関していうとアスリート性が決して高くない。それと最初に言った──食っていけないことが関係しているのかな。
うん、嶋田裕太が40人、50人、100人っていたら大したもんだってなるかもしれない。ブラジル人の黒帯とか強いヤツは強いじゃないですか。日本の柔術家の多くを見ても、強いと思わない。そういうことなんです」
──それは私も日本の柔術の黎明期に感じたことはあります。ある記者が柔術をやって、柔術が一番みたいなことを言ってきた時に、お前は喧嘩もできなくて、人を殴ることもできないから柔術をやって、自分がグレイシーになったつもりでいるんだろうって。でも、今の柔術界で、黒帯でムンジアルに出るだけ努力をしている選手に、それは一切感じない。ルーカス・レプリとあの試合をした岩崎正寛選手、素晴らしいと思います。彼と喧嘩はしたくない。
「岩崎は練習したことあるんで……。いや……なんて言えば良いのか……」
──思うに青木選手は黒帯という頂点にいる人が、道場主になって試合に出なくなった時とか、柔術が緩く見えるようになったのはないですか。
「そう、緩く見えた。個として弱いって」
<この項、続く>