【a DECADE 02】10年ひと昔、2003年2月22日プロ修斗「Cold War」
【写真】スキーで移動する人の姿も見えるアウラ川。ヨアキムは「まさか、ここで服を脱げって言わないよね」と笑っていた。
MMAPLANET執筆陣の高島学が、デジカメにカメラを変更し取材するようになってから10年が過ぎた。そこでMMAPLANETでは、10年周期ということで高島が実際に足を運んだ大会を振り返るコラムを掲載することとなった。a DECADE、第2 回はうっかり4日ほど過ぎてしまったが、10年前の2月22日。第1回で振り返ったADCC欧州予選と同様に、フィンランドはトゥルクで開催されたプロ修斗公式戦「Cold War」を振り返りたい――。
Text & Photo by Manabu Takashima
1カ月と10日ほど前に人生初の氷点下20度超えを経験した地はフィンランドのトゥルクを、また訪れた。日本人の多くが、どこにあるかも知らないフィンランドの小都市を2カ月連続で訪問、目的はADCC欧州予選のプロモーターでもあるマルコ・レイステンが開いたプロ修斗公式戦を取材するため。大会翌日、35歳にして初めて凍った川の上を歩いたことと、前回と同じホテルに宿泊し、またも女の子の〇霊と遭遇してしまった――いずれも身が凍る思いをしたことが印象深い北欧滞在だ。
【写真】メインで、RINGSで活躍したリカルド・フィエートの実弟エフィートを破ったユノラフとセコンドのヨアキム。北欧、ノルウェーの地から現れた重・軽量級の実力者は、僕の記者人生を原点に戻してくれた存在だ。
この前年の10月以来、2度目のプロ修斗開催。前回の大会で、最も印象に残る活躍をしたヨアキム・ハンセンは、年末のNKホール大会出場というチャンスを掴み、タクミ(現KOPフェザー級王者)に勝利、そのチャンスをモノにした。ヨアキムの活躍が、他の北欧系ファイターの闘志に火をつけないはずがない。
開催地フィンランドに留まらず、スウェーデンやノルウェーのファイターたちがリング上で見せた気持ちの強さ。それは何かコトを成す以前、ただ前を見て走るという純然たるパワーの固まり、ガムシャラなのか闇雲なのか、後に振り返ってみても分からない、若さがリングサイドにヒシヒシと伝わってきた。
メインに出場したのは、ヨアキムの盟友ユノラフ・エイネモ。1年4カ月前の欧州初のプロ修斗公式戦=オランダ大会以来、2度目のプロ修斗出場となった北欧の巨人は、オランダのエフィート・フィエートから僅か114秒、マウントパンチでタップを奪っている。グレイシー・イパネマのマルセーロ・ヨーギの指導を受けた軽・重量級2人はスカンジナビアMMA界のパイオニアとして、ダントツの存在感を示していた。
トーマス・ヒッテンとドローに終わり、第2の日本行きのチケットをそのヒッテンにさらわれたペル・エクルンド、カイ・リンタコルピをパウンドアウトしたダーヴィド・ビエルクヘイデンが、その後、エイネモと同様にUFC参戦を果たしている。
【写真】ヨアキムに続き日本行きのチケットが賭けられていたトーマス・ヒッテンとペル・エクルンドの対戦はドローに。マルコ・レイステンは約束ごとが書かれた紙をマルタイン・デヨング欧州修斗代表に見せつけ、勝者を選べと暗に強要。まぁ、そんな感じの正直な人だった。
彼ら以外で将来性が最も買われていたサウリ・ヘイリモを初め、出場選手の多くが大成することはなかった。彼らのMMAで伸し上がるという意気込みも、スウェーデンでMMA廃止法案が可決されるなど、険しい難問が彼らに降りかかり、徐々にしぼんでいくしかなかった。また、日本のMMA人気の低下とともに現地の修斗で勝つことが、日本行き=世界へのチケットを得るというレイステンの作り上げようとした基盤を崩していったことも、北欧MMAの成長を鈍化させた一つの要因だろう。ノルウェーは未だにMMAが認められていない。
【写真】UFCでレフェリーを務めるボビー・スンデルを破ったサウリ・ヘイリモ。今、どうしているのだろうか。普通に寝技の強いファイター。当時はまだ、テイクダウンにはそれほど着目されていたなかった時代だ。
そんな北欧の地、スウェーデンで昨年4月に初めてUFCが行われ、1カ月半後には2度目のストックホルム大会が開かれる。メインに出場するアレクサンダー・グスタフソンのプロMMAデビュー戦は、レイステンの下で修斗を経験し、ラフティの街に持ち帰ったレーデスマキ兄弟がプロモートした修斗ラフティ3だ。ビエルクヘイデンが所属していたヒルティ柔術とエルルンドの所属していたアライアンスMMAから、UFCに出場しているレザ・ラマディ、現在UFC1勝1敗で4月にマイケル・ジョンソンと戦う。
それこそ彗星のごとくヨアキムとエイネモが現れ、北欧の地にMMAという木の種を植えてから10年。日照り続きだったり、栄養が上手くまわらないなど、その木は順調に花を咲かせることはなかった。それでも、北の大地にしっかりと根を張ることはできていた。「スカンジナビアの選手達に対して、未来を開くことができた」と語るヨアキムと、完全に凍りついたアウラ川を歩いてから――10年。2013年2月22日、ヨアキムは後楽園ホールのリングの上でシュートボクシングの試合に出場していた……。体は少し丸みを帯び、頬は以前よりもこけて戦うヨアキム、10年ひと昔とは良く言ったモノだ。スキンヘッドの彼は、確実にMMAの歴史に名を残すファイターとなっている。
【写真】この大会では2試合アマ修斗が組まれ、第5試合に出場してヒザ蹴りの連打で勝利したトーマス・マードッグ。彼は後にThe Cageというフィンランドのケージ大会のプロモーターとして活躍するも、『きこりになる』と言い残しMMA界を去った。今もADCCで活躍するレイステンとは、真反対(といっては失礼か……)。ピュア過ぎる性格が、この業界に合わなかったかもしれない……。
■2003年2月22日プロ修斗公式戦「Colad War」@ カリビア・ハーリ、トゥルク:フィンランド 試合結果
<修斗ヘビー級/5分2R>
ユノラフ・エイネモ(ノルウェー)
Def.1R1分54秒by マウントパンチ
エフィート・フィエート(オランダ)
<修斗クルーザー級/5分2R>
イカ・レイノ(フィンランド)
Def.1R3分59秒by アキレス腱固め
トーマス・ヴァレンタイン(スウェーデン)
<修斗ウェルター級/5分2R>
トーマス・ヒッテン(ノルウェー)
Draw 1-1
ペル・エルクンド(スウェーデン)
<修斗ヘビー級/5分2R>
ミカ・イルメン(フィンランド)
Def.1R0分14秒by KO
ヤコブ・ラブスタッド(ノルウェー)
<修斗ライトヘビー級/5分2R>
ダーヴィド・ビエルクヘイデン(スウェーデン)
Def.1R1分45秒by パウンド
カリ・リンタコルビ(フィンランド)
<アマ修斗/3分2R>
トーマス・マードック(フィンランド)
Def.1R終了時TKO
クリス・ヘイム
<修斗ミドル級/5分2R>
サウリ・ヘイリモ(フィンランド)
Def.3-0
ロバート・スンデル(スウェーデン)
<修斗クルーザー級/5分2R>
ユッシ・ヨキネン(フィンランド)
Def.1R0分7秒by KO
キンモ・クルヴィ(フィンランド)
<修斗クルーザー級/5分2R>
ボビー・レアム(スウェーデン)
Def.1R1分47秒by ヒールフック
サミ・リエデス(フィンランド)
<アマ修斗/3分2R>
ニキラス・サクリション
Def. Judge
マッチ・ヴィヘルマ