【on this day in】5月26日──2008年
【写真】レスラーの構えを修正して、左ジャブを繰り出せば体重がどこに掛かるのかをトンプキンスは丁寧に再現し撮影させてくれた (C)MMAPLANET
Shawn Tompkins
@ネヴァダ州ラスベガス、エクストリーム・クートゥアー
「総合には総合の打撃がある。キックの打撃は腰高だから、総合では通じない。通り一辺倒の技術論をその理も追及することなく、10年以上も信じていた。だから、2003年にハワイで初めて会ったショーン・トンプキンスのことを『総合が分かっていない。キックのトレーナーだ』なんて思っていた。マーク・ホーミニックのような腰高でキックボクサーのような打撃を使うファイターを育てていたからだ。柔術がMMAの軸にあった頃の話だ。トンプキンスの目は既にレスリング軸の打撃中心のMMAに向いていたことが分かったのは、それから5年後のことだった。彼はエクストリーム・クートゥアーの打撃コーチに就任し、グレイ・メイナードやランディ・クートゥアーというレスラーのボクシング技術を飛躍的に向上させていた。彼の持論は腰の高い打撃系ファイターがMMAに対応するには、テイクダウンを狙われた時に腰を落としてスプロールすれば良いのでアレンジは簡単で、レスラーを打撃に適応させる方が難しいというものだった。体を起こさせ、打撃が使える構えになっても、オーソドックスだと前足と同じサイドの左ジャブを打ち込む際に、体重が足に掛かり過ぎる。そうなると相手のテイクダウン狙いに対応できない。トンプキンスはレスラーに対して、まず遠い距離からでも優れた身体能力を生かして打ち込める右クロスを指導していた。右のクロスだと、重心を後ろ足に掛けやすく、テイクダウン狙いをスプロールするのも容易くなる。それがトンプキンスの考え方だった。時代は彼の言っていたようになった。ばかりか、その先を行くように左ジャブや前蹴りを多用するレスラーたちも現れた。こんな日が来ることをトンプキンスも予期していたのだろうか。3年3カ月後に急逝した彼に、そのことを確かめる機会は僕には訪れなかった」
on this day in──記者生活20年を終えた当サイト主管・髙島学がいわゆる、今日、何が起こったのか的に過去を振り返るコラム。自ら足を運んだ取材、アンカーとして執筆したレポートから思い出のワンシーンを抜粋してお届けします。