【Interview】GLORY02を現地で見て。バンゲリングベイ新田会長(02)
【写真】コウイチ・ペタスのセコンドとして、ベルギーを訪れた新田会長の目に、70キロの新鋭二人の強さの要因はどこにあると映ったのか(C) GLORY
今月6日(土・現地時間)にベルギーで開催されたGLORY02。コウイチ・ペタスのセコンドとして現地を訪れた新田明臣・バンゲリングベイ会長。インタビュー第2弾は、It’s Showtime世代といえる2人の70キロファイター、マラット・グリゴリアンとアンディ・リスティ――、注目の逸材の強さを解剖してもらった。
『世界のトップキックボクサーの90パーセントと契約した』と豪語するGlory Sports Internationalと日本大会を共催するG-Entertainmentの提供による、GLORY Fighterインタビュー=新田明臣編(後編)。
<新田明臣会長インタビュー、前編はコチラから>
――なるほど。次に今後の70キロ戦線を占う2選手の試合についてお伺いしたいと思います。前評判の高かったマラット・グリゴリアンが、アレックス・フォゲルに2RでKO勝利しました。
「試合を見て最初に思ったのは“立ち”の良さですね。ジョルジオ・ペトロシアンを見てもそうですけど、試合が始まった時の立ち位置、立ち方がすごく良い。見た瞬間に分かりました」
――それは構えに秘密があるのでしょうか。
「構えもそうですし、間合いですよね。僕は指導する時に『間合いはピント合わせだ』と言うんですね。デビュー直後やキャリアの浅い選手は全く攻撃が当たらない場所にいたり、密着してぐちゃぐちゃになったりするじゃないですか。
あれはお互いに攻撃のピントが合ってないからなんです。逆に見ていて緊張感を感じる試合というのは、お互いのピントが合っていて、どちらも常に攻撃できる状態にいる。その表現を使うと、マラットは相手と自分の間合いを意識して、常に攻撃のピントを合わせています。
だからどんどん手数を出すことが出来るんです。相手が動けばすぐに自分の立ち位置を修正して攻撃のピントを合わせていますね」
――見た目以上にフォゲルはマラットのプレッシャーを感じていたということですか。
【写真】派手な攻撃の裏には、基本に忠実な立ち位置と距離の詰め方が存在するマラット・グリゴリアン(C)GLORY
「はい。リングに立っている位置を見ても、マラットは必ず自分がリングの中央に立つんです。それからフォゲルを追いかけていくのですが、常にフォゲルがロープやコーナーを背負わせて逃げ場をなくすように追い詰めています。
フォゲルの立場からすると、逃げようと思うと後ろにロープ・コーナーがあって、目の前からマラットが迫ってくる。仮に攻撃されなくても、それだけで精神的に消耗します。人間は逃げられる場所があれば、まだ頑張ろうとするものですが、逃げ場を失うと精神的に参ってしまうんです」
――何気なく前に出ているように見えましたが、そこまで計算されているんですね。
「プレッシャーを掛けていても、相手にロープやコーナーを背負わせなければ、相手はグルグルとリングの中に逃げ回ることが出来るじゃないですか。そうなるとただ追いかけまわしているだけになって、プレッシャーがかからない。
立ち位置や追い詰め方は、細かいことなんですけど、ものすごく大事なことなんですよ。マラットの攻撃力やKOシーンに目を奪われがちですが、マラットの立ち位置&追い詰め方は理想的で素晴らしい技術です。これまで、あまり知らなかった選手なのですが、彼の戦績はどのくらいなのですか?」
――データでは、フォゲルに勝って34勝4敗1分となっています。
「いやぁ、この選手はすごく強いですよ…本当に強い。ぜひ日本に来てもらって、強い選手と試合して欲しいですね。キックボクサーとは思えないようなアッパーもバンバン打つし、この戦い方だったら日本でも人気が出ると思います」
――アルメニア系ベルギー人で年齢も20歳と若く、これからさらに強くなると思います。
「ますます期待が持てますね(笑)。アルメニア系といえば、ドラゴがより洗練されたようなイメージがします。ドラゴは攻撃も荒くて相手の攻撃をもらって返す。そういう戦いじゃないですか。
でも、マラットは攻撃もスマートで相手の攻撃をもらわずに返す。マラットはディフェンス能力も素晴らしいです。やはり相手の攻撃をもらってから返すという戦い方をしていると、良い時は良いですが身体がもたないですよ。
見ている人たちはやられてもやり返す選手が面白いかもしれませんが、僕のように選手を育てる側の人間は評価してはいけないスタイルだと思います」
――そしてもう一人、アンディ・リスティとノーディン・ベンモーの試合も見ていただきました。
「リスティもマラットと同じで、立ち位置&追い詰め方が絶妙でしたね。あとは前手=左手の使い方。リスティはベンモーが前に出てこようとすると、左手を伸ばしてバックステップする。
これをやられるとベンモーとしては左手が邪魔になって自分の攻撃を当てることが出来ない。セーム・シュルトも下がりながらジャブを突きますが、みんなあれが邪魔で前に出られない。それと同じ原理です」
【写真】強さの大前提として手足の長さがあるアンディ・リスティ。そのリーチの長さを生かした左手の動きが、強さの秘訣だ (C) GLORY
――自分のリーチの長さを理解した上でのテクニックでもあるのでしょうか。
「はい。大前提としてリスティは手足が長いという特徴があって、それを活かした戦い方をしていると思います。フィニッシュの左フックは身体能力がなせる業で他の選手には無理ですね(苦笑)。
それも含めてリスティは自分にしか出来ないテクニックで戦っていると思います」
――この大会に関してはマラットもリスティも圧勝でした。トップファイターと比べて2人の実力はいかがでしょうか。
「遜色ないと思いますね。今回の相手はどちらも実力差があったと思うので、これからはトップファイターたちと戦って欲しいです」
――新田代表はGLORYの日本上陸前にベルギーで大会を視察されたわけですが、改めてGLORYというイベントにはどんなことを期待していますか。
「やはりこれだけ高いパフォーマンスと技術を持った選手たちが集まっているので、競技の魅力が伝わるイベントになって欲しいですよね。僕らも選手も関係者も含めて、意識を統一して、競技としての試合をお客さんに楽しんでもらいたいです。
派手に打ち合っていなくても、そこにある間合いのコントロールをお客さんが楽しんでくれる。そのくらいまでやる側&見る側の意識を高めていきたいです。話は逸れるかもしれませんが、格闘技は究極的には武道じゃないですか。僕は格闘技=お互い命をかけて戦う神聖なものだと思っているので、そういう部分も伝えたい。
僕がオランダで練習して驚いたのが、オランダのジムは練習前後に選手全員が正座して黙想するし、トレーナーやコーチと話す時も必ず『先生、押忍』なんです。そうやって僕は逆に海外で日本の武道精神を学びました。だから今度は僕らがGLORYの選手たちを通じて、格闘技の武道的なものを感じ、たくさんの人たちに伝えていければいいなと思います」