この星の格闘技を追いかける

【OCTAGONAL EYES】atmosphere

2010.06.29

atmosphere【写真】昨年6月のUFC99ドイツ大会の場内。米国だけでなくアイルランドとスウェーデン国旗が見える。この他、クロアチア、イングランドのも見られた。格闘技会場の雰囲気はイベント、土地柄によってかなり違ってくる (C) MMAPLANET

※本コラムは「格闘技ESPN(旧UFC日本語モバイルサイト)」で隔週連載中『OCTAGONAL EYES 八角形の視線』2009年10月掲載号に加筆・修正を加えてお届けしております

文・写真=高島学

先週の週末からアムステルダムに来ています。当地で行われたゴールデン・グローリーというマネージメントグループの10周年記念大会の取材のためのオランダ訪問です。

キック王国オランダを取材で訪れることはままあるのですが、格闘技イベント会場に足を踏み入れたのは、実に6年ぶりのことでした。以前は会場内でタバコはおろか、この国では合法のマリファナを吸うファンや関係者、あるいは記者の姿をいくらでも見ることができたのですが、この間、オランダの喫煙場所が大幅に制約されたため、目が乾き、ノドが痛くなるという嫌な思いをすることなく、今回は大会取材を終えることができました。


オランダの格闘技会場では、リングサイドにテーブルが用意され、アルコールや食事を楽しみながら試合を観戦するという光景が良く見られます。

それでも、従来はアリーナ後方やスタンドも通常のシートが用意されるのですが、今回、私が取材したイベントは全てがテーブル席。観客はファンシーに着飾ったVIPや招待客のみ、いわゆる一般のファンはチケット代より安価なストリーミングで観戦する――というかつてない試みが行なわれていました。

シャンペンやワイン、コース料理に舌鼓を打ちながら同国を代表するファイターのキックやMMAの試合を見る。食事を口に運んでいるので、選手に対する声援はなく、セコンドの声以外に聞こえてくるのはフォークとナイフを使う金属音ばかり――、なんとも不思議な格闘技会場でした。

『UFCの会場の雰囲気は凄い』、『UFCでは日本のような創り込みが必要なく、ファンがイベントを盛り上げる主導権を持っている』――、こんな意見を日本のマスコミ関係者が発することがしばしばあります。

こればかりは、経験してみないと分からないことですが、場内割れんばかりの歓声というのは、UFCのPPV大会そのものの指している表現だと思います。

そんな中で、欧州で行なわれるUFCの会場の雰囲気は、米国のソレとは多少違いが見られます。米国の大会は大歓声に負けない大ブーイングと、大USAコール、ややもすれば単純なこの3つの要素で成り立っています。

一方、今年の6月のドイツ大会では、在独米軍関係者を中心としたUSAコールにブーイングが集中し、米国国旗よりもイングランド、アイルランド、あるいはクロアチアやなぜかスウェーデンと欧州各国の国旗がはためき、さながらケルン万国博覧会を思わせる光景でした。

同じ欧州大会でも、英国のそれはまた独特です。熱唱、ひいきの英国人ファイターに勝利した他国の選手にも送られる惜しみない拍手、それはフーリガンという危険要素を含みながらも、サポートするチームの壁を越え、素晴らしいプレイを正当に評価する、英国フットボール会場の雰囲気に似た、重厚かつ荘厳な雰囲気です。

そんな多々ある格闘技イベントの会場内の雰囲気にあって、私が今も忘れられないのは、2006年5月27日にロサンゼルスのステイプルス・センターで行なわれたUFC60『HUGHES vs GRAICE』、そのメインのマット・ヒューズとホイス・グレイシー戦。

あの場内の盛り上がり方は、それまでに経験したことがないものでした。

ホイス・グレイシーの入場時から、隣の記者の話しかける言葉も聞こえないほどの館内の声援は、ホイスがブルース・バッファーのコールを受ける時点で最高潮に達しました。

私の15年に及ぶ記者生活で、リングアナのコールをかき消した観客は、後にも先にもホイス・グレイシーを迎え入れたステイプルス・センターの観客たちだけです。

その瞬間、鳥肌が立ち、思わず立ち上がって場内を見まわしてしまったほどです。

今週末、オランダから東京を経由し(正確には自宅で一泊します)、LA、ステイプルス・センターで行なわれるUFC104を取材します。果たしてリョート・マチダとマウリシオ・ショーグンにどれだけの熱いファンの声を送られるのか。あの日の再現――とまでいかなくていいです(やはり自分にとって、ホイス、そしてグレイシーは特別な存在ですから)、あの夜に近い雰囲気が楽しめられれば、いいなと思っています。

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