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【PJJC2022】ライト級─鉄壁のジョナタ・アウヴェスに敗れるも、アンディ・ムラサキ準優勝

【写真】一本勝ちも、序盤のスイープで得たポイントを守りきるのも完勝だ(C)IBJJF

6日(水・現地時間)から10日(日・同)まで、フロリダ州キシミーのシルバー・スパーズ・アリーナにて、パン柔術選手権が行われた。レビュー最終回は、優勝候補最右翼のジョナタ・アウヴェスや、そして日本でティーン時代を過ごしたアンディ・ムラサキが出場したライト級の模様を、ムラサキの戦いを中心に紹介したい。

<ライト級1回戦/10分1R>
アンディ・ムラサキ(ブラジル)
Def.6分47秒 by 襟絞め
ジョニー・タマ(エクアドル)

ムラサキの初戦の相手は、2019年ノーギワールズを制覇する等、ノーギグラップリングでの活躍が目立つジョニー・タマ。引き込んで片襟を取ったムラサキは、タマの右足を掴んでシットアップに入る。が、それを片足立ちで堪えたタマは小手絞りでカウンター。ムラサキは自ら寝て回転して逃れたものの、タマが持ち味を発揮してアドバンテージを得た。

しかしタマの右足を離さずキープしたまま立ち上がったムラサキは、それを股間にはさんで固定すると、タマの左足を抑えつつ回してテイクダウンに成功。下のポジションを起点としたスイープの2点を先取した。

オープンから仕掛けようとするタマだが、ムラサキは左膝を入れて低い重心を取ると、左腕を伸ばして玉の帯の背中を取る。さらに重心を低くしてタマの両足を重ねて潰したムラサキは、左にパスに成功。さらにスクランブルを試みるタマのバックにまわり、9点目を獲得した。

そのまま4の字フックを入れたムラサキは、じっくり締めを狙ってゆき、残り3分少々のところでフィニッシュ。タマも持ち味のダイナミックな動きで見せ場を作ったが、ムラサキの反応の良さと盤石のベース、そして極めが上回った好試合だった。

<ライト級2回戦/10分1R>
アンディ・ムラサキ(ブラジル)
Def. 4-2
ヴィクトー・ニサエル(ブラジル)

ムラサキの2回戦の相手は、ムラサキ同様に昨年黒帯を取得し、サウスアメリカン王者に輝いたニサエル。オープンガードを得意とする選手だ。

まず座る両者。ここでなぜかニサエルは一瞬立ち上がってから改めて下に。ムラサキがその流れで上攻めを選択すると、一度上下が成立したということでムラサキに2点が与えられた。ニサエルとしては勿体ない失点だ。

下を得意とするニサエルは、片襟片袖から煽り、さらにムラサキの右足に絡んで内回りや外回りを狙ってゆく。ムラサキは持ち前のベースで対抗。たまに自ら背中を付けて絡みつく足を解除してから、立ち上がる動きも見せる。やがてムラサキはニサエルの足を捌いて左に侵攻し、アドバンテージを獲得した。

ニサエルが戻すと次は右に動き、さらにまた左へとパス攻撃を続けるムラサキ。低く重く、同時に速く鋭い動きだが、ニサエルもよく対応している。やがてムラサキは、ニサエルの左足を素早くレッグドラッグしてサイドに。ニサエルは右足を入れて隙間を作ると、ムラサキの股間に潜り込む形で背後に回る。対するムラサキは前転して下になると同時に、体をずらして50/50で絡む。この攻防でムラサキにアドバンテージが一つ、ニサエルに2点が与えられた。ポイントは同点だが、アドバンテージはまだムラサキが2つリードしている。

残り1分。ムラサキは下からニサエルのズボンの尻を掴んで、足の絡みを解除する。さらにニサエルの左足を掴みながら立ったムラサキは、背後から右足を刈ってテイクダウンに成功。スコアを4-2とした。時間のないニサエルは、下から強引に足を取りにゆく。すかさずそれを低い重心で潰したムラサキは、サイドを取りかけてからマウント狙い。なんとかニサエルが下から足を絡めるが、背後に付きかけたムラサキが、クロックチョークの体勢に入ったところで試合は終了した。

ニサエルのオープンガードにやや手を焼いたムラサキだが、それでもスコアは4-2、アドバンテージ5-0。上からの強烈なプレッシャーと鋭いパスに加えて、下の50/50ゲームでもバックを脅かし、上を取る強さを見せての快勝だった。

<ライト級準々決勝/10分1R>
アンディ・ムラサキ(ブラジル)
Def. 4分58秒by 肩固め
セルジオ・アントニオ(ブラジル)

背が高く懐の深いアントニオは、引き込むと同時にヒップバンプ。体勢を完全に崩されたムラサキは、あわやバックを許すかに見えたが、回転して正対し、アントニオのクローズドの中に入った。この攻防でアントニオはアドバンテージを2つ獲得した。

立ち上がったムラサキは、アントニオのガードを開けるとその右足を押さえつけて股間に挟んでの制圧を試みる。が、アントニオは、下からムラサキの右腕を取って脇にかかえると、左足を絡めてムラサキの腕を極めにゆき、さらにオモプラッタへ。右腕を伸ばされかけたムラサキだが、回転して体勢を立て直すと、アントニオの体をリフトしながら立ち上がり、あらためて落としながら腕を抜いた。この攻防でアントニオは、アドバンテージをさらに2つ追加した。

立ち上がったムラサキはパスのプレッシャーをかけるが、アントニオはシッティングからムラサキのラペルを自らの右足に絡めつつ、ムラサキの膝裏を通して掴んで対抗。リードを許したまま体勢を固定されかけたムラサキだが、強靭なベースを活かして前に低く体重をかけると、やがて左手でアントニオの首の後ろの襟を取ることに成功。

その襟を強烈に引きつけたムラサキは、左足を伸ばしてポストして安定した姿勢を作って低く強烈なプレッシャーをかけてゆく。やがてアントニオの左足を押し下げて超えると、ハーフガードで胸を合わせて抑えることに成功した。

改めて左で枕を作り、完全にアントニオの上半身を制圧したムラサキは、さらに右腕をセルジオの左脇に入れて開けせるとあけさせると、足を絡められていた右膝を抜いてサイドにつき、すぐにマウントへ。ここで7点を獲得したムラサキは、さらに開けさせた左脇に頭を入れて肩固めでフィニッシュした。

懐の深さを活かしたアントニオの強烈な先制攻撃に耐え、地力の差を見せつけての逆転勝ち。思わぬ攻撃を受けた時の反応の速さも目立ったムラサキ。攻撃力だけでなく、防御の強さも見せつけた一戦となった。

<ライト級準決勝/10分1R>
アンディ・ムラサキ(ブラジル)
Def. 5-0
イゴール・フィリズ(ブラジル)

準決勝でムラサキを待っていたのは、同じく昨年黒帯を獲得したフィリズ。今年のヨーロピアンで3位を獲得した新鋭だ。

いったん引き込んだムラサキが立とうとすると、フィリズはその右足を取ってのテイクダウン狙いへ。だが左足一本でバランスをとったムラサキは、カラードラッグでカウンター。前に崩れたフィリズの背中に回ってシングルバックに飛びついて、アドバンテージを獲得した。

そのままフィリズを後ろに引き倒して2点を獲得したムラサキは、バックをいやがるフィリズを胸を合わせて押さえ込み、さらに右に飛んでサイドを狙う。フィリズはなんとかその左足に絡んでハーフを死守した。

が、右脇を取って上半身を殺しているムラサキ。右の上腕と前腕でフィリズの首を殺すと、足を抜いてパスに成功。5点目を獲得した。

さらにマウントを狙うムラサキに対し、フィリズは動いてディーフハーフを作る。そこから体を翻してのスイープを狙うフィリズだが、ムラサキはうまく距離を取って離れてみせた。

スタンドになると、再び引き込んだムラサキ。フィリズはオーバーアンダーからの低いパスを狙うが、ムラサキは素早くシットアップして背中越しにフィリズの脇を取ると、さらに上体を起こしてクルシフィクスの形に入った。

対するフィリズはムラサキをリフトしながら立ち上がり、振り落とす。そのままサイドにまわりさらにバックを狙うフィリズだが、ムラサキは前転してスクランブルから立ち上がることに成功した。

残り2分。ムラサキはまたしても引き込んで、フィリズの右足首のズボンと片襟を取る得意の形に。フィリズはムラサキの左足を担いでパスをねらうが、ムラサキは落ち着いて防いで試合終了した。

持ち前のパスガードとスクランブルの強さに加え、ガードでの防御力も見せたムラサキ。ここまで4試合、攻撃、防御、トップ、ボトム、キワとどの局面でも強さを発揮した上で、宿敵ジョナタ・アウヴェス──ムラサキは昨年のこの大会の準々決勝、そして今年のLAオープン決勝でアウヴェスと当たりどちらも僅差で敗れている──が待つ決勝戦に駒を進めたのだった。

<ライト級決勝/10分1R>
ジョナタ・アウヴェス(ブラジル)
Def.2-0
アンディ・ムラサキ(ブラジル)

前年度王者にして優勝候補筆頭のアウヴェスは、初戦は3分少々で襟絞め、準々決勝は1分半でトーホールド、そして準決勝のナタン・シュアン戦も3分半ほどで襟絞めを極めてフィニッシュ。下からのスイープと極め、トップにおける安定感、相手の足を低く畳んでのパス、そしてバックからのフィニッシュと全局面で突出した力を見せつけての決勝進出だ。

まず引き込んだアウヴェスは、ムラサキの左足に絡むと、シッティングから膝裏を通してラペルを掴み、シットアップしてシングルレッグにつなげて2点を獲得。自ら仕掛け、ムラサキに対応する隙を与えずにやりたいことを一方的に完遂する形で先制してみせた。

右でラッソーを作るムラサキに対して、アウヴェスは得意の低いベースを作ってから左に動く。さらに噛み付いてのオーバーアンダーの形でプレッシャーをかけるアウヴェス。ムラサキはその侵攻を防ぐと、クローズドガードを取った。

ここでもアウヴェスは低い姿勢で胸を合わせて。ムラサキは背中越しに帯を持つが、しっかりと密着されて攻撃を仕掛けられない。しばらく攻防が止まった後、ムラサキの方にペナルティが与えられた。ムラサキはアウヴェスのラペルを取って、背中越しにラペルスパイダーを作るが、これも低いアウヴェスのベースの前には効果がない。

試合が後半に入り、ムラサキは下からオモプラッタを仕掛けようとするが、不発。いったんガードを開いての攻防を試みるムラサキだが、アウヴェスが低く侵攻を試みると、再びガードを閉じた。

もう一度ガードを開けたムラサキはラッソーへ。そこから右に崩そうとするが、バランスを保つアウヴェス。ムラサキは立ち上がってからまた引き込むが、低い姿勢を取るアウヴェスの密着度がとにかく高く有効な攻撃を仕掛けられない。やがてアウヴェスがプレッシャーをかけてくると、ムラサキはまたしても立ち上がった。ムラサキはアウヴェスにパスこそ許していないが、その低く重厚なトップゲームに対する突破口を見出せないままだ。

残り3分でスタンドから再開。頭をつけ合う両者。ムラサキは前に出るがアウヴェスは無理せずその力を流していく。やがてお互いにペナルティが与えられた。

残り2分。ここでアウヴェスが引き込んでクローズドに。ムラサキが立ち上がると、アウヴェスはその右足を抱えて、後転するように前に崩してから、ムラサキのズボンの尻を掴んでのバック狙いへ。リードされていて自分から展開を作らなくてはならないムラサキだが、アウヴェスのほうに作られてしまっている。

前転して逆にバックを狙いたいムラサキ。が、尻をつかんでいるアウヴェスはムラサキを引き戻し、右足に50/50で絡むことに成功。アウヴェスは絡めとったムラサキの右足を左手で抱えると、そのまま体勢を固定してムラサキの動きを止めて試合終了。

序盤早々に下からスイープを決めたアウヴェスは、トップを取るとムラサキに一切の攻撃の緒を与えず。そして最後は再び自ら下になり、ポジションを完全に制御下に置いての勝利。ムラサキとしては、同世代のライバルに3連敗だ。しかも今回は上下両方の攻防で上を行かれ、終始主導権を奪われての完敗となってしまった。

それにしても今大会、準決勝まで全て短時間で一本勝ちした上で、ライバルのムラサキにもはっきり差を付けて勝利したアウヴェスの戦いぶりは圧巻の一言った。凄まじい地力に加えて、確実にポイントゲームを支配する方法を練り上げて実行する点でも頭一つ抜けているあたり、師匠メンデス兄弟を彷彿させる。ミドル級を制したチームメイトのタイナン・ダウプラとのAOJコンビの時代が、今後しばらく続くのではないだろうか。

【ライト級リザルト】
優勝 ジョナタ・アウヴェス(ブラジル)
準優勝 アンディ・ムラサキ(ブラジル)
3位 ナタン・シュアン(ブラジル)、イゴール・フィリズ(ブラジル)

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