この星の格闘技を追いかける

Abema TVの『格闘技ブームを予感させる機運が高まっている』というリリースに関して……

2019.03.04

custam先ほど、Abema TVより『「AbemaTV」が2019年3月格闘技界を揺るがす注目の4大会を完全生中継』という題目のプレスリリースが届いた。

3月9日の「DEEP JEWELS」、10日の「K-1」&「RISE」を経て31日の「ONE Championship」まで過去最高の生中継ラインナップをこの1カ月で揃ったというわけだ。

MMAPLANET的にいえばAbemaで視聴できるパンクラスや修斗、そうでないDEEPやGrachan、すでに終了したHEAT44を加え、UFC、Bellator、KSW、Brave CFというMMAだけでなくPolarisやパン柔術など注目すべき格闘技大会が控えている。

Abema TVのプレスリリースには『新たな時代を担う選手たちの戦いが続く3月は、これら強烈な大会ラインナップだけではなく、休刊、発行停止した格闘技雑誌の復刊がささやかれ話題となるなど、まさに「格闘ブーム」を予感させる機運が高まっています』という一文が添えられている。


そもそも「BOOM」とは急激な増加、にわか景気といった一時的に人気を指す言葉を意味している。そういう部分で格闘技が永続的、あるいは継続的な人気を得るきっかけになるのであれば格闘技ブームが訪れるのは大歓迎だ。
ただし、急激な人気の反動で手痛いダメージを被るのであればブームは必要ない。

にわかに人気が上昇し、右肩上がりし、それがバブルという表現が用いられるような社会現象になったとしても、その後の長い低迷が一般社会と格闘技を必要以上に隔離する。そんな反作用を目にしてきた。PRIDEとK-1の全盛期から、「格闘技ブームは来るのか」という前向き発言が出てくるまで、冬の時代は10年以上に及んだ。それでもまた明るい兆しが見えているのはなぜか、好きな人間が格闘技から離れなかったからだ。

格闘技界が経済的に明るい未来を手にするには一般層や格闘技業界以外への広まりは欠かせないのは絶対だろう。その一方で、そこを見るあまり──ビジネスにならなければ寄り付かないという現象を格闘技ブームが生んだのも確かだ。

ブームでなく、習慣として生活に格闘技が根付くには核が必要になる。格闘技が人気絶頂だった15年ほど前には、継続的に人気や知名度、ビジネスを維持するためのフォーマット創りにまで目を配ることができなかったのは我々、専門メディアにも責任の一端がある。格闘技への愛を持つ層、核となる集団はブームだろうが冬の時代だろうが、ビジネスになろうがなるまいが、格闘技が存在すればそれで構わない。

人気があるから、格闘技が好きなわけでないからだ。

格闘技が好きで格闘技に関わっていたら、何かの拍子に世間に伝わるような人気を博した。その裏には格闘技への愛など持ちえない層の格闘技への参入も欠かせなかった。結果、格闘技ブームの利益を我々も享受した。そして冬の時代になっても、格闘技への想いは変わらないが、それだけでは誰も経済的に豊かになることはできないという現実を直視することとなった。

経済的に豊かになることが成功であれば、好きな者の集団が中心である限り格闘技で成功する者は現れない。

絶頂とどん底を経験した格闘技界が再び世に浸透するチャンスを手にするには時間が必要だった。以前の格闘技ブームの際、格闘技が人気のあるコンテンツ、プロダクトだから参入した他分野の人々はビジネスとして成立しなければ格闘技を扱うことはないからだ。そして、そのような財布を握っていた人々がビジネスの第一線を去るまで時間が必要だった。

格闘技人気が頂点だった当時に自らのフィールドで発言権を持たなかった世代が、社会を動かせるようになるだけの時が流れた。今回の「格闘技ブームは来るのか」というリリースを出したAbema TVに代表されるように、時代が変わり社会をリードする人々が世代交代を始めた。
当時、K-1やPRIDEに夢中になり、海の向こうのUFCをその後もチェックしていた人たちが世の中を回すようになったが故の格闘技ブーム再来という空気が醸し出てきたのだ。この空気が確かになった時こそ、15年前はブームで終わらせてしまった──敢えていうと失敗を繰り返さないために核となる基礎工事をこの間に施す必要がある。

その答えは何か。正解など存在しない。

格闘技イベントが格闘技好きによる投資で再び息を吹き返すチャンスを得た今こそ、トライ&エラーで格闘技イベントとして利益を生む必要がある。それには我々のような古い格闘技好き世代と今、世の中を動かせるようになった格闘技好き世代が知恵を出し合うこと。次の世代にバトンタッチできる土台を創る機会を得るためにブームが必要なのであれば、ブームを起こすため、プロモーション、選手、ジム経営者、スポンサー、メディア、それぞれ自身の利益を求めつつ垣根の取っ払った協力体制は不可欠になってくる。

その結果、格闘技はブームでなくて世の中に趣味以上の存在として必要とされる習慣に昇華される。急ぐ必要はない。急いだからといって、コトが成せるわけでもないが、好機が訪れるようとしている今、惰眠をむさぼってきた専門メディアは真剣に格闘技と向かい合う必要がある。

高島学

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