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【2013No-gi World】亀ガード=テレスが魅せた、刻を越えた奇跡

2013.11.08

亀ガード、テレスが大逆転優勝!!  2~3日(土~日・現地時間)、カリフォルニア州ロングビーチのザ・ピラミッドでIBJJF主催の世界ノーギ柔術選手権が開催された。先月北京で行われたADCC主催の世界サブミッションレスリング選手権優勝者の出場こそなかったものの、年に一度の世界選手権だけあってトップ選手たちがこぞって参加した豪華なトーナメントとなった。

今回活躍が目立ったのは、やはり先月のADCC大会の入賞者たちだ。66キロ級でタンキーニョ・メンデスとジョアオ・ミヤオを下して3位に入ったジャスティン・レイダーが、ノーギワールドではフェザー級で優勝。77キロ以下級3位のJT・トレスがライト級、88キロ以下級準優勝のラファエル・ロバトJrがウルトラヘビー級優勝している。

そんな今大会において注目を集めたのは、近年MMAに専念していた柔術世界王者ドゥリーニョことジルベルト・ドゥリーニョ・バーンズのミドル級への出場だ。そして準決勝では、現在ギあり柔術ライト級世界最強のレアンドロ・ロと一騎打ちが実現した。

開始早々引き込んだロに対して、怒濤のパスの攻勢を仕掛けてアドヴァンテージを奪ったドゥリーニョは、さらに上からアンクル狙いを見せてもう一つアドヴァンテージを稼いでみせる。ロも下から足を絡めて回転してのスイープを狙って行くが、ドゥリーニョは膝をマットに付けて前傾姿勢を取り、ロに足を絡めさせない。時間のないロは立ち上がってテイクダウン狙うが、腰の強さで勝るドゥリーニョがそれを防ぎ切って試合終了。ポイントを取った後は、時に攻める素振りを見せては巧みに攻防を避ける安全策で――この後、無差別級で柔優勝を果たす、ロからまんまと勝利を奪ってみせた。

勢いづいたドゥリーニョは、決勝でも成長著しいヴィトー・エンリケを撃破して優勝。さすがの強さを見せた。ADCCを制したライバルのクロン・グレイシーがMMAへの専念を発表した現在、MMA戦績5勝0敗のドゥリーニョの復帰は組み技ファンには嬉しいニュースだった。

ドゥリ―ニョの優勝にも増して今大会の話題をさらったのは、ベテランのエドゥアウド・テレスだ。決勝まで勝ち上がったテレスは、先日のコパ・ポジオのミドル級グランプリで完全優勝を成し遂げた若手の成長株、フィリッピ・プレギウソと優勝を賭けて激突した。

両手を背後で組み、前傾でやる気なさそうに頭を突き出し、しかも後ろ手に組んだ状態から突然テイクダウンを仕掛けるという、何とも人を食ったムーブで先制点を奪ったテレス。対するプレギウソは、新世代戦士らしくベリンボロや内回りの回転スイープを次々に仕掛けて攻めてゆく。しかしテレスは時には足関節で対抗し、背後を奪われそうになっても、決してバックグラブは許さない。一時は亀の状態から体勢を入れ替えて上を奪ってみせるなど、テレス・スタイルで最新技術に対抗して一進一退の攻防を展開した。

そんな奮闘を見せたテレスだったが、残り1分の時点でプレギウソに逆転のスイープを許し、リードされた状態で背後に回られてしまう。残り30秒間上を維持すれば勝利が決まるプレギウソは、両腕でテレスの上体をロックし体重をかけて抑えにかかる。しかし、これはテレスが一番力を発揮するタートルガード・ポジション。背後を取られたまま動き続けたテレスは、十八番のローリング一閃!! 

これで体をずらしてプレギウソの足下に腹這いで入り込んだテレスは、がぶってくるプレギウソを背中に乗せたまま上体を起こし、その勢いで仰向けに。両者同体でマット落ちるやいなや、瞬く間に腹這いのプレギウソの横をすり抜けて再び上体を起こし、トップを奪取してみせた。場内から割れんばかりの大歓声が沸き上がるなか、テレスが流れるような動きで両足フックを入れると、ここで試合終了。テレス流としか表現のしようがない予測不可能な一連のムーブを、執念で炸裂させた37歳のベテランが劇的な逆転勝利を飾った。

若手の台頭に押されつつもアダルト黒帯で戦い続けてきたテレスによる、誰もが驚いた世界王座戴冠劇。一昔前に、あえて相手に背後を取らせた体勢から戦う「亀ガード」という革命的なコンセプトを世に出したテレス。やがて多くの選手がテレスの亀からの攻撃を警戒し、深追いを避けることでテレスの得意技を封じた。

時は流れ、現代競技柔術の選手たちはこぞってベリンボロ等の新技術を駆使して、相手の背後を奪いにくるようになった。それはつまり、大ベテランとなりつつも最前線で戦い続けてきたテレスにとって、真骨頂を発揮できるチャンスがやって来たということなのかもしれない。

かつて脚光を浴び、そして忘れられかけていた技術が、現在の最新技の思わぬ対抗手段として浮かび上がる。そしてそれは、自らの技術を信じて長年戦い続けた者だからこそ実現できたこと。柔術&グラップリングの技術の進化と、戦い続けるファイターたちの生き様が生み出すダイナミズムの魅力を存分に味合わせてくれた、この日のテレスの奇跡だった。

■世界ノーギ柔術選手権・男子アダルト黒帯結果

【ルースター級】
優勝  カイオ・テハ(ブラザ/カイオ・テハ) 
準優勝 ファビオ・パッソス(アリアンシ)
3位  ワシントン・ルイス・リマ(GFチーム)

【ライトフェザー級】
優勝  ラエルシオ・フェルナンデス(アリアンシ)
準優勝 ハファエル・フレイタス(グレイシー・バッハ)
3位  ジェフリー・ヴィラリアル(ファビオ・サントス)
ジョアオ・オリヴェイラ・ホドリゲス(チェッキマット)

【フェザー級】
優勝   ジャスティン・レイダー  (ヒベイロ)
準優勝 オズワルド・アウグスト (ブラザ/カイオ・テハ)
3位   カーロス・エスキジート(チェッキマット)
サミール・シャントレ (ブラザ/カイオ・テハ)

【ライト級】
優勝  JT・トレス (アトス)
準優勝 マルセロ・マフラ(チェッキマット)
3位   ホドリゴ・フレイタス(グレイシー・バッハ)
AJ・アガザーム(グレイシー・バッハ)

【ミドル級】
優勝  ジルベルト・ドゥリーニョ (ジルベルト・ドゥリーニョ・アソシエーション)
準優勝 ヴィトー・エンリケ(GFチーム)
3位   レアンドロ・ロ(シセロ・コスタ)
DJ・ジャクソン(ロイド・アーヴィン)

【ミディアムヘビー級】
優勝   エドゥアウド・テレス(ブラザ/カイオ・テハ)
準優勝 フィリッピ・プレギウソ(グレイシー・バッハ)
3位   マシュー・ケヴィン(ヒベイロ)
カール・オルテガJr (グレイシー・バッハ)

【ヘビー級】
優勝  ジャクソン・ソウザ(チェッキマット)
準優勝 ルーカス・レイチ(チェッキマット)
3位   ネイマン・グレイシー(バルボーザ)
   ルイズ・パンザ(バルボーザ)

【スーパーヘビー級】
優勝  ジェイムズ・プオポロ(ヒベイロ)
準優勝 エリオット・ケリー(コアリション95)
3位   トーマス・デブラス(ヒカルド・アルメイダ)
ディエゴ・ノゲイラ(BTT)

【ウルトラヘビー級】
優勝   ラファエル・ロバトJR (ヒベイロ)
準優勝 ファビアーノ・アンドレ(チーム・クエスト)
3位    ブルーノ・クルズ(ノヴァウニオン)
ヒカルド・レゼンデ(ファイトスポーツ)

【無差別級】
優勝   ムリーロ・サンタナ(バルボーザ)
準優勝  レアンドロ・ロ(シセロ・コスタ)
3位   ジェイムズ・プオポロ(ヒベイロ)
ルーカス・レイチ(チェッキマット)

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