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【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ホドリゲス✖パク・ジュンヨン「自己否定」

【写真】乱打戦になった幾重もの要因を突き詰めていく──と (C)MMAPLANET

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たグレゴリー・ホドリゲス✖パク・ジュンヨンとは?!


──ホドリゲスはLFAからUFCと当企画で追ってきた選手です。LFAのミドル級選手権試合ではジョシュ・フレムドを「UFCへ行く」という高い意識を持って戦い右ストレートでKO。2週間後のUFCデビュー戦ではドゥスコ・トドロビッチからマネージメント力で判定勝ちを収めました。

「ホドリゲスはスタートの段階で、ペースを完全に創っていてパクが完全に吞まれています。その一方でホドリゲスは構えが良くなかったです。試合前のインタビューで『攻め過ぎてパンチを被弾するようなミスはもうしない』と慎重に戦うようなことを口にしていましたが、効かせた後に攻めたことが悪いのか──攻め方が悪かったのではないかと、この試合を見て思いました。

正しい攻めをしていれば、逆転されることはなかったでしょうし、そこも良い・悪いよりも、自分の攻めがどうだっかをしっかりと検証できているかどうか。一番大切な部分だと思います」

──しかも、慎重に行くと言っていた割には途中でパンチを被弾して、危ないシーンもありました。

「ハイ。落ち着いてペースを握って、試合をドミネイトしていく気概にパクは下がっているんです。

ただし、パクはこういうホドリゲスのようなブラジル人選手ともまた打ち合おうと前に出ることできました。ただし、そのケースで結果がどうなってきたかはもう過去の試合を振り返るまでもないです。

欧米人の100パーセントに対し、アジア人が自分の100パーセントでぶつかっても勝てない。だから相手の100パーセントを90パーセント、80パーセント、70パーセントと下げさせる工夫が必要です。自分の100で相手の100には対抗できない。あの勇敢さは素晴らしいですが、勝てないという結果が残ります」

──と同時にプロモーターが望む試合になっています。

「そこはもう私の関与できるところではないので(苦笑)。私の役目は弟子を勝たせることですから、そういう見方はできないです。ただ、そういうプロモーターに歓迎される試合になるのも、韓国人選手は相手の100に対して、自分の100をぶつけることができるからでしょうね。

これが日本人選手の場合は、相手の100が強大だと自身の100が90、80パーセントと自分から落ちて行ってしまうケースが多かったです。日本人同士の殴り合いで勝てた選手が、外国人選手と戦うと打撃戦にならない。自分の拳が強いのではなく、相手の質量が低いところで勝ってきただけなんです。

だから外国人選手と向き合うと、自分の100パーセントを出せない。これは少し話が飛躍しますが、KO負けのトラウマから、攻めることができなくなるケースがMMAでもあるじゃないですか」

──ハイ。イップスですね。

「それを弟子と話していて。どうすりゃ、イップスから逃れることができるか……他のスポーツは分からないけど、殴り合いにはその解決方法があるっていう話をしていたんですよ」

──どのような解決策が存在しているのですか。

「両手に石ころを持つんです」

──へっ?

「両手で石ころを持った時点で、イップスは直ります」

──……。

「もちろん、試合でやると反則です。イップスの選手は練習でも、当てることはできなくなっているかと思います。それに実際に石ころを掴む必要はないです。そのイメージを持つ、それだけで変わるんです」

──そうでないと、試合で石ころを握るわけにはいかないですし。

「つまり石ころを握っている──そういうイメージでいると、質量を下げないで戦えるということなんです」

──ただし韓国人選手の多くは、その必要がなく殴ることができると。

「その通りです。もともとが欧米人の満点が100点だとして、満点で90点しかないパンチを日本人選手は60点まで自分で下げてしまう。でも韓国人選手は90点のまま戦えます」

──ただし相手が100点の場合は、90点では勝てない。

「ハイ。だから面白いモノです。彼らが相手の100を90、80と下げる戦いをして、自分の90の力でいけば結果も残ると私は考えています。相手のパンチを90を落とす工夫があれば。

石ころを一つ握って殴るイメージを創る。そのためには選手も、指導者も今まで通りでないということを踏まえ、考えて稽古をしないといけないです。拳の握りから、パンチの打ち方、ミットの受け方。石を一つ握るだけで、握らないパンチとは違うわけですから。

イップスだと思われている選手が、これまでと同じ練習をしていても直らないように、外国人選手と殴り合うには、考えて練習、そして指導をしていかなければならない。それにはまず自分のやっていることを疑うこと。この自己否定が、あまりないですね。

自己否定しないと、伸びないです。強くなるには自己否定と自己破壊は欠かせない。つまりは、今の状態はどうだろうって考えることなんです。

なんだか安心するための練習が多いように感じます。それで良い人もいます。と同時に、UFCだ、海外だっていうなら練習は自己否定、自己破壊。MMAって他のスポーツと比較にならないぐらい残酷な格闘技をやっていて、気持ちの良い練習や安心するための練習では絶対に欧米人に勝てない。今のままで良いわけじゃない。そういう練習ができない臆病者がオクタゴンで戦えるとは思えないです」

──……。

「そういう部分も踏まえて、このホドリゲスとパクの試合を見なおしてほしいです。2Rにパクがパンチを振るってテイクダウンへ行く。もうケージ際でガードも、何もない打ち合いをしてホドリゲスが組みに行った。ここでダブルレッグをパクは切って、がぶります。

あそこでギロチンなんか仕掛けない方が良かったですよね。ホドリゲスの方が寝技は強いのは1Rで明らかった。あれだけ見事に攻められていたのに、テイクダウンを切ってスタンドに戻らなかったのはパクの失敗です。加えて、なぜかホドリゲスもバックグラブに入ったのに自らフックを解いて試合はスタンドに戻りました。

で、また殴り合いから先に組んだホドリゲスが、見事に払い腰を決めた。ここでもホドリゲスはバックに回りながら、寝技に固執しない。立ち上がって胸を合わせたパクが打ち合いにいきます。

ホドリゲスはパンチは重いです。本当に重い。だけど打ち方も悪く、相手とのやり取りの中でぶん殴り合いが良くない。ぶん殴ることは悪くないが、ぶん殴り方が悪い。結果的にパンチの重さで、倒しましたが危ない試合でした。

ホドリゲスは押すパンチになっていましたね。組み技の選手に多い打ち方ですね。拳銃なんかも打った勢いで、弾は貫通します。当たってから力を入れるのではなく。そういう押す打ち方をイチ・ニ、イチ・ニというリズムで打っているだけで、連打という回転運動にもなっていない。だからパンチを被弾してしまう。パンチの打ち方が悪いのに、パンチを打っている。パンチを打つことは悪くないですが、パンチの打ち方が悪い。

それでも前腕に力があり、パンチが重いです。本来は前腕に力のある人は、力んで威力のあるパンチが打てなくなります。それがホドリゲスは良い具合に疲れていて、力が入らなかった。結果的に力が抜けたリラックスした状態でパンチを当てることができました。打撃の質でいえば、どちらが勝ったか分からない試合でしたが、アレは食らえば重いです。

今後、ホドリゲスにしても、この試合で勝ったことでより上の相手と戦うことになるでしょう。そうなると彼のパンチが当たっても倒れない選手も出てくるでしょう。しっかりと打ち方を見直した方が良いと私は思います。これじゃ相手は倒れない。そういう自己否定が必要です。勝った試合直後だけに。

選手にとって一番大切なのは目の前の試合に勝つことです。そこをクリアしたからこそ、ここで自己否定──自分を見直す向上心があれば、この選手はもっともっと強くなれる、もっと怖い選手になれるはずです」

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