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【Gray-hairchives】─16─Nov.12 2016 Eduard Folayang 青木に勝利した翌日のフォラヤン

Eduard Folayang【写真】試合翌日のエドゥアルルド・フォラヤン (C)MMAPLANET

31日(日)に東京都墨田区の両国国技館で開催されるONE91「A NEA ERA」のメインで青木真也の挑戦を受けるONE世界ライト級王者エドゥアルド・フォラヤン。

両者は2016年11月11日にONE49のメインで戦い、フォラヤンは青木からベルトを奪取している。歓喜の勝利の翌日、エドゥアルドが話してくれた青木戦、そして今のONEの有り方を示すチャトリCEOの言葉に通じる──MMA哲学をフォラヤンは語っていた。

Gray-hairchives─第16弾はゴング格闘技295号より、青木真也に勝利しONE世界ライト級王者となったエドゥアルド・フォラヤンのインタビューを再録したい。


──青木真也選手を破り、ONE世界ライト級王者となってから一夜が明けました。改めておめでとうございます。

「ありがとう」

──今、どのような気分ですか。

「とても幸せだよ。色々な痛みを乗り越え、犠牲を払って手にしたベルトだからね。シンヤと試合をすることだけでも、僕にとっては夢が現実になるようなものだった。ベルトに挑戦するだけでなく、シンヤと戦うことでエドゥアルド・フォラヤンの名前を世界に知ってもらえると思っていたから。シンヤが僕との試合を同意してくれたことをとても感謝している。それに今大会だけじゃなくて、今月のファイト・オブ・ザ・ナイトだって言ってもらえて嬉しいよ」

──ならONEからボーナスを貰わないといけないですね(笑)。

「今、ウキウキしながら待っているところだよ(笑)。お願いだから、現実になってほしいね。それだけの試合をしたとも思っているからね」

──アジアのMMA史の残るイベントだったと思います。そして世界にショックを与えましたね。

「それは相手がシンヤだったからだよ。シンヤでなければ同じような勝ち方をしても、世界からは気にされなかったと思う」

──試合前の予想では青木選手有利という声が圧倒的で、試合開始直後にエドゥアルドがテイクダウンを奪われた時は、その予想は的中すると思われました。

「その通りだよね。皆が僕をアンダードッグだと思っていることは百も承知していた。フィリピンでもシンガポールにやってきても、言葉を交わした人々は『グッドラック』とは言ってくれるけど、僕が勝つと思っているとは感じられなかったからね。だからグッドラックだったんだ(笑)。でも、今回の試合前はテイクダウン、寝技と徹底的にディフェンス面を磨いてきた。マニラにあるジョン・バイロンの道場へ行って組み技の指導を受けてね」

──ジョン・バイロンとは和道稔之さんから黒帯を巻かれた柔術家ですね。

「フィリピンでは柔道家としても名前が通っているんだ。シンヤはよりハイレベルなグラップラーだろうけど、ジョンはシンヤがどのようなプレッシャーを掛けてくるのかを教えてくれた。1Rで終わると思われただろうけど、ジョン・バイロンとのトレーニングの成果が表れて本当に良かったよ。僕自身、シンヤの方が強いと思っていたし、だからこそ彼は初回から試合を終わらせに来ると予測できた。そして、その対処方法を準備して試合に臨むことができたんだ」

──つまり初回からテイクダウンをされる覚悟ができていたと。

「試合開始から、たったの30秒で倒されるのは早すぎたけどね(笑)。4分30秒はずっと我慢の展開だった。とても長く感じたけど、ジョンとの練習があったからパニックに陥ることはなかったんだ。でも彼の攻撃はタイトだったよ(微笑)。試合前からどんなに苦境に陥っても、きっと解決の糸口は見つかると信じて、ハードトレーニングを積んできた。シンヤの試合映像も繰り返し、何度もチェックした。そしてグラウンドに持ち込まれたら、そこを耐えてシンヤが一つのミスをする瞬間まで粘ろうと決めていたんだ」

──なるほど厳しい局面になることを覚悟していたからこそ、あの場面で焦ることがなかったということですね。

「そう。そして彼がミスを犯せば、フィニッシュに一気に持ち込めると信じていた」

──厳しい局面になれば乗り切ろうというのは誰もが考えることができます。でも、実際に青木選手にポジションを取られ、3度も逃れることができた選手はいません。

「さっきも言ったけど、とにかくテイクダウン・ディフェンス、そして寝技で攻め込まれたポジション、ほとんどタップ直前という状況での練習を繰り返したんだ」

──テイクダウン・ディフェンスに関してはチーム・ラカイの同門ジョシュア・パシオ、ケビン・ベリンゴンも、最近の試合で上達の跡が見られていましたね。

「チーム全体でレベルアップしている。テイクダウン・ディフェンスが向上するということは、つまりテイクダウン・オフェンス面もラカイの皆が上達していることになる。オフェンスが強くないと、良い練習ができてディフェンスも強くなれないからね。僕らのチームも敗因を追及し、ずっと弱点を克服する努力をしてきたからね。そしてチームのメンバーが個々に意識し、互いにプッシュしあってきたんだ。いつの間にか誰か一人の知識、経験をラカイの全員でシャアするようになったんだ」

──チーム・ラカイ全体が底上げされているということなのですね。

「皆で強くなるために、気持ちを合わせてトレーニングをしているからね」

──それにしても青木選手のバックマウントを逃れることができたのは驚きです。

「ホント、自分でもどうやって逃げることができたのか、あまり克明に覚えていないんだ(笑)。とにかく落ち着いて、コーナーの指示に耳を傾けていた。既に不利なポジションにいたのだから、少しでもミスをすれば極められる状況だと理解していながら、落ち着いていられたのは大きかった」

──青木選手は余りにもエドゥアルドがパワフルでコントロールし切れなかったと言っていました。当日計量もあったのですが、確かにエドゥアルドの体は青木選手より大きく見えました。

「初日に計量のタイミングを失敗して、水分値がオーバーしてしまった。1.25リットルの水を飲んで計量に臨んだけど、あと30分ぐらい前に飲んでおくべきだったんだ。そうか、僕がドライアウトしているんじゃいかって疑っているんだね」

──正直にいうとそうです(苦笑)。

「バギオでの練習を取材してもらったこともあるのに(笑)。標高1500メートル以上の街で、あれだけのハードトレーニングを積んできたんだ。もともと、僕らには生きるために体を酷使して、辛い肉体労働をしてきた先人の血が流れているしね。だから、ナチュラルに体が強くなっていると思うよ。それに普段からトレーニングの質をキープしたくて78.5キロより体重を重くしていないんだ。練習後には76キロ代になっていることもあるし、77キロだと水抜きは必要ないよ」

──なるほど。では、1Rをサバイブできた時、どのような気持ちでしたか。

「シンヤは1Rで力を使ったのに、仕留めきれなかったので疲れているように感じた。そして、彼の唇は紫色になっていたんだ。もう少し我慢したら僕の方に流れが来るぞって気持ちが高揚した。2Rにケージに押し込まれているときにヒザをボディにいれたら、彼はもっと疲れた。あれから大きな一発を入れるために角度と距離の調整に入ったんだ」

──打撃だけでいえばエドゥアルドが上。それも皆分かっていたことですし、テイクダウンを取られなくなった2Rで完全に試合の潮目は変りましたね。

「ヒザ蹴りを入れてから、シンヤは前に出て来なくなった。その前からテイクダウンの仕掛けは遅くなり、プレッシャーも弱くなっていたんだ。そして、シンヤは自分の試合ができなくて、気持ちが弱くなってきたのが分かったよ」

──3R、ヒザ蹴りを入れて上を取ると、青木選手は動かなくなりました。

「ここで試合を決めようと必死だった。でも、あそこからシンヤが組んでトップを取って来ることも考えられたから、あれでも慎重に殴っていたんだ。そうしたらレフェリーが間に割って入ってきた。『あぁ、チャンピオンになったんだ。チャンピオンになれたんだ』ってこみ上げるものがあった。『レジェンドに勝ったんだ。本当に勝てたんだ』とか、いろんな感情がわきあがってきてね。『夢じゃないよね?』って(笑)」

──とにかく最高に嬉しかったということですね。

「やったよ。ようやく長い旅の末に、目的地に到着したような気分だよ。世界チャンピオンになれたことは勿論嬉しいよ。でも、それ以上にシンヤのような世界を代表するファイターに勝てたことが本当に嬉しいんだ。なんだろう、試験にパスしたような感じかな(笑)。コーチのマーク・サンジャオ、チームメイトに感謝している。去年は精神的にも本当に厳しい1年だったから」

──まる1年、試合がなかったです。

「それも2年前の12月にマニラ大会でティモフィ・ナシューヒンに負けてからだからね……。母国であんな酷い負けを経験し、少しでも早く勝利を手にして、あの敗北を過去のモノにしたかった。それなのに全くオファーがなかった。その間、UFCがフィリピンでイベントを開催したり、僕らの国もMMAが盛り上がってきた。でも、その輪の中に僕は入ることができない。僕はもう終わってしまったのか?って自問自答の日々が続いたよ」

──……。

「実はもうMMAを引退して警察官になろうか、また高校の教師に戻ろうかって考えていたんだ。結婚もしたし」

──そこまで考えていたのですね。いや、追い込まれていたというべきか。

「でも、MMAを続けたかった。あの負けが最後の試合なんて我慢できない。人々の記憶は、失神してケージに横たわる僕になる……なんてね。もうONEで試合ができないなら、他で戦おうかとも考えたよ。でも、契約もあったしONEで戦おう、そしてMMAファイターを続けようと決めた。あの時の決心は、この勝利を得たことで間違ってなかったとホッとしている。引退せずに試合のオファーがなくても練習を続けて良かった。今からすれば、それが僕の運命だったんだよね(微笑)」

──そういう話を伺うと、こちらも幸せな気分になれます。

「今年に入ってONEとの関係は良好だし、何といってもONEの第1回大会のメインイベントで戦った人間として、ONEと共に成長できたことが嬉しい。ONEだけが大きくなって僕は過去の人間になっていたら、どれだけ寂しく感じるか。ONEも僕も我慢の時があり、この1年でパッと成長できた。とても良かったよ」

──アジア地域においてONEはMMAの発展にとても貢献しています。UFCがなかなか定着できないのとは対照的に。

「アメリカで人気があるから、そのままのやり方をアジアにもってきても、簡単にモノゴトは進まないと思う。UFCも盛り上がって、ONEも盛り上がって、アジアのMMAがより盛んになるのが一番だけど、ONEはアジアの人間のモノゴトの進め方を理解している。それはアジアのダメなところも分かっていて。そこにマット・ヒュームがアメリカのビジネスを持ち込んでいる。アジアとアメリカ流の融合がONEの武器であり、ファイターにとっては長所だと感じているよ」

──そのONEのライト級で頂点に立ったわけですね。

「この勝利の意味は大きい。同時にチャンピオンとしての責任を感じるよ。何よりも次のジェネレーションにインパクトを与える存在でありたいと思う。特に僕はアジアでMMAが広まる最初の時代にファイターとして戦うことができて、とても幸運だったと感じている。だから、これからもっとMMAが広まり、若い人たちがMMAに興味を持てるような試合をしていかなければならない」

──アジアンMMAを牽引していくと。

「特にフィリピンでは若者にドラッグが蔓延していて、そういう若者たちがMMAで結果を残せば、未来が開けると思ってくれれば嬉しい。そして、MMAに興味を持って練習をするようになれば、彼らを悪の道から遠ざけられると思うんだ」

──いや、そこまで考えているとは……。

「MMAで勝ち、生活できるようになり、社会に役立つ人間となる。ただ社会に存在するだけでなく。そんな若者たちの手本になりたい。だから、シンヤに勝てて世界のベルトを巻くことができたことは本当に意義深いんだ。MMAはトラッシュ・トークが定番になっているけど、MMAの意味合を今一度考えてほしいよ」

──どういうことでしょうか。

「MMAはミックストマーシャルアーツなんだよ。柔道、ブラジリアン柔術、テコンドー、散打、多くのマーシャルアーツをミックスしている。なら、それらのマーシャルアーツの良いところ、それぞれに存在する規範、規律をかけ合わせていかないと。テクニックばかりでなく、そういう部分もMMAは大切にしなければならない。そうすることでMMAファイターはより尊敬される存在になるはずなんだ」

──エドゥアルドはファイターは尊敬される存在でないといけないと思っている?

「MMAファイターがお金だけが目当てのアクターのように思わると……ね。殴って、蹴って、絞めることで勝敗を争っているんだから、なかなか世間に理解してもらえないよ。MMAはライフスタイルであるべきだ。僕はそう思っている」

──そのエドゥアルドの声はチャンピオンになったことで、よりアジア全域に伝わることを願っています。

「子供がいて、ただお金を渡せば良いというわけじゃない。子供には教育が必要だ。それと同じだと思うんだ。MMAも同じでビジネスだけでなく尊敬心、いたわり、礼儀、人間性が欠かせないはずだよ」

──そのような言葉が出るということは?

「そうなんだ。妻が今、妊娠5カ月で(笑)」

──おお、それはまたまたおめでとうございます。

「結婚して父親になると、何か色々と考えるようになるね」

──それが父親の務めです(笑)。ところでチャンピオンになったばかりですが、これからはエドゥアルドの声を届けるためにもベルトを保持することが大切なってきます。ONEライト級にはエドゥアルドが戦っていない日本人、安藤晃司選手がいます。そして、URCCで敗れているローウェン・タイナネスも。

「そうだね(笑)。そこに関しては、ONEが決めた挑戦者と戦うだけだから。僕に対戦相手を選ぶ権利はないし。ただ、本当に誰と戦いたいというのはないんだ。相手が決まれば、勝利を手にするために最高の準備をする。それがもう一人の日本人ファイターでも、タイナネスでも。ONEがタイナネスに挑戦権を与えようが、そうでなかろうが、僕はあの負けは忘れていない。それだけは確かだよ」

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