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【Japanese National BJJ】フェザー級優勝・杉江アマゾン大輔を巡る──人間模様

Sugie vs Kako【写真】死闘を終え、マットで大の字になった杉江と突っ伏した加古。この10分間を÷ド柔術でどのように生かすか(C) TSUBASA ITO

16日&17日(土・日)の両日、東京都大田区の大田区総合体育館にて開催されたJBJJF主催の「ジャパニーズ・ナショナル柔術選手権2016」。アダルト黒帯フェザー級で優勝した杉江アマゾン大輔を中心に、様々な人間模様が描かれていた。
Text by Takao Matsui

その瞬間、2人はしばらく動けなかった。アダルト黒帯フェザー級決勝戦。杉江アマゾン大輔は、大の字で天井を見ている。加古拓渡は、うつ伏せで目頭を押さえたまま動けずにいた。時間にして10秒くらいだろうか。いや5秒くらいだったかもしれない。長い時間のように思えた。ここが超満員の会場だったら、しばらく拍手が鳴りやまなかったに違いない。杉江は、直後の止まった時間を振り返る。

「強くなったなと思いました。終わった後、加古が泣いていましたが、しんどくて俺の方が泣きたいよと言いたかったですね(笑)。そのくらい強かったので。加古は本当の後輩だったんで、追われる立場としてはプレッシャーもあるし避けたい試合でもありました。残酷ですけど、勝負はそこで白黒ついてしまうんで。でも、逃げるわけにはいかないですから。戦うしかないと覚悟を決めて臨んだ試合でした」

杉江は初戦となった大塚博明(PSBJJ荻窪)戦で、薄氷を踏むような勝利を得ている。対して加古は、塚田市太郎(ダムファイト ジャパン)からアキレス健固めで一本勝ちを収めた。この試合を見ていた杉江は、「すごく調子がいい。この大会にかけてきているのが、分かりました。一本では決着がつかない。接戦を覚悟しました」と気合いを入れ直したという。加古は、4戦して4敗と杉江の背中を越えていない。6月の世界選手権へ向けて、世界と戦ってきた先輩越えをはたしたかったことだろう。

Sugie vs Kako 02その執念を感じたのが、ラスト2分からの攻防だった。それまで両者のポイントは、2-2の同点。アドバンでリードを許していた加古がもしかしたら、このまま加古が逃げられたかもしれない。しかし加古は、積極的にフックスイープを仕掛ける。これを読んだ杉江が潰すと、加古がバックに回りかけ、2人の腰が浮く。

すかさず杉江は投げを打ち、そのまま崩れるようにして袈裟固めのような体勢になる。しばらくしてレフェリーの手が挙がり、パスガードによる3ポイントが告げられた。加古は、「最後の2分間、ダメでした。勝てると思って、甘さが出ました」と完敗を認めた。そして越えられなかった背中を感じて、泣き崩れたのだった。

Sugie vs Kako 03「確かに勝てましたけど、勝負はちょっとした差が結果に出るだけです。実力差なんて、そんなにありません。とにかく俺は、下になった時も諦めないように、ブレないようにと思っていただけです」と杉江。誰よりも加古の実力を知っている杉江は、頼もしいライバルとの戦いを終えてそう語った。

その熱い戦いを見ていた杉江の後輩・細川顕は、「よし、自分も」と闘志に火がついたという。アダルト黒帯ライト級決勝では、気持ちの入った攻めを見せて高本裕和(ポゴナ・クラブジム東大和)から腕十字で一本勝ちを極めて頂点に立った。杉江は優勝したことでポイントを加算して世界選手権出場の権利を勝ち取ったが、あとは細川がオープンクラスにエントリーして勝てば、二人して同選手権への同時出場が決まる。だが、細川は出場を辞退する。「気力を使い果たしました」と杉江に告げて、道衣を脱いだ。

「細川とは直接話していませんが、彼が辞退したのは、きっと道場のことがあったか
らだと思います。二人して道場を空けてしまうわけにはいきませんから、気遣ってくれたのでしょう」。昨年8月にオープンしたばかりのCARPE DIEM HOPEは、杉江と細川がインストラクターを務めている。ツートップの二人が1週間も道場を空けてしまえば、たしかにその期間の指導が難しくなる。細川が譲ったと見るのが妥当だろう。細川に真意を聞くと、笑いながらこう答えた。

「いやー、満足しちゃいました。杉江さんと加古さんの試合を見て、感極まってしまいました。泣いたらダメですね。その後に、さすがにオープンの試合には出られないですよ」。今ではGSB所属の加古も細川や杉江と同じく、以前はALIVEに所属していた。今やそれぞれの道を歩むが、2歳年下の加古と細川も1年ほど吹上にあったALIVE本部での在籍期間が重なっている。

自らの柔術人生を振り返り感極まった──そのうえで道場のことを考えての辞退であることは明白だった。「こっちの世界に誘った経緯も含めて、俺は彼の人生を背負っています。これからも、もっともっと強くなってほしいですね」と、そんな細川を杉江は全面的にバックアップする覚悟でいる。細川はこの2日後、ワールドプロ柔術に出場するためにアブダビへ向かった。世界選手権に挑む杉江とワールドプロで結果を残したい細川。二人の師弟愛が、さらに発展したい日本の柔術界を救うことになるかもしれない。

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