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【Special】月刊、青木真也のこの一番:10月─その壱─カリモフ×水垣─02─「息吹と幻想のある団体」

Shinya Aoki【写真】取材前、スペインから3泊4日でビジネスで来日したホビン・グレイシーの教え子の人が、青木にプライベートを申し子申し込んでいた来ていた(C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ10月の一戦=その壱は9月30日、ACB71からルスタン・カリモフ×水垣偉弥戦を語らおう──後編。

スクランブルMMAの格闘技としての穴と、深化したスクランブルMMAの担い手がロシアから現れた現実、そして青木の食指がそそるイベントなどについて話が発展していった。

<青木真也の語ろう──水垣×カリモフPart.01はコチラから>


──寝転ぶ選択。それはスクランブルでないMMAですね。ポイント的には不利になっても、無防備な状態で殴られるのを避けるための。

「逆をいえば、カリモフがズルいのは立ってくるのを待っている。そしてどこか一点を抑えて、殴る。その威力が半端ないですし、水垣は防御ができない状況で分からないところから殴られ続けました。

ゲームでいうハメ技みたいに追い込み、反撃できないコンビネーションですよね。テイクダウン、抑えてパウンド、立ち上がり際で一点を抑えてダーティーボクシング、そしてテイクダウン。また一連の流れで殴って、ダメージが蓄積するとスタンドでKOパンチを入れて、最後はパウンドアウトする。

あのパンチの威力、テイクダウンの強さは知らべると色々と何か出てくるかもしれないというのはあっても、戦術としてアレは今のスクランブルMMAのなかで、かなり有効な戦い方だと思います。

そこがMMAの妙で、なら寝ちゃおうよと。そうすれば、あそこまで目に入らないところからのパンチは被弾しない。立ちで向かい合うと、あれだけしんどい展開になっても、寝技で我慢する展開に持ち込んで、スタミナを削るしかない。

そこを信じて、ラスト1分で勝負を掛ける。そうでもしないと、立ち上がり続けるとダメージを蓄積していくだけ。結果論ですけど、寝転んじゃえば良いんだよという、一昔前のMMAの必要性を見た気がしましたね」

──一つ、私が気になったのは水垣選手の立ち上がり方でした。

「倒されて背中を向けて立ちがあがる。今の流れですよ。そして、正面でもその場で立っていた」

──そうなのです。両足を揃えて、前足の位置で立ち上がる。防御としてのガードポジションがないといわゆる柔術立ちができていないのかと。

「その意見は格闘技として正しいと思います。寝転んで、柔術立ちをすると後ろに足を広げて、後ろ足の位置で立つので相手との距離ができる。そして、相手を見ることもできる。もちろん、その距離を詰められることも考えられるけど、無防備で殴られるわけではない。

相手が見えるからまた寝転ぶことができるし。それは格闘技として本来は正しいんです」

──身を守るという点において。

「ただし、加点競技としてのMMAを考えると、極力減点されたくない。下の状態が減点対象なら、殴られる危険を冒しても立ち上がる。故に柔術立ちの前に、ガードワークを駆使する選手が少なくなった」

──実際にMMAにおけるガードワークは必要なのですが、クローズドガードを取ると「あぁあ」となる。そしてハーフガード、バタフライガードを取るとスクランブルに持ち込むため、戦意を失っていないという風に捉えるようになっています。

「水垣はまさに、そういうMMAのなかでスプロール&スクランブルで戦ってきたファイターじゃないですか。正座をしてまでスプロールをしていた。そこで勝ってきたから、柔術立ちにならないのでしょうね」

──現行のUFCが頂点にあるMMAに長けていた水垣選手に対し、その戦いを逆手に出る選手がロシアから現れた。

「そうです。その一方で、サッカーボールや4点ヒザがあったらスクランブルMMAは成立しない。それがオーセンティック……、チャトリ(シットヨートンONEチェアマン&イヴォルブMMA代表)の言うオーセンティックなMMAですよ」

──真性MMA、本来のMMAといったところでしょうか。

「競技化されたMMAが本質的でないことは決してないですが、その潮流にあるファイトがこういう風な流れで来ているのは興味深いです。ロシアは良い意味でのガラパゴス。良い意味で、独自のMMAが発展していますよ」

──ロシアは米国で人気のあるコンバットスポーツ以外の格闘技に満ち溢れているのが強みかもしれないです。サンボ、柔道、散打、極真、防具空手、空道などなど。

ACB「空道が熱くなる。米国には絶対にないですよね(笑)。ダゲスタン、チェチェンという一応は国内と、ウズベキスタンやカザフスタンという中央アジアの独立国……、そりゃあ、怖いです。危ないヤツばかりが出て来る。

KSWACBやKSWで戦うブラジル人は、勝率が低いですからね。ACBやFEN、KSWは危なさあるけど、MMA好きからするとちょっと感度が上がります。あの辺りは青木・興味深い団体です(笑)。

Arzalet FGCArzalet FGCとか、今は活動停止したWSOF-GCとかもそう。なんか、マーチン・ヘルド的なファイターが出て来る。話は水垣の試合から違ってきますが、そういう雰囲気がONEの活動初期にはあった。息吹と幻想がある団体。そういうところは興味深い。国内だと新生GLADIATORとかHEAT。これ分かりますよね?」

HEAT──理解しているつもりです(笑)。主流と我流、主流には頂点があり、その流れにない特色のあるイベントは見ていて楽しいです。

GLADIATOR「僕はGLADIATORもHEATもプロモートをしているプロモーターの方を個人的に知らないのですが、イベントから強さに対して憧れを持っている雰囲気が感じられます」

──それは鋭い指摘です。

「僕が何か絡みたいかといえば、絡みたくないですけどね(笑)」

──アハハハ。

「でも、強さへの憧れが感じられる大会だから、話せばわかり合えると思います。日本人が強くありたいという願望の下、MMAをスポーツとしてプロモートしている。まぁ水垣の試合から全然外れてしまいましたが、UFCという主流の戦い方でやってきた水垣が、ACBという我流の場で強くなった選手に、その主流の逆を打たれた戦いで負けた。そこが非常に興味深い試合でした」

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