この星の格闘技を追いかける

【Column】Keep Walking 03

2012.03.02

Kitaoka in NJ with Jim Miller
【写真】マーチン・ルーニーの指導の下、ジム・ミラーとフィジカルトレーニングに挑む北岡悟。海外ジム巡り、ルールは食わず嫌い禁止、それだけだ。

※本コラムは「格闘技ESPN」で隔週連載中の『10K mile Dreamer』2012年2月掲載分に加筆・修正を加えてお届けしております

文・写真/高島学

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日本のトップファイターと、北米のジムを回る。刺激的である意味、非日常的。そして、最先端に触れ、技術的な部分で半端でない知識を得ることができる取材だが、彼らの強くなりたい気持ちと努力に、おんぶにだっこ状態で、自分は生業としてレポートを書く。

そんな状況に、心の折り合いをつけられないでいた僕は、最高の経験となる新たな取材の楽しみを控えることにした……。にも関わらず、半年後に北岡悟とカリフォルニアだけでなく、東海岸の3つのジムを巡る旅をすることになった。

宇野や郷野、日沖、植松らと違い、記者としてもそれほど付き合いがあったわけでない北岡が、僕と北米のジムで練習したがっているという話を人づてに聞いた時、とにもかくも断ろうと思っていた。

もう、同行取材はしないと決めていたこともあったし、これまで一緒にジムを回った選手と違い、彼はしっかりと日本の格闘技界に根を張った生き方をしている――という印象を持っていたからだ。


しかし、彼の話を訊けば、そんなファイターだからこそ、自分が知りえない事情で、苦悩するという側面を知った。そんな時、やはり人として「ノー」とは言えなかった。

こういうケースや海外から日本で練習したいというファイターに部屋を提供してきた背景には、1994年に行なった海外放浪の経験が深く影響しているのだろう。

『情けは人のためならず』という経験を、『一期一会』という状況で、数多くしてきた。身知らぬ人に受けた恩、人と人の縁で受けた恩を、その人たちに直接返すことができる機会は、稀だ。

だからこそ、自分を必要としてくれる人の役に立ちたい。僕の協力を恩と感じてくれた人が、他の誰かに恩返しをつもりで、人助けをする。それこそが人と人のつながり、『絆』の真意だと――、人として思う。

同時に、リング上で殴り合わない人間の言葉よりも、トップファイターの言葉の方が、世に伝わる。そんな二つの思いがあり、北岡と一緒にジム巡りをした。

そして、北岡が感じたことを素直に口にしてくれたおかげで、また自分はMMAをより理解し、さらに好きになることができた。北岡は、ただ試合で遠征するだけでなく、現地でトップファイターや一般クラスで汗を流すことで、より北米MMAを知り、成すべきことを考えるようになった(今から思えば、新たな重しを引きずるようになったのかもしれないが……)。

北米の現状を雑誌でプッシュすることは、日本の格闘技界を蔑ろにすることと決してイコールではない。

1995年から海外取材を始め、グラスルーツショーからSEG時代のUFC、そしてズッファUFC初期を取材してきた。その目的は将来、日本にやってくるであろうファイター達を、一足早く専門誌で紹介するべきだと考えていたからだ。有望なファイターを、来日以前に紹介し、読者に情報をインプットしてもらうのが、専門誌の仕事だ。

そんな自分の記者としての軸の部分が、2005年のUFCとその周囲を取材した時に変わった。

いずれ、MMAはUFCないし、北米中心になる――。よりスポーティなイベントが、この世界の中心になって欲しいという希望的観測を持っていたことは隠さないが、日本の格闘技界の行く末とは関係なく、米国で確固たる地位を築いたUFCが、世界のMMAの中心となると感じた。

将来的に日本で強いファイターが勝負を賭ける場はUFC、北米になる。だから、北米を知ってもらう記事が、専門誌には必要だと、この時から現地を取材する『理』が変わった。

ただし、MLBの露出の仕方のように、イチローや松井秀喜が何打数何安打だと伝えるだけでは、理解は得られない。マリナースやヤンキースの試合結果、MLBの優勝争いを伝えることで、日本人の世界への挑戦の真の姿を伝えることができるはず。

当時も今も、(軽量級では)世界の最高峰で日本人ファイターは勝てると踏んでいる。そんな僕が思う御託を誌面に並べるよりも、日沖、水垣、北岡が米国やカナダでどんな練習をして、どんな印象を持ったのかを伝える方が、より読者に北米の現状を知ってもらえる。

北米に勝つには、北米を理解し、日本らしさを練り上げること。

そのために、高島学という記者、人間が築けた信頼関係が生かせるのであれば、いくらでも生かしていきたい。恐らくは第四コーナーを回り始めた僕の記者人生、最後までこのままの姿勢で突っ走りたいと思う。

1年半に渡り、格闘ESPNで当コラムを読んでくださったMMAファンの皆さんに、このことを約束して、同コラムを終了とさせていただきます。ありがとうございました。

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